消えない思い

樹木緑

第11話 新しいクラス

「よう!おはよう!お袋さんは元気かい?」
そう言って元気良く教室に入って来たのは青木猛君。
僕とは出席番号が前と後ろの関係。
彼が1番で僕が2番目。
新学期の1か月間は少なくとも出席番号順に席を並べてある。
早くクラスメートを覚えるようにだ。

一クラスは30人形成で、男子15名。女子15名。
一学年にクラスは8ある。
1年の間は基礎教養を学ぶため、学科別には分かれていない。
2年生になると、それぞれの専門を選び、クラスが分かれる。
僕は至って普通科。一番生徒の多い学科だ。
本当は美術科を選びたかったが、絵で食べていこうとは思っていなかった。
青木君は2年生からスポーツ科に進む予定らしい。
一度専門を選ぶと、3年目は持ち上がりで、クラスが変わらない。
だから僕はこの一年間だけ、青木君とクラスメートになる。

「お前、登校早いな。」そう言って青木君が一番前の席に座る。
「僕の家はここから近いので。」と言うと、
「そうか、お前、第1中学出身だったな。いい処に住んでるな。」と青木君。
「そうですね、歩いて登校できるって言うのは便利ですね。時間とか気にしなくていいし。」と答えると、
「お前、なんでこの高校選んだの?」と聞いてくる。
両親の経験は僕だけの宝物にしておきたかったので、
「歩ける距離にあったからです。」と、適当に答えた。
「青木君はバレーボールの為ですか?」と尋ねると、
「もちろんさ、もう春休みから練習に参加してるんだぜ。ま、今はまだ球拾いだけどな。」と楽しそうだ。
「お前、美術部に入るのか?」の問いかけに、
「まだ決めていませんが、見学には行ってみようと思っています。」と答えた。
「矢野先輩、凄く人当たりの良い、柔らかい人だから、お前とも気が合うと思うよ。ガサツな俺とは違って、お前、凄い丁寧だし、礼儀正しいしな。」と褒めてくれる。
「青木君もあっけらかんとして、大雑把でいい人ですよ。」と言うと、照れたようにして笑った。

そうこうしていると、教室の扉を開いて、担任の先生が入って来た。
この学校の教師はβで統一されている。それも優秀なβで。
やはり、生徒の中に全ての第二次性が揃っている限り、教師は優秀なβでそろえた方が、何かあった時、迅速に対応出来る様だ。
少し前にΩの生徒とαの教師の間で何かがあったようで、それ以来の統率のようだ。
それゆえ、僕らの担任もβで、教室に着くなり、自己紹介してくれた。
そして僕ら生徒も、一人一人自己紹介していく。
皆大体、出身学校と、選択学科、など、簡単な自己紹介だった。

「え~では、今日からの…」
担任が教壇に立って、今日からの予定を説明している。
とりあえず、今日と明日は実力テストの予定で、学校は半日。
僕は家に帰れば、勉強する以外の予定が無かった。

「な、このクラスって可愛い子多くないか?」そう言って青木君がチラチラと後ろを向いて、コソコソと話し掛けてくる。
青木君は余り落ち着きが無いようだ。
その時不意にチョークが飛んできて青木君の頭に当たった。
「いてっ!」と青木君がチョークの当たった場所をさすっていると、
「ん~?分かったか?青木!あんまり女子ばかり見てると、大切な事も聞き逃してしまうぞ!」と早くも先生に名を覚えられ、目を付けられたようだ。
みんなクスクスと笑っている。
「先生~ 私、青木君と同中だったけど、青木君、クラブをしてない時は、眠ってるか、女の子の後を追いかけまわしていました~。要注意人物で~す。」そう言って一人の女子が大発言をした。
それでクラス中で大笑いとなり、青木君はたちまちクラス中に覚えられ、人気者になった。
彼は両手を挙げて、「まあ、まあ、まあ、まあ、落ち着き給え、君たち! ところで、来月、バレーボールの選抜試合がありま~す。俺、まだ球拾いだけど、イケメン先輩も居るので応援よろしく~!」とクラスの女子の方向に投げキッスをし、何とクラブの応援の宣伝もしている。
彼は、かなりひょうきんでもあるようだ。
クラス中が笑いの中に居る時、1限目を知らせる鐘が鳴り響き、僕たちは一日目の実力テストを開始した。
全ての試験が終わって、帰宅の準備をしてた時、
「あ、先輩、ちーす!」と青木君の声がした。
「あ、猛君、このクラスだったんだね。赤城要君を探しに来たんだけど…」
「あ、要だったらここで~す。」
声のする方を見上げると、教室のドアの処で矢野先輩が、
「やあ、要君! 君に会いに来たんだよ。」と手をヒラヒラとさせて僕に合図していた。

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