消えない思い

樹木緑

第9話 入学式2

家から学校までは歩いて行ける距離にある。
僕の住んでいるマンションは都心だが、周りには緑も多い。

建物を出て少し進むと、大きな公園が有る。
公園を真っすぐ付き抜けると、かなり近道になるので、僕はこのルートをとっている。
今は春なので、公園の至る所で桜が咲いている。
ここは花見のスポットとしても人気がある。
公園の入口は数か所あって、僕の家から近いのは、東側の入り口だ。
そこから入っていくと、すぐの処に、小さい時に良く遊んだ砂場とブランコがある。
公園の中には、子供の遊び場が数か所ある。
僕の家の近くの遊び場は砂場とブランコのみだが、他にはジャングルジムとか、もっと大きな遊び場もある。
そして家の近くの遊び場を突き抜けていくと、公園の真ん中に出る。
公園の真ん中には大きな池があって、周りにはベンチが置かれている。
大体ベンチのある所には大きな木が立っていて、夏の間は日よけになり、割と快適だ。
そして池では、アヒルや白鳥が戯れている。
池の中をのぞくと、フナや鯉などが泳いでいる。
小さい時はパンくずを持って、お母さんと良くこの公園に来て、鯉やアヒル、それから白鳥に与えたりしていた。

この公園には沢山の写生スポットがある。
中学生の時には、スケッチをしに来た。
また、良く写生している生徒もみかける。
絵を描くことは、上手ではないけど、僕は風景画を描くのが大好きだった。
儚げな色合いの水彩画が大好きで、小さい時から塗り絵も水彩絵の具で塗っていた。
それに家の至るところには、僕の描いた拙い水彩画が、「要は絵の天才だー」と豪語するお父さんの手によって沢山飾られている。
本当に親バカだ。

それから、公園を突き抜けて反対側に出ると河川敷が有る。
河川敷は、結構な人通りがある。
通勤する人、通学する人、歩いてる人、自転車に乗ってる人、ランニングしている人、犬の散歩をしている人、座っている人、それぞれだ。
また、この辺りにある小学校、中学校、高校などのスポーツクラブの集いの場ともなっているため、かなり遅くまで人がウロウロとしている。
川沿いを下っていくと、その先に僕の通う高校がある。

今日は入学式。
両親よりも早く出て、学校で落ち合うように決めている。
学校まで来ると、校門の前には立派な入学式の看板が立っている。
雨が降っている割には、その前で写真を撮っている人などが目立つ。
校門をくぐると、校舎がそびえ立つ。
割と古い学校なので、木造校舎と新築された鉄筋コンクリートの校舎が向かい合っている。
校庭は、都心の割には広く、校門からグラウンドへ続く通りで、桜が一斉に咲き乱れている。
入学式は体育館である予定だ。
体育館はグラウンド沿いを歩いて行くと、その奥に建っている。
体育館の前では、上級生らしき人達が案内役をしている。

受付に来た時、そこにいた上級生が、
「あれ? 君、公園の池の所で良くスケッチをしてたよね?」といきなり訪ねて来たのでびっく
りしてしまった。
訝しげに彼を見下ろしていると、「あーごめん、ごめん。いきなりでビックリしたよね。僕の名前は矢野浩二。
今年から3年生で、今日は生徒会長をしている幼馴染みに、受付の手伝いに駆り出されたんだ。
君のことは、学校への道のりで時々公園でスケッチをしてる所を見かけたんだよ。描くことが好きなのかな?ってずっと思ってて声を掛けたかったけど、新年辺りから見かけなくなったから、どうしたんだろう?と思ってたら、受験だったんだね。まさか同じ高校へ来るとは思ってなかったよ」と自己紹介された。
結構人懐っこい先輩の様だ。
「矢野...先輩ですか?」
「そう、矢野です。絵を描く事すきなの?」とニコニコして聞いてくる。
「あ...はい...」
「じゃあさ、僕、美術部の部長してるから、興味があったら覗きにおいでよ。うちの美術部は
備品の揃いが良いって校内で評判なんよ。きっと好きになると思うよ。」と、さっそくクラブ勧誘?されてしまった。
でも、美術部はチェックしようと思っていたので、「あ、はい、有難うございます。是非お伺いさせて頂きます。」と返事をした。
矢野先輩は嬉しそうに、
「じゃ、名前と組をお願いします。」とすっかり係員の顔に戻っている。
「はい、赤城要です。1年3組です。」と答える。
「3組、赤城要君だね。よし!覚えた!明日からは試験だから、クラブ活動はまだ休みだけど、試験が明けたら、要君のクラスまで尋ねに行くよ。」とサービス万端である。

「あ、お喋りばかりに気を取られちゃったらだめだね。もうすぐ式が始まるから講堂に行った方がいいよ。ご両親は来られてないの?」と聞いてくる。
「あ、両親はもう直ぐ着く頃だとはおもうんですが…」
そういった矢先に後ろからお母さんが、
「要~ごめん、ごめん遅くなっちゃった。パパが変な格好…」と言いかけて、先輩の存在に気付いた。
「おはようございます~ 初めまして。 赤城の母です。」とお母さんが矢野先輩に挨拶をする。
「あ、こちら矢野先輩と言って、美術部の部長をしてらっしゃるんだ。今、描く事が好きだっ
たら美術部に来ないかって誘って下さって。」と説明をすると、
「でも要…あなた…」そう言ってお母さんが横槍を入れる。
僕は少しほほ笑んで、「僕は大丈夫だよ。それより式に行かないと本当に遅れちゃうよ」そう言うと矢野先輩が、
「あ、これ、新入生のバッジ。」
そう言って僕にリボンのバッジを付けてくれた。

そこに、今朝僕が見たままのお父さんが現れた。
「要く〜ん。遅れてメンゴ!」
とちょっと時代遅れなことを言っている。
少し恥ずかしい気もしたけど、
「父です。変な人ですみません。」と紹介する。
「あ…いや…個性的なお父さんで…」と矢野先輩も、返事に困っているようだった。
「ハハハ、有難うございます。初めてそう言われました。」
そう言って僕は矢野先輩に一礼をして、両親を引っ張って講堂へ早足で進んで行った。

そこに残された矢野は一言ポツリと「なんか何処かで見た事があるようなお母さんだな。あれだけ美人だったらどこかで会っても忘れないとおもうん
だけどな~。でもそれにしてもお父さんの方は変な人だったなぁ。あれで夫婦とは捨てる神
あれば拾う神あるだな」などど呟いていた。

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