桜子の物語

樹木緑

第21話 魔法陣2

祖母の”ただいま”と言う声と共に、桜子は玄関まで走って行った。

「お祖母ちゃん、帰ってくるの凄くまってたのよ!ね、ちょっとこっち来てよ。早く!」そう言って桜子が祖母の手を引いて温室へと連れていく。
「どうしたの?そんなに急いで。なにか温室に有るの?」と加乃が聞くと、
「とりあえず、見てほしいものがあるの!」そう言って桜子が祖母の手を引いて、先を急いでいる。
「ちょっと待って、ちょっと待って、桜子ちゃん、歩くの早いよ~」
「あ、ごめ~ん、凄く気が急いてて…ちょっと早足になってたわね」と、歩くペースを落とした。
「桜子ちゃんがこんなに慌ててるのってめずらしいねぇ~何時もマイペースなのに」と、祖母も桜子の性格は良く知っているようだ。
「それがね、お祖母ちゃんこれ見てよ!驚くからね!」と温室にたどり着いた桜子が祖母に、壁に描いた魔法陣を見せた。
加乃は目を見開いて、
「あら~まあ、まあ、良く描けてるわね~」と言って、
「で?見せたかったのはこれ?」と尋ねた。
そこで誠が、「実を言うとこれ、俺は、ばあさんの日記に描いてあったものだと記憶しているんだけど…ばあさんは覚えてない?」と言うと、
「そうね、私のメモ帳に描いてあったわよね。良く覚えていたわね?小さい時に見た切りだったでしょう?」と加乃が言った。
「お兄ちゃんの記憶はどうでも良いけど、お祖母ちゃんはどうやってこの魔法陣を知ったの?」と桜子が聞くと、
「昔読んだ絵本の中に描いてあった物をそのまま写し取ったのよ。」と加乃は言った。
その返事を聞いた桜子は束さず、「それ、嘘でしょ?これをしかっりと見て!!」と魔法陣に手を触れた。
そうすると、たちまち、魔法陣の縁が光り始めた。
それを見た加乃が、目を閉じて「あぁ…神様…」と呟いた。

「お祖母ちゃん、何か隠してるわね?全部話してくれるわね?」と桜子が問うと、
「そうね、あなた達も、もう色んな事が理解出来る年になったから、もう話してもいい頃だわね。」と言った後、
「ちょっと長くなるから向こうへ行って座りましょう。」そう言って、皆をソファーの方へと移動させた。
「何から話せばいいかしら?ちょっと頭を整理させてね。」そう加乃は言って、少し考え込んだ。
そしてポツリ、ポツリと話し始めた。

「私はね、少女の時期に神隠しにあってたの。」
「えっ?????神隠し?」と、皆揃って声にした。
「神隠しって…行方不明になってたって事?」と桜子が聞いた。
「そうなの。12歳の冬、両親と雪祭に行ってたの。その日は吹雪って程ではないけど、凄い雪が降っててね、偶然両親の昔の知り合いにあって、話し込んでたのね。それで、両親を待ってる間に誰かに呼ばれたような気がして、声を追って行ったら、何か音がして…その音のする方を振り向いたら…その後が分からないの。」
「分からないって、記憶が無いって事?」と桜子が尋ねると、加乃はコクリと首を縦に下ろした。
「それって初耳なんだけど、お父さん、その事、ちゃんと知ってるの?」と桜子が聞くと、加乃は首を横に振った。
「じゃ、お父さんはそのこと知らないの?」
「完全に知らない、という訳では無いね。」
「お父さんは何を知っているの?」
「私が暫く行方不明になってたことがあるってことと、その間の記憶が無いって事は知ってる。」
「何故私達には今まで話してくれなかったの?」と桜子が聞くと、
「はっきりしないことが多かったから、有耶無耶に話すよりは、何も話さない方が良いと思ったのよ。」と加乃が答えた。
「じゃ、今までは、それまでの確信はほとんど無かったってことよね?」と桜子が聞くと、
「前から同じシーンを夢に見ることがあって…今まではずっと夢だと思っていたのよ。でもあなたが魔法陣に触れ、光るのを見て、それが夢ではなく、記憶を無くしていた時の経験だと確信したの。」と加乃は答えた。
そして続けて、「時々、断片的に何か思い出そうとする事はあるんだけど、何時も頭に霧が掛かったようにして中々思い出せないの。」
「じゃ、何も分からないという事?」と桜子が聞くと、
「そうなるわね。」と加乃が答えた。
「え~それじゃ何も分からないじゃない!なぜ私だけが魔法陣に触れると光るのかなんて!」そう言って桜子が困惑している。
「それで、どうやって行方不明の後見つかったの?」と誠が聞くと、
「17歳の春、両親の家の近くで行き倒れになってるところを保護されたの。」と加乃が答えた。
「お祖母ちゃん、5年も行方不明だったの?」と桜子がびっくりして聞いた。
「計算するとそうなるねぇ」と加乃が答えた。
「じゃ、その時の記憶は?」誠が聞くと、
「私は覚えてないけど、混乱していたらしい。」と加乃が答えた。
「混乱と言うと?」と誠が続けて聞くと、
「ずっと誰かの名を読んでいたらしいけど、家族には誰の名を呼んでいるのかは、聞き取れなかったって。そして魔法がどうとか、こうとかと言っていたらしい。そして見つかった私がしっかりと握りしめていたのが、あなた達が見たノートね。」と加乃が言った。
そして桜子が目を光らせて、「お祖母ちゃん、それって神隠しでは無くって、異世界へいってたんじゃないの?昏睡の中にあっても魔法とか言ってるし…普通そんな事、経験してないと、言わないでしょう?」と興奮している。
「おまえ、こんな時に何はしゃいでんだよ!」と誠が桜子を制しようとした。
「良いのよ、あながち、真実かもしれないし…」と加乃が言うと、
「でしょう?でしょう?」と桜子がはしゃいでいる。
そんな桜子の頭をポンと叩いて、「何故そう思うの?」と誠が聞き返す。
「実はね、17歳で保護されたとき、私、妊娠していたの。」と加乃が言うと、皆が一斉に
「ええええええ~~~~~っっっ!!!!!」とびっくりしている。
「で、生まれたのがあのお父さんでしょう?もう、皆びっくりでね。外国人に攫われていたんじゃとか、外国人に囲われて逃げ出してきたんじゃ、やら、最後には駆け落ちして捨てられたとか…”何言ってんの、私、行方不明になった時12歳よ?誰が駆け落ちって?”って思ってたけどね、時折夢に見るの…後姿だけなんだけど、銀色の長い髪を後ろで一つに束ねて、知らない言葉で何かしてるところ。彼が振り向くところで何時も夢から覚めるんだけど、きっとあれがあなた達のお祖父さんね。」と言って、加乃は少し寂しそうに微笑んだ。


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