桜子の物語

樹木緑

第29話 許可

「ねえ、お祖母ちゃん、実はね、お祖母ちゃんが出張に行ってる間、こんなことがったの。」
桜子は誠とジャンと共に、祖母である加乃の温室を尋ねている。
加乃は地方の新種の花の種の採取に行って、戻って来たばかりだった。
これから、種の冷凍保存に入るらしく、マークをしながら専用のポットに植えこんでいるところだった。

「おや、おやどうしたの?皆揃って…」
「お祖母ちゃん、実はね、異世界へ直ぐに行かなくてはいけない非常事態が発生したの。」と桜子が話し始めると、
「どういうこと?」と加乃は、はめていたガーデン用の手袋をと取って、皆をテーブルに着くように促した。

「実はね、奈々から連絡が入ったの。I TUBE に出ている人が、魔法使いのような格好していて、タイトルの見出しが、ジャンに告ぐってやつって圧があるから怪しいって。」と桜子が説明を始めると、加乃は
「まあ、まあ、まあ、まあ」と言って何だか楽しそうである。
「それでどうしたの?」と加乃が続けて尋ねると、
「それで、ジャンに見せたら、ダンテって人らしくて、それがパパにそっくりなのよ~!もうゾッとするくらい似てる。」と桜子が言うと、
加乃がちょっと考えたようにして、「そうねぇ、彼があのまま成長してたら、健吾にそっくりかもねぇ~。うん、うん、ギリアンより似てるかもねぇ。」と瞑想している。
「こんなの経験すると、俺達って本当に向こうの血が流れてるんだなって実感するよな。」と誠が言った。
「それで、ダンテは何て?」と加乃が続けて尋ねると、
「あ、はい、私のオーブを通して誠様に魔法の洗礼を行われました。」とジャンが答えた。
「あら!まあ、まあ、まあ、まあ」と、更に嬉しそうにしている。
「お祖母ちゃん、ちょっと深刻なんだけど…何がそんなに嬉しいの?私達、もう、どうしようってドキドキなのに!」と桜子が言うと、
「まあ、まあ、桜子は少し落ち着けって!」と誠がなだめた。
「それで、洗礼を受けて誠は魔法使いになったって事なのね?」と加乃が束さず言うと、
「良くご存じで…」とジャンが答えた。
「ええ、ギリアンから大体の事は聞いているので。」と加乃は説明した後、
「それで?誠は魔法使いになってどうなったの?何をする為に誠を魔法使いにしたの?ダンテは他に何を言ったの?」と加乃が尋ねると、
「大変恐縮なのですが、桜子様とご兄弟をジャラルートンへお連れする様にと…。それに、誠様は古のルナーと呼ばれる魔法陣を操る魔法を受けついだみたいで、これまでの魔法陣とその呪文が伝承されました。」と、ジャンが答えた。
「あら、まあ、ステキ!それだったら直ぐにでも行かなければ!」と加乃は乗り気である。
「お祖母ちゃん!お気楽な事じゃないのよ!パパとママに何ていったら…」
加乃はニッコリと笑って、「お祖母ちゃんに任せなさい!」と言った。

「ちょっと~お祖母ちゃん、パパとママに何を言ったの?グズグズしてないでそんな使命があるんだったら早く行きなさいって…」と桜子は少し不満げでまた、祖母の温室を尋ねていた。
「どうしたの?桜子ちゃんは異世界へ行きたかったのでしょう?何がそんなに不満なの?」と加乃が優しく尋ねると、
「私、ここで反対のバトルが開かれると思って色々と準備して考えてたのに…あまりにも呆気なくて…私の悩みの日々は何だったの!って感じ。」と、桜子は不満をぶつけて居る。
そして続けて、「で、本当にパパとママには何って言ったの?」と尋ねた。
「簡単よ。本当の事を言っただけ。」と拍子抜けな返答に、桜子は少し困惑した。
「本当にそれだけ?」そう聞き返す桜子に、
「桜子ちゃん、健吾はね、桜子ちゃん以上の異世界バカなの。自分が行きたいとさえ、言っていたわ」と加乃が答えた。
それを聞いた桜子が、「え~!パパも異世界バカ?やっぱり血の性かしら?理解が良いのもやっぱり血が騒ぐのかしら?」と真剣に考えている。
「でも、結局は行けるんだからいいでしょ?あ。それとね、桜子ちゃんたちがジャラルートンへ行く時にはお祖母ちゃんも行くからよろしくね。」と言い加えた。

「なんだ、その恵まれた環境!うちの親だったら、そんな夢物語みたいな事いってたら、俺、今頃監禁されてるわ。」と直行が羨ましがっている。
今はお昼休み。何時ものように皆校庭に集まって、お弁当を食べている時だった。
「確かに桜子の家って特殊よね。」と奈々が相槌を打っていると、
「それで、行く日は決まったのですか?」と和人が桜子に尋ねた。
桜子はコクンと頷いて、「今週の土曜日の朝。」と答えた瞬間に、誠が突然中庭に居る桜子達の所へ飛び込んできた。
学園で、誠が桜子に接触する事は滅多にない。
「やだ、マコ兄、びっくりするじゃない。一体どうしたの?」と桜子が驚いている。
「家の様子が変だ。」そう誠が言った。
「え?何?家?」と桜子は状況が呑み込めない様子でいる。
「ああ、今ジャンから映像のようなものが頭の中に送られてきた。それによると、誰かが家に侵入したようだ。今から帰るぞ!」と誠が言うと、
「ちょっと待って、ジャンってそんな事も出来るの?」と桜子が尋ねると、
「詳しい事は後だ、教室に戻っている時間は無い。兄貴には既に連絡したから家へ向かっている。俺たちは、今ここで魔法陣を開けて家と繋ぐから、お前は魔法を唱えろ。」そう言って、誠はたちまち魔法陣を空中に描いた。
そして、移動の魔法を桜子の頭の中に注ぎ込み、桜子はそれに沿って呪文を唱えた。
桜子が呪文を唱えるや否や、魔法陣が開いて、家の温室と繋がった。
魔法陣の中に誠と桜子が飛び込んだのを見ていた奈々と直行と和人もつられて一緒に飛び込んだ。
この行為は中庭に居た生徒の中で行われたので、その後学校は大騒ぎになったが、その事を、彼らは知る由も無かった。

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