ワガママな後輩彼女にフラれたら、優しい先輩彼女とお付き合いすることになりました。

三葉 空

14 念願のご褒美タイム?

 思えば、里音さんとの付き合いは長いけど、里音さんの家に来るのは初めてだ。

「どうぞ、上がって」

「お、お邪魔します」

 今さらながら、僕はドキドキしてしまう。

 人の家に来ると、普段とは違う匂いを独特に感じたりするものだけど。

 里音さんの家の匂いは……ほのかに良い香りがする。

「じゃあ、私の部屋に行きましょう」

「へっ?」

「あ、リビングの方が良い?」

「いえ、ぜひとも、里音さんのお部屋に行きたいです」

 僕が慌てて言うと、里音さんはくすりと笑う。

「ふふ、可愛い」

「へっ?」

「あっ……な、何でもないの」

 里音さんは少し誤魔化すように言って、階段を上ろうとする。

 その時、僕の脳内で響く声があった。

 ――階段を上がる時は、男の子が先に行くの! スカートの中が見えちゃうでしょ?

「さ、里音さん! 僕が先に上ります!」

「へっ?」

 目を丸くする里音さんを見て、僕はしまったと思う。

 確かに、萌香の教えは正しい。

 けど、全ての局面で使用できる訳じゃない。

 ていうか、ここは里音さんの家だし。

 ああ、変な奴って思われて、嫌われちゃうかな……?

「ふふふ」

 けど、里音さんはまた笑ってくれた。

「前から思っていたけど、史くんって天然よね」

「えっ? そ、そうですか?」

「だから、可愛いなって」

「あ……ありがとうございます」

「ほら、早く行こう?」

 笑顔の里音さんは、僕の手を引っ張ってくれる。

 何か色々と情けないな、僕。

 階段を上って二階に行く。

 里音さんは自分の部屋のドアを開けた。

「どうぞ」

「お、お邪魔します」

 僕はまたそう言って、そろーっと里音さんの部屋に入る。

「あっ……」

 僕はつい声を漏らしていしまう。

 何て言うか……里音さんの匂いが……いやいや、僕は変態かよ。

「きれいですね」

「へっ?」

 里音さんが少し裏返った声を出す。

「あ、お部屋が、だよね?」

「まあ、そうですけど……やっぱり、きれいな人は、部屋もきれいなんだなって」

「ふ、史くん……」

 里音さんは頬を赤らめる。

 僕も自分で言って、恥ずかしくなってしまった。

「ど、どうぞ、座って」

「は、はい」

 僕と里音さんは腰を下ろす。

「じゃあ、早速だけど。勉強を始めても良いかな?」

「お願いします」

 僕はぺこりと頭を下げる。

「あっ、教科書を持って来てないんですけど……」

「大丈夫よ。私が用意しているから」

 里音さんは立ち上がって、勉強机の所から教科書とノートを持って来た。

「今日は数学で良いかな?」

「あ、はい。正直、ちょっと苦手ですけど」

「大丈夫。私が教えてあげるから」

 里音さんは微笑む。

「頼もしいです」

「うふふ。始めましょう」



      ◇



 こんな風にがっつり勉強したのは、久しぶりかもしれない。

「ふぅ~」

 里音さんが用意してくれた紅茶を飲みながら、ひと息吐いていた。

「ねえ、史くん」

「はい?」

「嫌じゃないかな? その、勉強だなんて……普通のカップルは、もっと楽しいデートをするのに」

「里音さん。僕は里音さんと一緒に居られるだけで、幸せですよ」

「ふ、史くん……嬉し過ぎちゃうから、やめて」

 里音さんは頬を赤らめて言う。

「あはは」

「ねえ、史くん。じゃあそろそろ、ご褒美の時間にしようか?」

「へっ?」

 僕はドキリとする。

 ご褒美とか、何か響きが少しエッチだな。

「でもそのご褒美をあげる前に、一つテストをしたいの」

「テスト?」

「うん。今日、勉強した範囲を復習するための小テストを作っておいたの」

 そう言って、里音さんは一枚のルーズリーフを取り出す。

 そこには、きれいな地と図形が描かれていた。

「今から、史くんにはこの小テストを受けてもらいます」

「はい、分かりました」

「そして、その得点に応じて……」

「んっ?」

 里音さんは何やら、フリップボートみたいなのを出す。

「こ、このように、ご褒美が変わります」

「えっ」

 僕はそこに記されていたご褒美の一覧を凝視する。



100点満点 キスをする

 90点台 ハグをする

 80点台 手を繋ぐ

 70点台 お菓子をあーんする。

 60点台 間接キス

 50点台 スマイル

 40点台 励ます



 ……ひゃ、100点満点でキスだと!?

 それはつまり、前回は寸止めで終わってしまったキスのリベンジが出来ちゃうってことか!?

 あれ以来、やっぱりなかなか勇気が出なくてキスは出来ていない。

 だからここは是が非でも、キスをしたいけど……100点かぁ。

 いや、でも待てよ。

 僕はチラっと里音さんを見る。

 自分で言うのもなんだけど、里音さんが僕のことを好きでいてくれる想いはひしひしと伝わっている。

 だからきっと、里音さんも僕とキスをしたいと思ってくれているはず。

 そして、テストの問題も、さほど難しくない。

 むしろ、メチャクチャ簡単なはずだ。

「よし、やりましょう」

 すっかり、やる気になった僕が言う。

「じゃあ、制限時間は30分ね」

「了解です」

「では……始め」

 よーし、このテストで100点を取って、里音さんと念願のキスだぁ!



      ◇



「……ふ、史くん。落ち込まないで」

 今、僕は40点台のご褒美である『励ます』をしてもらっていた。

「……な、情けない。まさか、赤点ギリギリだなんて」

 結論から言うと、里音さんのテストは普通に難しかった。

 数学が苦手な僕が、赤点を取らなかっただけでも救いである。

 僕はテストの点数が散々だったこともそうだけど。

 チラッ、と僕を励ます里音さんを見る。

 もしかして、里音さん……僕とキスがしたくないのかな?

 里音さんは、僕のことを……

 思いかけて、僕はハッとする。

 里音さんが僕を見つめる目には、切実な思いが浮かんで見えた。

 きっと、里音さんも僕とキスをしたいと思ってくれている。

 でも、簡単にさせるのは、違う。

 だから、あえてハードルを高めて、待ってくれているんだ。

 僕がそれを飛び越えてくれることを。

「……里音さん。僕、リベンジしても良いですか?」

「えっ?」

「次こそ、絶対に100点を取って……里音さんとキスがしたいです」

「ふ、史くん……」

「待っていて下さい」

 僕はつい里音さんの手を握りそうになって、引っ込めた。

 危ない、危ない。ルール違反をするところだった。

 すると、里音さんは一度、形の良い唇を引き結ぶ。

「……史くん」

「はい?」

「ぜ、絶対に……100点を取って、私とキスしてね?」

 正直、そのセリフの破壊力は凄まじく。

「……あ、はい」

 僕は呆けたまま、そんな返事しか出来なかった。

 ていうか、今の段階でこれなら、キスしたら死ぬかもしれない。

 いや、だとしても、僕は絶対に里音さんとキスをするんだ。

 そう、強く決意をした。







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