ワガママな後輩彼女にフラれたら、優しい先輩彼女とお付き合いすることになりました。

三葉 空

13 里音の本気、序章

 自分の部屋で一人になって、改めて今日の出来事を思い出す。

 そして、恥ずかしくなった。

「……はぁ~、かかって来なさいって……何を言っているのかしら、私は」

 激しい自己嫌悪と羞恥心に苛まれてしまう。

 これ、もしかしたら、私の人生における黒歴史になってしまうかもしれない。

「……いえ、そんなことも言っていられないわ」

 彼女もまた、自分に憧れていると言ってくれた。

 だから、あまりかっこ悪い姿は見せられない。

 そして、魅力的であり、また史くんの元カノである彼女が、本気でまた彼のことを奪いに来ると言ったのだ。

 私も、今の彼女というポジションに甘えていたら、本当に奪われてしまうかもしれない。

 だから、しっかりと対策を立てないといけない。

 まず、現状把握から。

 私は高校3年生で、受験生。

 現時点で、志望大学の合格判定はAランク。

 だからと言って、こちらも決して油断はできない。

 きちんと、勉強をしなければならない。

 そうなると、他の高校生カップルのように、いつも一緒に居てイチャイチャすることが出来ない。

 イ、イチャイチャって……

 と、とにかく。今の状態だと、私と史くんが一緒に過ごす時間は限られてしまっている。

 そして、史くんは今でも萌香ちゃんと交流がある。

 私が受験勉強をしている隙に、萌香ちゃんが史くんとの距離をグッと縮めるかもしれない。

 もしかしたら、キスとか、その先も……ううん、ダメ、ダメ。

 落ち着くのよ、私。

 中学時代から、ずっと好きだった彼と、ようやく恋人になれたのだ。

 だから、絶対に手放したくないし、もっと恋人らしく一緒にいたい。

 そのためには、どうすれば……

「……あっ」

 必死に思い悩む私に、神様が微笑んでくれた気がした。

 恋の神様が。



      ◇



「ねえねえ、フーくん。あの後、本当にエロ本を買いに行ったの?」

「ぶふっ!」

 昼休み。

 僕はまた萌香に恋愛指南を受けていた時。

 ふいにそんなことを言われてむせてしまった。

「ちょっと、大丈夫?」

 そう言って、萌香はハンカチを渡してくれる。

「いや、良いよ。そんな可愛いハンカチを汚したくないし」

「良いから、使って」

「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて」

 僕は萌香のハンカチで口元を拭う。

「ねえ、あたしの匂い、感じてる?」

「ぶふっ!」

 僕はまたむせた。

 屋上のベンチのとなりに座る彼女を見ると、何だか小悪魔な笑みを浮かべている。

「また萌香は、そうやって僕をからかって」

「だって、フーくんをからかうの、面白いんだもん」

 萌香はニコニコとして言う。

「腹黒いなぁ。そんな本性を知ったら、せっかくまた彼氏が出来ても、フラれちゃうんじゃないの?」

 すると、萌香がギロリと僕を睨む。

「フーくん、殴るよ?」

 小さな拳を構えて萌香は言う。

「ご、ごめん」

 僕は素直に謝った。

「肩パンチして良い?」

「だから、謝ったでしょ?」

「そんなに強くしないから。ジャレる感じで」

「いや、ジャレるって……」

 そして、僕が何の許可も出していないのに、萌香は本当に肩パンチをして来た。

 まあ確かに、力は弱いし、何かマッサージみたいで気持ち良いけど。

「えいっ、えいっ」

「で、萌香。鎌哲のことはどう思ったの?」

「えっ?」

「えっ?……じゃなくて。彼氏にすると考えて、どうなの?」

「う~ん、面白くて良い人だと思うけど…ちょっと、違うかな」

「そっか。まあ、良いけど」

「そんなことより、フーくん。今日の放課後だけど、一緒に……」

 その時、屋上の扉が開く。

「あっ」

「げっ」

 僕と萌香は声を出す。

「うふふ、二人とも。仲良しね」

 里音さんが微笑みを浮かべてやって来た。

「そうなんですよ。僕ら、すっかり良い先輩と後輩の関係に戻ったんです」

 僕が笑って言うと、萌香がムッとした顔で肩パンチをする。

「いたっ! ちょっ、力が強いじゃないか!」

「フーくん、女の子にそんなこと言うのは最低だよ」

 萌香は尚もムッとした顔のまま言う。

「え~……」

 たじろぐ僕。

「うふふ」

 里音さんは相変わらず優しい笑顔で、僕らを見守っていた。

「ねえ、史くん」

「はい?」

「今日の放課後、一緒に帰りましょう」

「あ、はい。喜んで」

「ありがとう」

 里音さん笑顔で言う。

 僕もまた笑顔になるんだけど、

 ボコッ!

「いたっ!」

 また萌香に肩パンされた。

「な、何でだよ?」

「は~、フーくんのお尻をペンペンしたい」

「萌香って、ドSなの? ちょっと引くよ」

「フーくんこそ、ドMなんじゃない?」

「こらこら、二人とも。ケンカはダメよ?」

 里音さんが優しい笑顔で僕らを仲裁してくれる。

「ごめんなさい、里音さん」

 僕は素直に謝る。

「良い子ね」

 一方、萌香は頬を膨らませて里音さんを睨んでいた。




      ◇



 里音さんと、一緒に下校していた。

「今さらだけど、気後れしちゃいます」

「え?」

「里音さんみたいな、きれいな人のとなりを歩くなんて……僕はまだまだ、頼りない男だから」

「そんなことないよ。私、史くんと一緒に居られて、嬉しいから」

「さ、里音さん……」

 ああ、癒される。これぞ、癒しの女神の効能だ。

 昼休みに萌香に受けた肩パンの痛みもすっかり消えた。

「史くん、私から一つ、お願いがあるの」

「何でも言って下さい。里音さんのためなら、何でもします」

「あ、ありがとう。あのね……一緒に勉強しない?」

「勉強ですか?」

「うん。今度から受験勉強を、史くんと一緒にしようかなって思うの」

「それはまた……どうして?」

「えっと、その……せ、せっかく付き合っているんだから、もっと……史くんと一緒にいたくて……」

「さ、里音さん……」

 僕はジーンとしてしまう。

「でも、僕がいたら邪魔じゃないですか?」

「それは大丈夫。私が史くんの勉強を見ることで、2年生の範囲を復習できるから」

「あ、なるほど。さすが、里音さんです」

「ありがとう。でも、史くんは勉強ばかりじゃ、嫌だよね?」

「いえ、そんなことは……」

「だからね、ちゃんと考えてあるよ」

「はい?」

「ご褒美」

 里音さんは立ち止まって、僕を見つめる。

「ご、ご褒美?」

「そう。ちゃんと、史くんが喜ぶものを考えて、用意してあるから……一緒に、勉強してくれる?」

 里音さんは小首をかしげて言う。

 普段、大人びている彼女のそんな姿が、とても愛らしい。

「よ、喜んで」

 僕は間抜けな声で答える。

「ありがとう、史くん」

 里音さんは微笑みながら、そっと僕の手に触れる。

 しっとりとした手が、僕の手を握る。

「あっ……」

「行こう、史くん?」

「は、はい」

 そして、僕と里音さんは歩いて行った。







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