消えない思い

樹木緑

第8話 入学式

4月6日
折角の入学式なのに外はあいにくの雨。
僕は起きがけに、まだベッドに座ったまま、ベッドの隣に位置する窓から、ボーッと外を見ていたら、コンコンとドアをノックする音がする。
「要?起きてるの?」何時もの様にお母さんが僕を起こしに来た。
僕はまだボーッとしたまま外を眺めている。
超高層ビルの上層部にある僕達の家からは見晴らしがとても良い。
僕の部屋からは新しく通う事になる高校の校舎が小さく見える。
僕は外を見ながらボンヤリとこれからの事を考えていた。
そうしているともう一度ノックの音がした。
僕はハッと我に返って「うん、起きてるよ」と慌てて返事をした。
「早く支度しないと入学式に間に合わなくなるよ。朝食出来てるから着替えたら食べにおい
で。お父さんはもう朝食を終えて、要の晴れ姿を拝もうとソワソワとして待ってるよ。僕も準備
があるから何か必要なものがあったら尋ねてね」そう言ってお母さんは自分の寝室へと入っていっ
た。
まだまだ重たい目を擦り擦りベッドから抜け出し、自分の部屋の真向かいにあるバスルームへと入っていく。
一通りの準備をおえ、制服に着替える。新しい制服に身を任せると、なんだか気分が引き締まった。

僕の家の間取りは、リビング、キッチン、ダイニング、両親の寝室と僕の寝室、そして客室と、両親はもう30代なのでそれは無いかもしれないが、いつか弟か妹が出来た時のための部屋と、お母さんのバイオリンの練習部屋。こちらは完全防音になっている。
それと、家には映画鑑賞用の部屋まであり、ミニチュアシアターとなっている。バスルームと
トイレが別々で両親の部屋には専用のバスルームがあった。そこにはトイレ、バス、シャワー
そして大きなクローゼットが付いている。
キッチンは広く、カウンターはバーカウンターななっていて、そこには4人が腰掛けられるス
ペースが設けられていて、朝食や昼食、ちょっとした物を食べる時はそこに腰掛けた。
無論今日の朝食もそこに用意してあった。
カウンターに腰掛けると、後ろから「この格好は変かな?」とお父さんの声がした。
僕は振り返ったのと同時にブーっと吹き出した。
何時ものことながら、公のプライベートは両親は変装をしている。
お母さんは主に女装をし、これがまたモデル顔負けの美しさだから問題無いのだが、問題なの
は父親である。
あそこまでカッコいいのに、何故変装するとこうなるのだろう?と言うくらい変ちょこりんなの
である。
でも誰もあの蘇我総司とは見破る事ができない。蘇我総司とは父の芸名だ。
母は旧姓の如月優を名乗っている。
両親のプライベートは伏せてある為、本名を知る人は居ない。
僕は赤城要。本当にほんとの実名だ。
父の変装は、俳優慣れの物だろうが、もう少しどうにかならないだろうかと何時も思う。
ちょっと間違うと危ないおじさんのようでもある。
職務質問などされれば、変装もクソもあったもんじゃない。即座に蘇我総司だとバレてしまう。
でもそこは俳優、今まで問題になった事は一度もない。
僕は一回りお父さんの変装を見て、「別にどうでもイイよ。どうせ僕が何を言ってもそうやって来るんでしょ? せいぜい不審者と
間違われて通報されないように」
そう言うと僕は颯爽と朝食を食べ終え家を出た。

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