桜子の物語

樹木緑

第34話

「桜子様?」
ジャンが心配そうに桜子の顔を覗き込むと、「う~ん」と少し唸って桜子が目を覚ました。
数回瞬きをした後、ジャンの顔を覗き込んで、自分が今まで気を失っていたことに気付いた。
「一体、何が起こったの?あのオーブは?」
桜子はオーブが光って自分の体内に吸収されたことを覚えていなかった。
ジーンが桜子の前に屈み、桜子の体に手をかざした。
そうすると、ジーンの手が僅かに光を放ち桜子の体を包んでいった。

「何か分かったの?」
加乃がジーンの後ろに立って、その行く末を見守っていた。
「おそらく、桜子の魂とオーブが一体化したことで、桜子は魔法使いとして生まれ変わったようだ。だがまだ覚醒していない。
何が覚醒のカギとなるのかは今の所は分からない。」
そう言ってジーンは立ち上がった。
桜子は目を丸くして、「どういう事なの?」と尋ねた。
「オーブが桜子の体内に吸収されたのは覚えているかい?」
ジーンが尋ねると、
「オーブが光を放った所までは覚えてるけど、その後は思い出そうとしても光の海に沈んでいるような感覚が残っているだけで何も…」と答えた。
「あのオーブはね、私の息子、君の祖父に当たるギリアンの物だったんだ。」
桜子はこくりと頷いて、
「はい、魔法使いが亡くなった後は、オーブは次の持ち主が現れるまで此処で保管され、次の持ち主が現れ次第、その人の元へと誘われると聞きました。」
ジーンは桜子の目を覗き込んで、
「そこまでは正解だよ。普通だとね。」と答えた。
「普通だとはどういう意味ですか?」
「桜子、君に起こったことは普通では起きない事なんだよ。」
「え?」
「オーブが今まで次の持ち主の体内に吸収されたと言う事は、少なくとも私が長として魔法使い達を治めていた時は無かった。それも、50年も次の持ち主が現れなかったと言う事もね。」
「じゃあ、私の体は…?」
「大丈夫いだよ。害になる事は無い。これは古から予言されていた事なんだ。どうやら私のひ孫たちは古の魔法使いの力を受け継いだようだ…」
「じゃあマコ兄も直兄も?」
ジーンはコクリと頷きながら、
「誠は既に魔法使いとして目覚めたよ。あとは訓練と実践を重ねてパワーを確立していく必要がある。
直人は2週間後に魔法の森へ行き、あることをしなければいけない。だが私には何をしなければいけないのかは分からない。」
「私の力は?」
ジーンは首を左右に振り、
「残念ながら、桜子の力はまだ何なのか分からないんだ。」
「古代の予言書には記されていないの?」
「残念ながら、その部分が失われているんだよ。」
「そうなんだ…」

そして桜子はハッとして、
「そう言えば、奈々は?どうやったら奈々を助け出せるの?」
そう言ってジーンにすがった。
「それも2週間後に分かる。魔法の森への扉が開く時、彼らを空間の狭間から召喚する事が出来るはずだ。
だがその為には、直人が魔法使いとして覚醒する必要がある。
そして桜子、君もだ。」
「そんな~」
そう言って桜子は地にペタンと座り込んだ。

「あと2週間で一体何が出来ると言うの?私なんて、まだどんな魔法を使えるかも分からないのに!」
「大丈夫さ、必要なのは君の召喚の力なんだから。君はその力は既に備えている。後は魔法使いとして覚醒し、体内にあるオーブを通してより高い魔法を使えるようになれば、空間の狭間より召喚できるはずだ。」
そう言ってジーンは桜子の肩をポンと叩いた。

「あの…何故ギリアンのオーブでなければいけなかったのでしょうか?」
加乃がジーンに尋ねた。
「恐らく、桜子がオーブを体内に吸収し、一体化したと言う事は、前の持ち主の魔力を蓄えたオーブを吸収する必要があったんだ。
おそらくこれは古より決められていた事なんだろう。
君がここへ現れたのも、ギリアンと出会ったのも、この子たちが君の世界で生まれ出でなければいけなかったのも、全て運命だよ。」
「何故それがギリアンでなけれないけなかったのですか?」
「ギリアンが君と出会った事を私に話した時に、私は古の予言がギリアンと君を差している事に気付いた。恐らく、今となってはもう知る由もないが、ギリアンはとてつもないパワーを秘めていたんだろう。私でさえも、オーブに魔力を封じ込めて、この長い年月眠らせておくと言う事は、まず無理だろう。」
「そう言う事だったんですね。ありがとうございました。」
「君はこれからどうするのかね?君の世界へ戻るのか?」
加乃はジーンをしっかりと見据えて、
「私の大切な家族は皆こちらの世界に居ます。
たとえ危機が後ずれようとも、私はこの世界に残ります。」
そう言い切った。
その時、
「ノーラ!」
図書室の方から、確かに見知った、だがすっかり年老いてしまった懐かし顔たちが飛び込んできた。
「ペペ、リュイ…」
加乃は思いもしなかった訪問者にあふれ出した涙が止まらなかった。

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