桜子の物語

樹木緑

第7話 ギリアン王城に戻る

ピキピキ、パキパキと音がした後、ウィーン、ウィーンと空気が唸って魔法陣が現れた。
そこから出てきたのは、ギリアン。
降り立った目の前に立つ人物に、
まだ火照る頬をさすりながら、「父上、只今戻りました。」とあいさつをした。

ギリアンが魔法陣から現れた場所は、城の南側にある魔法使いの長の塔。
そこに居住を構えるのは、ギリアンの父である魔法使いの長、ジーンである。
魔法使いの長であるジーンは、長と言うにはまだ若い方ではあるが、その姿には長らしい貫禄が出ている。
ジーンが身に纏うローブは、ギリアンのそれとは違い、魔力の最高色である紫に、金の糸で刺繍が施してある三重になったもので、見た感じでは重そうだが、意外と軽い。
足には、皮で出来た三分のブーツをはいており、これも魔法で加工が施してある。
ギリアンの、ただのサンダルとは大違いだ。
また、背にはマントを羽織っており、このマントは、如何なる火も、水も、凍りも、魔法さえも通すことは出来ない作りになっていた。
魔法使いの長のオーブは、バジルが二つに分かれ、無限大のシンボルをとっている。
そしてこのバジルの色は、ローブと同じ紫、最高色、つまり、専門魔法が無く、全ての魔法が専門と同様に使える。
もちろん、これは自然と身に着ける魔力ではなく、教養、訓練と鍛錬の末、身に着けられるものである。
だが、ジーンは歴代に無い希少な天才魔法使いと呼ばれ、その能力はギリアンの年の頃には既に発揮されていた。
ギリアンには、ダンテと言う兄がいたが、彼もまた強力な魔法使いだった。
父親のジーン程ではないが、彼もまた、天才と呼ばれ、将来を期待されていた。
そのようなこともあり、魔法のスキルが中々上がらないギリアンは少し焦っていた。
そんな中での、ノーラとの出会いだった。

その他魔法使いは多々居る。
殆どは専門魔法を持たない魔法使いで、そういう魔法使いはオーブを持たない。
オーブを持たないので、杖も持ち合わせていない。
彼らは、魔法使い志願者及び、志願者より進級したもので、一般魔法が使えるようになる。
ただ、オーブが無いため、専門魔法の習得は出来ず、また、彼らの魔法は強力ではない。
まず、魔法使い志願者は、魔法の洗礼を受ける。
そして、魔法使い見習いと同じように学び、訓練をし、実践をする。
10個の項目があり、それらにパスをすると、魔法使いと認められ、魔法により、彼らの魂にその証明が刻まれる。
それは全て、長であるジーンの魔法に拠って行われる。
王城に仕える魔法使いは大体、城に住んでいて、城を騎士達と守っている。
その他にも、首領が統治する大きな町にも魔法使いは配置されている。
殆どの魔法使いは自分の家に居住を構えており、朝になると、城へ集い、その日のやるべきことが割り当てられる。
見習いや、志願者は、魔法使いの師に付き学び、実践をする為、出てゆく。
また塔には、古代より予言の魔法使いに記録された予言の書や、戦いの歴史、色々な魔法の呪文など、あらゆる魔法に関することや、魔法使いが関与した出来事などが記された本が保管されている。
これらの書物は塔から持ち出しできないように、魔法が、かけてある。
書物を用いた勉強をする場合、すべての魔法使いはこの塔の図書室で本を読むことになる。
ジーンの執務室も図書室の一角にある。
また、魔法陣もこの図書室の隣に接するポータルの間に現れる。
むろん見習いで、自分で魔法陣が組めないギリアンは、すでに簡単な呪文を唱えるだけで開くことのできる、このポータルを利用している。

「父上、報告したいことがあります。」
助手のオリバーと何やら話し込んでいたジーンは、「少し待ってくれ、今オリオルからメッセージが入って来た。」と少し忙しそうに巻物を広げて何やらオリバーに指示を出している。

オリバーはジーンの補佐でかなりの強力な魔法が使え、専門は天を司る魔法、雲や雨を呼ぶことが出来、雷で攻撃をするのに対し、オリオルは予言の魔法使いで未来の予言をし、古代の予言の紐解きをする。

ギリアンはドアの横にある椅子に腰を下ろして、ジーンの用事が終わるのを待っていた。
その間すっと今朝起こった事についての思いを巡らしていた。
「ノーラか…可愛かったな…」と呟いて、イヤイヤ、違うだろと首を左右に数回振り、ほっぺをパンパンと数回叩いてジーンの方を見つめた。
そしてジーンとオリバーの話に耳を澄まして聞き取ろうとしたが、余り成果はなかった。
ただ、羅針盤が時を示したとのみ聞き取ることが出来たが、然程、気には留めていなかった。
頭はノーラとの事でいっぱいだった。

話が終わると、ジーンが歩み寄って来て、訓練はどうかと聞いてくる。
「父上、それよりも聞きたいことが…。」とジーンの言葉をさえぎってギリアンが尋ねた。
ジーンはギリアンの緊張を読み取って、「なんだい?」と尋ねた。
「もし、別の誰かが、私のオーブに触って金色に輝く、と言う事があるのでしょうか?」
その言葉を耳にした途端、一瞬ジーンの顔が歪んだのを、ギリアンは見落とさなかった。
「あるのですね。いったい、どういうことですか?オーブに関して私の知らない事がまだまだあるのでしょうか?魔法使い以外は触れるべき物ではないのでしょうか?」ギリアンが恐る恐る尋ねる。
ジーンは目を閉じて何かを悟ったような顔をして、一呼吸置き、
「誰かあなたのオーブを触り、金色に光ったのかい?」とギリアンに聞いた。
ギリアンはこくりと頷いて、
「今朝、朝露集めの魔法の訓練をしていた時に、一人の娘と会いました。名はノーラと言い、森の南にある村に住んでいると言っていました。でも、記憶をなくしていて、自分の事は一切分からないそうです。雪の中、村の夫婦に助けられたそうで、何処から来たのか、何処へ行こうとしていたのかも覚えていなかったそうです。」
ジーンは暫く考えて、
「朝露集めと言う事は、あの湖で会った、と言う事だね。」と尋ねた。
「そうです、魔法が掛けてある、あの湖です。」
「分かった。まだはっきりとした事は分からないが、何か判明したら知らせよう。あまり他言はしないように。」
「ありがとうございます、父上。それでは私は城へ行き、師に今日の報告をしてまいります。」そう言って、ギリアンは城の方へ向けて歩いて行った。
ギリアンが去った後、ジーンは椅子に座り込んで、「おお、ギリアン、これが私の只の思い過ごしであってくれれば良いが。」そう呟いて、
「オリバー、至急オリオルを塔まで呼び寄せてくれ。」と頼んだ。


          

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