ワガママな後輩彼女にフラれたら、優しい先輩彼女とお付き合いすることになりました。

三葉 空

22 萌香の告白

 萌香の家に向かう途中、

『玄関のドアは開けてあるから。勝手に入って来て』

 と、LINEで言われた。

『分かった』

 僕はそう返事をして、また歩いて行く。

 そして、萌香の家にたどり着いた。

 勝手に入って良いよと言われているけど、ちょっとためらってしまう。

 萌香の家に来るのは初めてじゃないけど……何か緊張するな。

 僕はゆっくりと、玄関ドアを開く。

「お、お邪魔しまーす……」

 僕は遠慮がちにそう言いながら、萌香の家に中に入った。

 そーっと靴を脱いで玄関から上がって……って、これじゃまるで泥棒みたいだ。

 そう自嘲しつつ、階段を上がって萌香の部屋の前に行く。

 少しドキドキしながら、僕はノックをした。

「……フーくん?」

 ややを置いて、その声が聞こえる。

「うん、僕だよ。入っても良い?」

 ドアノブに手を掛けるけど、

「あ、ちょっと待って……いま、汗をかいたから、シャツを着替えている所で……」

「えっ」

 僕はドキリとしてしまう。

 パッとドアノブから手を離した。

「そ、そっか……ごゆっくり、どうぞ」

「ありがとう、ごめんね」

 僕はドア越しに、衣擦れの音を感じて……思わず、その場から離れた。

 僕がドキドキする心臓を抱えて待つこと、しばし。

「……良いよ、お待たせ」

 部屋の中から萌香の声がした。

「は、入るよ」

 僕はまた、玄関ドアと同じように、遠慮しながらドアを開く。

 萌香はベッドの上にいた。

「フーくん……」

 どこか、しっとりした表情で僕を見つめる。

「萌香、具合はどう?」

「うん、LINEで言った通り。もう明日から、学校に行けそう」

「そうか、良かった」

「それよりも、フーくん。もっと大事な話があるでしょ?」

「あ、うん」

「こっちに来て、座って」

 萌香に手招きをされて、僕は萌香のベッドのそばに向かう。

「そうだ、これ」

 僕は手に持っていたビニール袋を掲げる。

「途中で、コンビニに寄って買って来たんだ。お見舞いのつもりで」

「ありがと、フーくん」

「えっとね、ポカリとか、ゼリーがあるよ」

「やった~、風邪に効く~。って、もう治っているけど」

 萌香は楽しそうに笑う。

「って、話が逸れた。ほらほら、フーくん、おすわり」

「だから、僕は犬じゃないよ」

 苦笑しつつ、僕は言われた通りに座る。

「……で、クラスメイトに告白されたって、本当?」

 萌香は急に声のトーンを重くした。

「う、うん。本当だよ」

「ちなみに、何て言う人?」

「山瀬みちるさん」

「山瀬……みちる……」

 萌香はその名前を噛み締めるように呟く。

「……よし、覚えた」

「何か怖いよ、萌香」

「え、何か言った?」

「いえ、何でもありません」

 笑顔で小首をかしげる萌香に、僕は軽く怯えた。

「ていうか、フーくん……すっかりモテ男だね」

「そ、そんなことはないよ」

「でも、噂で聞いているよ。やっぱり、素敵な彼女が出来ると、男としてレベルが上がるねぇ」

 萌香はくすりと笑って言う。

「そうなのかな? まあ、僕も最近、自信が持てるようになったんだ」

「どうして?」

「それは……里音さんと、キスしたから」

 僕は照れながらそう言った。

 萌香は沈黙する。

「あっ、ごめん。ノロケみたいで、鬱陶しかったよね」

 僕が苦笑しながら言うと、ふいに萌香の手が伸びた。

 そして、僕の制服のネクタイを掴むと、ぐいと引っ張る。

「えっ?」

 気付けば、萌香の可愛い顔が間近にあった。

 その吐息が僕の頬にかかって、生々しくてドキドキしてしまう。

「も、萌香……?」

 僕は彼女に呼びかける。

「……あたしの唇、どう?」

「えっ?」

「素直な感想を聞かせて」

 萌香は静かだけど、少し切迫したような声で言う。

「いや、何て言うか……ぷりっとして可愛いなって。萌香の唇って感じがする」

 僕が言うと、萌香は目を丸くして、少し距離を置く。

「フ、フーくんめ……生意気にドキっとさせてくれる」

 萌香は頬を赤らめていた。

「いきなり、どうしたの?」

 僕は言う。

「いや、その……キスの復習みたいな?」

「復習?」

「うん、そう……フーくん、里音さんと下手くそなキスしたくないでしょ?」

「それは、もちろん」

「だ、だったら、あたしで練習すれば良いなって思って……」

 僕はそんなことを言う萌香を見て、ポカンとしてしまう。

「そんな無理しなくても良いよ」

「えっ?」

「だって、萌香は早く新しい彼氏を作りたいんでしょ? ていうか、やっぱり、元カノとキスするなんて、おかしいから。ごめんね」

 僕は言う。

 萌香は顔をうつむけたまま、手の平から僕のネクタイをしゅるりと落とす。

「……ごめんね、フーくん」

「あ、良いんだよ。萌香にはいつも――」

 ふわりと、唇が柔らかく包み込まれた。

 僕の思考は一瞬にして停止する。

「……も、萌香?」

 僕の目の前で、自分の唇に触れて、頬を赤らめる萌香がいた。

「……やっと、フーくんと、キスが出来た」

 萌香は目を潤ませて言う。

「付き合っている時も、こんな風に自分からすれば良かった」

「萌香、どうして……?」

「まだ分からないの?」

 萌香は目から涙をこぼして言う。

「あたし、今でもまだ……フーくんのことが好きなの」







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