ワガママな後輩彼女にフラれたら、優しい先輩彼女とお付き合いすることになりました。

三葉 空

21 いきなりじゃないよ

 ここ最近、自信をつけていた僕だけど。

 今はさらに自信を強く持つようになっていた。

 里音さん……まさか、Fカップどころか、Hカップだったなんて。

 グラドル級だ。それでいて、美人で頭が良くて優しくて可愛らしくて。

 そんな素晴らしい人が、僕の彼女で。

 僕のことを大好きと言ってくれる。

 これはもう、自信を持つ他ない。

 前は僕で良いのかな?って自嘲気味だったけど。

 今は誰に聞かれても、堂々と答える。

 里音さんは僕の彼女だって。

「小鳥遊くん」

 そばで女子の声がした。

「ああ、山瀬さん。どうしたの?」

「今日のお昼休みって、ちょっと時間あるかな?」

「どうしたの?」

「あのね、美化委員の仕事のことで、先生から頼みごとをされて……小鳥遊くんと一緒にして欲しいって言われたんだけど……」

「あ、そうなんだ……うん、分かった」

「ありがとう。お昼ご飯を食べてからで良いよ」

「うん。軽めにサッと済ませるね」

 僕が言うと、山瀬さんはニコリと笑う。

「じゃあ、お昼ご飯をすませたら、花壇の所に来て。よろしくね」

 そして、小さく手を振って自分の席に戻って行った。

「山瀬ってさ」

 ふいに、鎌哲が言って来る。

「ん?」

「結構かわいいよな。どちらかと言うと、大人しい方だけど」

「そうだね。性格も真面目だし」

「一年の頃から、男子たちの間でも評判が良かったんだよ。けどまあ、良い子だからみんな逆に手を出さない雰囲気があって」

「へぇ、そうなんだ」

「って、余裕の構えだな、絶好調の史くんよ?」

「うん、そうだね」

「少しは否定をしろよ、バカ~!」

 鎌哲が僕の肩を叩いて来るけど、くすぐったい程度だった。



      ◇



 迎えた昼休み。

 僕はサッと購買のパンでお昼ごはんを済ませると、山瀬さんに言われた通り、花壇の所にやって来た。

「あっ」

 先に来ていた山瀬さんが振り向く。

「ごめんね、待たせちゃった?」

「ううん、いま来たところだよ」

「そっか」

 僕らは微笑み合う。

「それで、先生に頼まれた仕事って何かな? 花壇の手入れ?」

 僕は尋ねる。

 すると、なぜか山瀬さんは沈黙した。

「山瀬さん?」

「…………嘘なの」

「えっ?」

 山瀬さんは両手をきゅっと握って、僕を真っ直ぐに見つめる。

「小鳥遊くん」

「あ、はい」

「好きです」

 山瀬さんは言った。

 僕は一瞬、ポカンとしてしまう。

「……えっ?」

 目を丸くする僕の前で、彼女は唇を噛み締めて、尚も真っ直ぐに見つめて来る。

「い、いきなりどうしたの?」

「いきなりじゃないよ」

 山瀬さんは柔らかくも強い口調で言う。

「高校に入学して一緒のクラスになった時から、私はずっと小鳥遊くんのことが好きだったの」

「そ、そうだったの……?」

 僕はまだ呆けたまま答えてしまう。

「もちろん、小鳥遊くんに素敵な彼女がいることは分かっている。けど、もうこの気持ちを押さえておくのは無理だったん」

 山瀬さんは胸に手を置きながら、切実な瞳で訴えて来る。

「……ありがとう、山瀬さん」

 僕は言う。

「でも、ごめん。僕は、里音さんのことが好きだから。大切な、彼女だから」

「……そっか。そうだよね」

 山瀬さんは顔をうつむける。

「……でも、好きだよ」

「山瀬さん?」

 彼女は顔を上げる。

 もっと、暗い顔をしていると思ったけど……

 その表情は、とても晴れやかだった。

「だから、これからも伝え続けるよ。わたし、小鳥遊くんのことが……ううん、史のことが好き!」

「えっ! ふ、史……って」

「えへへ、呼び捨てにしちゃって。でも、良いよね。同級生なんだし」

 山瀬さんはニコッと笑う。

「ごめんね、史。貴重なお昼休みの時間を取らせちゃって」

「あ、いや、そんな……」

「じゃあ、また」

 山瀬さんは僕の背中を向けてスタスタと歩き出す。

 けど、途中で立ち止まり、顔だけ振り向く。

「好きだよ、史」

 爽やかに、ニコリと言ってのけ、彼女は去って行った。

 その場に一人残された僕は、しばし呆然としていた。

 やがて、意識が回復して来ると、おもむろにスマホを取り出す。

『萌香、風邪の具合はどうかな?』

 メッセージを送ると、すぐに返事があった。

『もうバッチリ治ったよ(^^)v 明日から、また学校に行くね』

 それを見て、僕はホッとする。

『良かった。あのさ、病み上がりの所で申し訳ないんだけど……』

『どうしたの?』

『ちょっと、相談に乗って欲しいことがあるんだ』

『言ってみ?』」

『実は……クラスメイトに告白されたんだ』

『…………はぁ!?』

 文面からも萌香の驚愕の表情が伝わって来た。

『それは、フーくんに彼女がいると分かった上で?』

『うん』

 すると、萌香はしばし、沈黙していた。

 やがて、またメッセージが届く。

『今日、学校が終わったら、速攻であたしの家に来て』

『えっ? いや、でも、風邪が治ったばかりでしょ? 安静にしていた方が良いんじゃないかな……』

『良いから、来るの!』

 目の前に萌香がいないのに、僕はビシッと背筋を正してしまう。

『了解しました』

『うむ。気を付けて来なさい』

 そこで萌香とのやり取りは終わった。

 僕は青空を見上げる。

「……これは里音さんに言えないもんなぁ~」

 額に手を置いて、深くため息を漏らした。







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