ワガママな後輩彼女にフラれたら、優しい先輩彼女とお付き合いすることになりました。

三葉 空

18 交錯する想い

 里音さんとキスをしたあの日から、僕の日常は変わった。

 今まで見ていたはずの風景が違って見えるというか。

 何だか、自分の内から自信が湧き上がって来る。

「え、マジかよ!? 史が一番!?」

 中間テストの結果が返って来た日。

 みんなが『点数どうだった?』『ダメだった~』とか言い合って盛り上がっていた時。

 席に座って一人結果を眺めていた僕の背後から、鎌哲が叫んだ。

「えっ、本当かよ?」

「見せて、見せて」

 鎌哲があまりにも大声で言うものだから、他の男子たちも寄って来る。

「うわ、マジだ。ウチのクラスの優等生たちをごぼう抜きじゃんか」

「史、すげぇ~」

「やるな~!」

 みんなが感心したように言ってくれる。

「いや、たまたまだよ」

 僕は苦笑しながら言う。

「やっぱ、アレかな~。美人で頭の良い彼女さんが勉強を教えてくれているのかな~?」

 鎌哲がおどけて言うと。

「あれ、史って彼女がいるんだっけ?」

「そうそう。3年の鈴原先輩」

「マジかよ! あの清楚な美人でおまけに巨乳の!?」

「推定Fカップのあの巨乳で何の勉強をしているんだ、史ぃ~!」

 男子たちが一斉に僕に詰め寄り、襟首を掴んでぐわん、ぐわんと揺らす。

「ちょっ、みんな、落ち着いて!」

「ちなみに、こいつの元カノ、あの萌香ちゃんだから」

「「「なぬっ……!?」」」

 すると、男子たちの目がより一層、暗くギラつく。

「何でこんな腑抜け野郎がモテるんだよ」

「そうだよ。この天然ジゴロが!」

「地獄に落とすぞ!」

 すっかり暴徒と化した男子たちが僕を締めようとする。

「ちょっと、男子ぃ。みっともない真似はよしなさいよ」

「「「へっ?」」」

 いつのまにか、クラスの女子たちがそばに来ていた。

「そうよ、そうよ。自分たちがモテないからって、嫉妬は醜いし」

「本当にそれよね。恥ずかしくないのかしら」

「「「ガーン!」」」

 それまで黒い執念に燃えていた男子たちは、女子たちの容赦ない言葉で白く灰となった。

 そんな彼らを捨て置き、

「ねえねえ、小鳥遊くん。すごく、頭が良いんだねぇ~」

「えっ? いや、そんなことは……」

「今度、あたしにも勉強を教えてよ」

「あ、抜け駆けはズル~い。わたしも」

 今度は女子たちが僕に詰め寄って来る。

「ていうか、小鳥遊くんって、何かちょっとたくましくなったよね?」

「えっ? ああ、体も鍛えているから」

「すごいね~! どうして、そんなに頑張るの?」

「それは……少しでも、里音さんにふさわしい男になりたいから」

 僕は照れながらもそう言った。

「「「きゃ~!」」」

 女子たちが沸きたつ。

「良いな~、それ。今のポイント高め」

「だよね~。彼女のためとか、一途でキュンキュンしちゃう~!」

「しかも、今年の1年で一番かわいい萌香ちゃんと付き合っていたんでしょ?」

「うんうん、モエカスは可愛いよ~。あたし、同じ放送委員会だけど、喋りも美味いし」

「モエカスとか、あだ名ひどすぎるでしょ。『燃えかす』みたいじゃん」

「うん、だからメッチャ怒られた~」

 女子たちがケラケラと笑っている。

 僕はそんな彼女たちをぼんやりと見つめながら、萌香のことが頭に浮かんでいた。



      ◇



 昼休み。

 僕は1年の教室にやって来た。

 下級生だけど、違う学年の教室を訪れるのは緊張してしまう。

「あ、ちょっと良いかな」

 僕は教室の入り口付近で、お弁当を食べていた女子に声をかける」

「あ、はい。何ですか?」

「もえ……天木萌香さんはいるかな?」

「萌香ですか? 今日はお休みですよー」

「えっ?」

「あれ、この人って、よく萌香ちゃんと一緒に居る人じゃない?」

「確かに……あっ、もしかして……萌香の元カレさんですか?」

 ギクリとする。

「やっぱり、そうだよ~。あの、萌香と何かあったんですか~?」

「いや、それは……あはは、何でもないよ。ありがとう、ごめんね~」

 僕は早口でそう言って、萌香のクラスから走り去る。

「はぁ、はぁ」

 息を切らせて人気のない廊下までやって来る。

 そして、スマホを手に取って、萌香にメッセージを送る。

『休んでいるって聞いたけど、大丈夫?』

 返事はたぶん、すぐに来ないだろうなと思ったけど……

 ピロン♪

「あっ」

 僕はスマホの画面に目を落とす。

『フーくん、わざわざ心配してくれてありがとう。ちょっと風邪を引いちゃっただけ。あたしは平気だよ(^^)v』

 萌香のその文面を見て、僕はホッとする。

『そっか。放課後、お見舞いに行こうか?』

『良いよ、そんなの。それよりも、ちゃんと里音さんとの時間を大切にするんだよ?』

『うん、分かった。辛かったら、遠慮なく連絡してね』

『ありがとう、フーくん』

 そして、僕は萌香とのやり取りを終えた。

「萌香、大丈夫かな」

 僕はスマホを片手に、彼女のことを考えていた。



      ◇



「ねえねえ、最近の小鳥遊くん、良い感じじゃない?」

「そうだよね~。ていうか、あの美女と美少女と付き合った経験アリとか、すごいよね」

「美女とは現在進行形でしょ。なに、あんた狙ってんの?」

「だって~、恋は奪い合いでしょ~? 遠慮なんてしていたら、後悔するだけよ」

「確かに~」

 昼休み、イケてる女子のみんながそんな会話をしているのが聞こえて来た。

「みちる、どうしたの? ボーっとしちゃって」

「へっ? あ、いや、何でもないよ」

 友達の佳子かこちゃんが言うので、わたしは慌てて答える。

「でも、小鳥遊くんの株が急上昇だねぇ~」

「うん、そうだね」

「でも、みちる。良いの?」

「何が?」

「だって、みちるは、小鳥遊くんのこと、好きでしょ?」

 佳子ちゃんが耳元で囁くと、私は小さく目を丸くした。

「……何だ、バレていたのか」

 わたしは小さく舌を出す。

「小鳥遊くんには、素敵な彼女がいるから。奪うなんて、申し訳ないよ」

「良い子だね、みちるは」

 佳子ちゃんは言う。

「ありがとう。でもね……ここ最近、ずっと胸の高鳴りが止まらないの」

 わたしは胸に手を置いて言う。

「高校に入学して出会った時から、小鳥遊くんにはずっと彼女が居て、私なんかが割って入る隙が無かったの」

「うんうん」

「だから、ずっと片想いでも楽しいし、良いかなって思っていたんだけど……」

 キュッと胸の前で手を握り締める。

「……わたし、そんなに良い子じゃないよ」

「そっか……まあ、頑張りなよ。骨は拾ってやるから」

 わたしよりも小柄な彼女は、そんな男前なことを言ってくれる。

「ありがとう、佳子ちゃん」

 私は彼女に微笑みかけながら、小鳥遊史くんのことを想っていた。







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