ワガママな後輩彼女にフラれたら、優しい先輩彼女とお付き合いすることになりました。

三葉 空

15 彼女とキスをする前に……練習しておく?

「史、目玉焼きは半熟と完熟どっちが良い?」

「半熟で」

 朝ごはんを食べる時も。

「こら、ジョン。ハシャがないの」

「ワン!」

 登校する時も。

「おい、史。この前、二人して手に入れたエロ本のことだけどさ~」

「あー、はいはい」

 教室で親友と喋る時も。

 そして……

「……ねえ、フーくん。ちゃんと、あたしの話、聞いてる?」

 屋上のベンチでとなり合って食べていた萌香が、ジロッとした目を向けながら言う。

「うん、聞いてる、聞いてる。昨日のドラマの話だよね? ごめん、僕は見てないんだ」

「ちがーう! もう、全くもって聞いてないじゃない」

 萌香はプンスカしながら言う。

「ていうか、何でそんな熱心に教科書を読んでいるの?」

「今度、テストがあるから」

「ああ、中間テストのこと? でも、まだ2週間も先でしょ?」

「いや、今日だから」

「はっ? いやいや、何を言ってんの?」

「そんな中間テストよりも大事なテストが、僕にはあるんだ」

 すると、

「もしかして……里音さんが関係している?」

「さすが、萌香。鋭いね」

「ちょっと、説明してよ」

「実は、里音さんと一緒に勉強をしているんだ」

「そうなの?」

「うん。ほら、里音さんは受験生でしょ? だから、他のカップルみたいにいっぱいデートは出来ない。けど、一緒に勉強をすれば、もっと一緒にいられるって……里音さんが誘ってくれたんだ」

 僕が言うと、

「なるほど……さすがね、里音さん……それがあの人の本気か」

「えっ?」

「ううん、こっちの話。で、里音さんが、テストでも作ってくれるの?」

「そうそう」

「もしかして、それで良い点数を取ったら、里音さんからキスのご褒美がある……なんてことないよね~? あはは」

「よく分かったね。100点を取ったら、キスが出来るんだ」

「はい?」

 萌香の顔が露骨に歪む。

「ほら、この前は萌香が来たからキスが寸止めになったでしょ? 僕、今度は絶対、里音さんとキスがしたいんだ」

「へ、へぇ~」

「でも、里音さんもそんなに簡単な問題は出してくれないよ。だから、昨日は40点台しか取れなくて……でも、それも自分を成長させる良い機会だと思って、乗り越えようと努力しているんだ」

「それは立派な考えだけど……結局は、里音さんとキスがしたいっていう、エッチ思考から来るものでしょ?」

「うん、そうだね」

「少しは否定しなよ」

「だってさ、里音さんの唇って何かこう、上品なんだけど、ぷるんとした可愛らしさもあって……僕、絶対にキスがしたいんだ」

「へぇ~……」

 何か萌香の顔から気力が抜けて行くように見えるけど、僕は気にしない。

「ねぇ、フーくん」

「何だい?」

「あたしと付き合っている時も、あたしとキスをしたいって、思ってくれていた?」

「えっ? そ、それは、もちろん。だって、萌香の唇はとてもチャーミングだから」

「ふぇっ?」

「普段は賑やかによく喋るお口だけど、ふとした時に大人しくなって、僕を見つめるその様が……何かエロチックだったよ」

「そ、それは……フーくんからのキスを誘っていたの」

「そっか、ごめん……あの頃の僕に、そんな度胸は無かったから」

「知ってる……じゃあ、今はどうかな?」

「萌香?」

 ふいに、萌香が真剣な表情で僕を見つめて来た。

「ねえ、フーくん。もし、フーくんがそのテストで100点を取って、里音さんとキスする権利を得たとするじゃない?」

「う、うん」

「でも、その時も肝心の勇気が湧かなかったら、もったいないよね? また、せっかくのチャンスを逃すなんて」

「そ、そうだね」

「だから、さ……今からちょっと、キスの練習しない?」

「はっ? いやいや、それは……」

「フーくん。これも恋愛指導の一環だよ」

 萌香は薄らと頬を赤らめながら、僕を見つめる。

「大丈夫、そっと唇を付けるだけ。あくまでも、練習だからね」

 なぜだろう?

 萌香の囁き声が甘く聞こえて来る。

 すると、僕の理性も溶かされてしまいそうになる。

「ダ、ダメだよ、萌香」

「どうして? 練習なのに?」

「例え、練習だとしても……僕らはもう、恋人じゃない訳だし」

「むっ」

「萌香は元カノな訳で」

「むむっ」

「僕の今の彼女は……里音さんなんだ」

「むむむっ!」

 何か段々と、萌香の顔が怖くなって行った。

「フーくんのくせに、ハッキリと言いやがって」

「言いやがってって……口が悪いよ?」

「だって、仕方ないでしょ? ムカつくんだもん。あたしの時も、それくらい必死に想ってくれれば……」

 萌香は言いかけて、口をつぐむ。

「萌香?」

「……仕方ない、別の練習方法にするか」

「別のって?」

「フーくん、聞いたことない? 手を開いた状態で、親指に少し力を付けて寄せると、膨らみが出来るでしょ?」

「ああ、そうだね」

 僕は自分でやって確かめる。

「それって、割と人の唇の柔らかさにそっくりらしいから」

「へぇ」

「それを里音さんと唇だと思って、練習したら良いんじゃない?」

 萌香は言う。

「……萌香」

「何よ?」

「君って、たまに変なこと言うよね。そんな変態みたいな真似、出来ないよ」

 僕は笑って言う。

 すると、ピキリ。

 と何か不穏な音がしたような気がした。

「ねえ、フーくん。ビンタしても良い?」

 萌香は笑顔のまま言う。

「えっ、何で?」

「ムカついたから」

「いやいや、普通にやめてよ」

「じゃあ、選ばせてあげる。あたしとキスをするか、あたしにビンタをされるか」

「それは……じゃあ、ビンタしても良いよ。僕に恨みもあるみたいだし」

「そう、潔いんだね」

 萌香はそう言って、ビンタの構えを取る。

 僕は目を閉じた。

 直後、強い衝撃が頬を打つと思ったけど……

 ふわり、と撫でられた。

「……えっ?」

 僕がふっと目を開けると、萌香は薄ら微笑んでいた。

「ちゃんと、里音さんとキスするんだよ」

「え、良いの?」

「良いも何も、さっきフーくんが言ったように、あたしは元カノ。だから、フーくんが今カノの里音さんを選ぶのは当然だもん」

「ありがとう」

「でも、気が向いたらいつでもキスして良いよ。あたしの唇、フーくんのために取っておいてあげるね」

 萌香は人差し指を唇に添えながら、笑って言った。

「い、良いよ、そんなの。萌香も、早く素敵な彼氏を作って、その人とキスしてよ」

「やっぱ、ビンタしようかな」

「何で!?」

「冗談だよ、おバカなフーくん」

 萌香はくすくすと、楽しそうに笑っていた。







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