ワガママな後輩彼女にフラれたら、優しい先輩彼女とお付き合いすることになりました。

三葉 空

17 がんばることの大切さ

 今の僕を動かしているのは、決して立派な感情じゃない。

 ただ、大好きな彼女とキスをしたい。

 それだけのために、必死に勉強をしていた。

 里音さんとキスをするために。

 里音さんもまた、僕とキスがしたいと言ってくれた。

 だから、次こそ絶対に100点を取るんだ。

「……あ、そういえば」

 僕はノートに走らせていたペンを止める。

 ここ数日、萌香と会話をしていないな。

 昼休みも、里音さんのテストで100点を取るまでは、勉強がしたいと言ったら、

『がんばって』

 と、あっさり承諾してくれた。

「もしかして、萌香……新しい彼氏が出来たのかな?」

 だとすれば、それは喜ばしいこと。

 あとは、僕がきっちりと目標を達せるするのみだ。

「よーし、がんばるぞ~!」

 僕は改めて気合を入れ直して、ノートにペンを走らせた。



      ◇



 これで里音さんのテストを受けるのは7回目。

 里音さんが用意してくれたご褒美は、一通り味わった。

 キス以外。

「じゃあ、史くん。始めるよ?」

 里音さんがスマホのタイマーをセットする。

「お願いします」

 僕が言うと、里音さんは微笑む。

「今日こそ絶対、里音さんとキスをします」

「う、うん。がんばって……」

 里音さんは頬を赤らめながら、

「じゃあ……始め」

 そして、決戦の火ぶたが切って落とされた。



      ◇



 採点をしている間、僕はじっと正座をして待っていた。

 やるべきことは、全部やった。

 あとは、潔く結果を待つのみ。

「……終わったよ」

 里音さんは赤ペンを止めた。

 僕は彼女に振り向くと、ゴクリと息を呑む。

「じゃあ、結果を発表しても良い?」

 ドクン、と心臓が跳ね上がる。

「お、お願いします」

 僕が言うと、里音さんは真剣な表情のまま見つめて来た。

「今回の史くんの点数は……」

 ドクン、ドクン、ドクン、と。

 心臓が早鐘はやがねを打つ。

 里音さんは顔をうつむけた。

 ま、まさか、またダメで……

 ぺらっと、彼女がこちらにテスト用紙の表側を向けた。

「……あっ」

 花丸で囲まれていた。

 100点という数字が。

「や、やった……やったぞ……」

 僕はつい声が震えた。

「おめでとう、史くん」

 里音さんが言ってくれる。

「やばい、メチャクチャ嬉しいです。何て言うか、最初は里音さんのご褒美だけが目当てで、テスト受ける直前も、里音さんとのキスのことしか頭に無かったけど……嬉しいです、テストで良い点数が出来て。こんなに勉強を、何かをがんばったのは、久しぶりだったから」

 必死に語る僕の話を、里音さんは優しい笑顔で聞いてくれる。

「あ、じゃあ、里音さん……」

 僕が彼女のそばに寄って、肩に触れると。

「ふ、史くん……」

 急に、ドキリとした顔になって、

「……里音さん、可愛い」

「い、言わないで……照れちゃうから」

「僕、やっと、里音さんとキスが出来るんですね?」

「うん。私も……ずっと、待っていたよ?」

「里音さん……」

 僕は両手で彼女の肩を掴む。

「い、良いですか?」

「う、うん。来て……」

 里音さんはすっと目を閉じる。

 間近で見ると、本当にきれいな人だ。

 やはり、こんな人が僕みたいな大したことない男の彼氏なんて……

 いや、違う。

 僕だって、頑張れば出来るってことは照明できた。

 だから、これからも努力して、成長して……

 いつか、本当に里音さんにふさわしい男になって見せる。


 固い決意を抱いて重ねた唇は、驚くほど柔らかくて。

 ほんの一瞬だったけど、彼女の全てが伝わったような気がした。

「……さ、里音さん」

「……しちゃった、史くんと……キス」

 里音さんは唇に手を添えて、はにかんだように微笑む。

 その顔が可愛すぎて、僕はうなだれた。

「……ヤバい、嬉し過ぎて、死にそうです」

「もう、大げさなんだから」

 里音さんは微笑む。

「里音さん。僕、これからはご褒美とか関係なしに、里音さんと一緒に勉強をがんばります。そして、いつかもっと、里音さんにふさわしい男になってみせます」

「うん、楽しみにしているね」

 僕と里音さんは手を重ね合って、お互いに笑い合っていた。



      ◇



 その晩、届いたメッセージ。

『萌香に一つ、報告があります。僕、里音さんとキスしたよ』

 軽いスマホが、ずしりと重く感じた。

『最近、あまり話せてなかったけど。萌香はどうかな? もしかして、新しい彼氏とか出来たのかな? だとしたら、僕は嬉しいよ』

 そのメッセージに対して、適当に返事をすると、机に置いた。

 あたしはベッドに寝転がる。

「……やっぱり、邪魔をするべきだったかな」

 でも、出来なかった。

 一生懸命に頑張る彼の横顔を見ていたら……

 あれ、何だこれ?

 あたしは目にジワリと浮かぶ涙を拭う。

「……くそ、フーくんと先に付き合ったのは、あたしだったのに」

 こんなことなら、あの1年間、フーくんをのんびりと甘やかさず。

 あたしの方から、荒療治でも強引にキスをすれば良かった。

 けど、もう過ぎた時間は戻って来ない。

 今のあたしは、フーくんの元カノ。

 そして、キスは今カノさんとしてしまった。

 だから、もう用済みなのかもしれない。

「……フーくんのバカ、フーくんのバカ、フーくんのバカ」

 涙をこぼしながら、彼に対する愚痴をこぼすけど。

 分かっている。

 一番バカなのは、あたしだ。







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