ワガママな後輩彼女にフラれたら、優しい先輩彼女とお付き合いすることになりました。

三葉 空

12 ここから、また始まる

 僕の両サイドを歩く二人は、終始ニコニコしていた。

「いや~、嬉しいなぁ。まさか、新入生ナンバーワンの美少女、天木萌香ちゃんと一緒に遊べるなんて。やはり、持つべきものは親友だなぁ」

 鎌哲かまてつが言う。

「そんな、あたしより可愛い子なんていっぱいいますよ~」

 萌香が言う。

「でも、すごいよなぁ」

「何がです?」

「いや、二人は別れた恋人同士でしょ? それなのに、こんな風に一緒に過ごして……というか、元カレが元カノに他の男を紹介するってアリなの? 色々なことがありすぎて、俺ちょっと混乱しちゃっているよ」

「確かに、あたしはフーくんと別れました」

 萌香は笑顔のまま言う。

「でも、元から中の良い先輩と後輩の間柄だったので。それに戻っただけです」

 萌香は僕に笑顔を向けて、

「ねぇ、フーくん?」

「うん、そうだね」

 僕は嬉しかった。

 萌香から言い出したことだけど、いきなり僕の親友を紹介したら、少し不機嫌になるかと思ったけど。

 萌香はずっと笑顔を浮かべている。

 ――またね、エッチなフーくん。

 屋上で話した時、去り際にあんなことを言われたから。

 怒らせてしまったかなと思ったけど。

 萌香は思ったよりもずっと上機嫌で僕も安心だ。

 でも、一つだけ気になることがある……

「萌香ちゃんは、もう高校生活には慣れた?」

「はい。周りの人たちが良くしてくれるので」

「それは萌香ちゃんが可愛いからだよ」

「やだもう、鎌哲さんったら~」

 コミュ力の高い萌香は初対面の鎌哲ともすっかり気さくに会話をしている。

 いや、それに対して嫉妬心を抱いているとかではなく……

 あの時、いたずらな風よって、ふわりとめくれた萌香のスカート。

 そして、穿いていたパンツが見えた。

 付き合っていた時も見たことなかったのに。

 萌香のイメージとしては、可愛らしいパンツを穿いていると思っていて。

 クマさんとかウサちゃん柄の(それはさすがに子供すぎるか)。

 とにかく、可愛い系を想像していたのに……

 何か、ひらひらの、レースっぽい感じだったのは、気のせいだろうか?

 しかも、黒だったんだけど……

「ねえ、フーくん」

 ふいに呼ばれて、僕はビクッとした。

「えっ、何?」

「これから、どこに行こうか?」

「あ、えっと……」

「おいおい、ボケっとしてんなよ。フーくん」

 鎌哲がおどけた調子で言う。

「そ、そうだね……ハンバーガーでも食べる?」

「あ~、女の子に高カロリーを摂取させるつもり?」

 萌香がジロッと僕を睨む。

「い、いや、そんなつもりは……」

「なんて、うーそ。あたし、ハンバーガー好きだよ。美味しいから」

「俺もそれで良いぜ」

「じゃ、じゃあ、行こうか」

 目的地が定まった所で、再び雑談が始まる。

 僕はまた押し黙って、少し萌香の後ろを歩く。

 イケナイと理性では分かりつつも、本能が求めてしまう。

 あの頃、萌香の彼氏だった僕はとても憶病だから、そこまで攻めることが出来なかった。

 まあ、今でも憶病なことに変わりはない。

 だから、こんな風に、元カノの後ろを歩いて、そのパンツを想像してしまう僕は。

 どうしようもない、変態かもしれない。

 最低だ。

 里音さんという素晴らしい彼女がいるのに。

 ダメだ、萌香の可愛らしいヒップラインを想像したらダメなんだ……



      ◇



 人気のハンバーガーチェーンにやって来て、僕らはみなセットメニューを頼み、腰を落ち着けた。

 席の座り方は、僕と萌香がとなり合って、鎌哲が向かい合う感じだ。

「そういえば、鎌哲さんって、フーくんとはいつから仲が良いんですか?」

「ん? 高校に入学してからだね。同じクラスで、良い奴だったから」

「確かに、人が良いことだけが、フーくんの取り柄だもんね」

「も、萌香、ひどいなぁ」

「だって、そうでしょ? 優しいのは良いことだけど、それだけじゃダメなんだからね」

「ご、ごめんなさい」

 僕は素直に謝った。

「なあなあ、二人とも」

「「えっ?」」

「これは、俺が彼女を作る参考までに聞きたいんだけど……二人はどういうきっかけで付き合ったの?」

 鎌哲はジュースを飲みながら、何気なく言う。

「えっと……僕らは中学時代から先輩後輩の間柄で……」

「あたしから告白したんです」

 萌香がサッと言う。

「フーくんが優しくて素敵な人だって思ったから。フーくんが中学校を卒業する時、告白したんです。第二ボタンを下さいって」

「アオハルかよ。え、じゃあ、史は高校に入学した時点で、既に彼女がいたってことだよな?」

「そ、そうだね」

「お前ぇ~、俺と一緒にあの子が可愛いだの言っていたくせに」

「へぇ~? そうなんだぁ~?」

 萌香がジロっと僕を横目で睨む。

「いや、その……」

「あ、ごめん。俺、ちょっとトイレに行くよ」

「えっ」

「どうぞ、どうぞ~」

 萌香はニコニコと笑顔で言う。

 そして、鎌哲がトイレに立つと、僕と萌香は二人きりになった。

 少しだけ、気まずい沈黙が訪れる。

「……フーくんさ」

「は、はい」

 僕はつい、かしこまった口調になってしまう。

「あたしのパンツ、見たでしょ?」

「へっ? いや、その……」

「ていうか、ここに来るまでの間も、チラチラとあたそのスカートの奥にあるパンツ、想像していたよね?」

「な、何でバレ……あっ」

 僕が言うと、萌香はため息を漏らす。

「ご、ごめん……」

「別に、謝らなくても良いよ」

「そ、そう?」

「むしろ、あたしのことをまだ女として意識してくれて、嬉しいなって思うよ」

 萌香はニコリと笑う。

「……じゃあさ、萌香。ちょっとだけ、僕も突っ込んで良い?」

「ん?」

「いま、穿いているパンツ、何かすごく……エッチだよね」

 すると、萌香は少しだけ間を置いた。

「もしかして、今日、僕に他の男子を紹介してもらうから……」

「それは嫉妬かな?」

 萌香は少しだけ挑発するような目で僕を見る。

「それは……そうかもね」

「ふふ、どこまでも素直なフーくん。可愛いなぁ」

「か、からかわないでよ」

 僕は少しばかり顔が熱くなる。

「ねえ、一つ良いことを教えてあげようか」

「え、何?」

「まだフーくんと付き合っていた頃も……」

 萌香はさっと、僕の耳に口を寄せる。

「エッチなパンツ、穿いていたよ」

 間近で萌香の囁き声を聞いて、ゾクリとした。

「な、何で……?」

「決まっているでしょ? フーくんと……その……エッチがしたかったから」

 萌香は言う。

「でも、フーくんは全然、あたしに手を出してくれないから……寂しかったし、辛かったの」

「萌香……」

「あのね、女の子ってね、男の子が思っている以上に、エッチに興味があるの。女の子同士の会話も、すごくエッチでね……あたしの友達も、何人かはもう、エッチをしたって話していたの」

「そ、そうなんだ」

「それでね、あたしはこの可愛さだから、絶対にみんなよりも経験が豊富だって思われて、でもそんなことないよ~、って言って……」

 萌香はわずかに顔をうつむける。

「だから、あたしは、今でも本当に自信が持てないの」

 その時、萌香が僕を見つめる目は、普段の活発で頼りがいのある彼女とは違う。

 繊細な乙女のそれだった。

「もし、付き合っている時、フーくんが勇気を出して、あたしとキスとか、エッチとかしてくれたら……たぶんあたし、もっと成長していたよ?」

「せ、成長……心が?」

「ていうか、カラダが」

「カ、カラダ?」

「あたしの友達、エッチをしたら、胸が2カップくらい上がったんだって。まあ、ちょっと盛っているだろうけど。実際、女性ホルモンが出て、成長するんだと思う」

「な、何か、生々しいね」

「興奮する?」

 萌香はまた、挑発的な目で僕を見つめる。

「じゃ、じゃあ、その理屈で行くと……」

「ん?」

「さ、里音さんは、僕と付き合う前に他の男とエッチをしまくったとか……ああああぁ」

 僕は頭を抱えて唸ってしまう。

「こら、フーくん」

「えっ?」

「里音さんは、そんな汚れた人じゃないよ。フーくんが、一番知っているでしょ?」

「あ、うん」

「それに、あたしも同じ女子として分かるから。里音さん、ちゃんと処女だよ。保証する」

「あ、ありがとう」

「ハンバーガー、食べる?」

「う、うん」

「じゃあ、あたしが、あーんしてあげる」

 萌香はニッと笑って言う。

「えっ? いや、そんな良いよ……」

「でもほら、見て。これ、チーズがとろとろして、美味しいよ?」

「ていうか、それ萌香のでしょ?」

「良いじゃん。間接キスなら、もう体験済みでしょ?」

 萌香は挑発てきな笑顔のまま、僕に迫る。

「じゃ、じゃあ……一口だけ」

「良い子だね。はい、あーん」

 僕は萌香にあやされるように、口を開けた。

 そばで足音がする。

 長いトイレから、ようやく鎌哲が戻ったのかなと思った。

「史くん、萌香ちゃん」

 本来なら、その声を聞いて嬉しい気持ちになるはずなのに。

 この時ばかりは、ゾッとしてしまった。

「……さ、里音さん」

 彼女は美しい立ち姿で、僕らを見つめていた。

「ど、どうして、ここに?」

「史くんが、今日は予定があるって言ったから。たまには、こういった所で勉強しようかなって思ったんだけど……」

 里音さんは静かな瞳でこちらを見つめている。

 激しく心臓が踊り狂う僕のとなりで、萌香はニコニコ笑っている。

 いや、確かに。

僕と萌香が元の中の良い先輩後輩の仲に戻ったことを、里音さんは知ってくれているはず。

 でも、さすがに、元カノに『はい、あーん』をされている場面を見られるのは……

「おっ、すげえ!」

 すると、背後から威勢の良い声がした。

「我が学園の2大美女がお揃いじゃんか!」

 本当に長いトイレから戻って来た鎌哲が興奮して言った。

「こんにちは、鍋元なべもとくん。いつも、史くんがお世話になっています」

 里音さんはニコリと笑って言う。

「いえいえ、こちらこそ。ていうか、マジで鈴原先輩って、史と付き合っているんですか? 俺、まだ何かの冗談だって思っているんですけど」

「本当だよ」

 里音さんはブレない笑顔で言う。

「私から告白したから」

「マ、マジっすか? おい、史。ちょっと首を締めさせてくれ」

「な、何で?」

 鎌哲は目をギラつかせて、手をワキワキと動かしながら僕に迫る。

「ねえねえ、フーくん」

「どうしたの、萌香?」

「せっかくだから、里音さんも入れて、4人で話さない?」

「えっ」

「お、良いね~! 学園の2大美女と一緒にハンバーガーを食ったなんて言ったら、他の奴らに泣いて羨ましがられること間違いなしだ!」

 鎌哲は興奮して言う。

「里音さん、どうですか?」

 萌香はニコニコして言う。

「うん、良いよ」

 里音さんもニコッとして言う。

「イエーイ!」

 鎌哲が盛り上がる。

 一方で、僕だけが、この場から消えてなくなりたかった。



      ◇



 あれから、何を喋ったのかはあまり記憶にない。

 ただ僕は魂が抜けたように、相槌を打っていた気がする。

「あ、ちょっと良いっすか?」

 四人で帰り道を歩いていた時、ふいに鎌哲が言う。

「どうしたの?」

「おい、史。今日はアレの日じゃないか」

「アレって?」

「忘れたのかよ、エロ本の発売日」

「なっ……何を言うんだ、鎌哲!」

「え~、史くんって、エロ本を読むの~?」

 萌香がジト目を向ける。

「里音さん、どう思います?」

「う~ん、そうね……まあ、ほどほどに」

 里音さんの笑顔が何よりも心を抉る……グハッ!

「つー訳なんで、ちょっと史のこと借りますね」

「了解でーす」

「じゃあ、またね」

 そう言って、萌香と里音さんは去って行く。

「ねえ、鎌哲。本当にエロ本を買いに行くの?」

「興味あるだろ?」

「いや、無い……とは言い切れないかも」

「よし、行こう」

 僕はそのまま、鎌哲に連れて行かれた。



      ◇



 夕日が照らす帰り道は、温かくも、どこか物寂しい。

「……里音さん、ムカつきました?」

「へっ?」

「あたしとフーくんが、ラブラブしている所を見て」

 萌香が言うと、里音は足を止めた。

「……一つだけ、聞いても良いかな?」

「良いですよ」

 萌香もまた、足を止める。

「萌香ちゃんは、今でも史くんのことが好き?」

 その問いかけを、待っていたとでも言わんばかりに。

「好きですよ」

 萌香は迷いなく言った。

「そう……じゃあ、何で別れたの?」

「フクザツな女心ってやつです」

 萌香の言葉に、里音は表情を崩さない。

 むしろ、優しく微笑んだ。

「……里音さんって、本当に素敵な人ですよね」

 萌香はわずかに顔をうつむけて言う。

「昔から、いつも笑顔で、大人で、余裕で……ムカつく」

 萌香はキッと里音を睨む。

「……じゃあ、私からも言わせてもらって良い?」

「どうぞ」

「この……泥棒猫」

「へっ?」

「私の方が先に史くんに出会って、ずっとずっと、お付き合いしたいって思っていたのに……後輩のあなたに全部持っていかれた時の私の気持ち、知っていた?」

「いや、それは……さ、里音さんがモタモタしていたのが悪いんです!」

「だって、仕方ないじゃない。私は、憶病だから……」

「何でですか? その美貌とスタイルとおっぱいがあれば、どんな男でもイチコロでしょ?」

「そんな簡単なものじゃないよ……」

「はぁ~……ズルいよ」

 萌香はため息交じりに言う。

「あたしだって、憶病ですよ? それでも、逃げずに立ち向かって、フーくんを彼氏にしたんです……もう、別れちゃったけど」

「そうね。だから、私もやっと、勇気を出せたの」

「ていうか……一番、勇気を出していないのって、フーくんじゃないですか?」

「言われてみれば、そうかも……」

 二人はお互いに言い合って、苦笑する。

「でもまあ、そんなフーくんに惚れちゃったからなぁ」

「そうね。私、史くんのことを愛しているから」

「あ、愛し……お、重いですよ?」

「そうね、私、おっぱいが大きくて重いから」

 里音は胸を張って言う。

「……里音さん。顔、赤いですよ」

「ハッ……ご、ごめんなさい」

「は~……やっぱり、心の底からは憎めないや。里音さんも、あたしの好きな先輩だから」

「萌香ちゃん……あなたこそ、私の可愛い後輩よ」

 今度は二人で笑い合う。

「……里音さん。あたしやっぱり、史くんのことが好きです。ずっと、好きなままなんです」

「うん」

「だから、挑戦しても良いですか? あたしが憧れる、あなたに」

「挑戦?」

「史くんをもう一度、あたしの方に振り向かせます。例え、胸が小さくても、出来るんだって所を見せてやります」

「萌香ちゃんって、本当に可愛いなぁ」

「にゃ、にゃんですと!?」

「だから、うっかり気を抜くと史くんを取られちゃいそうだから……私も本気を出して良い?」

「さ、里音さんの本気?」

「うん。もう、遠慮はしない。今度、史くんとデートをしたら、キスもするし、胸も揉ませるし……エッチだって、しちゃうんだから」

「そ、その極上のボディをフル活用されるのですか?」

「昔は、胸が大きくて本当に恥ずかしかったけど……良かった、大きく育ってくれて」

「カッチーン。里音さんって、実は腹黒ですか?」

「萌香ちゃんほどじゃないよ」

「カッチーン、その2」

 萌香はぷくっと頬を膨らませる。

「もう怒ったぞ~。絶対、絶対、絶対、フーくんをもう一度、あたしの彼氏にしてやります!」

「じゃあ、あえて言わせてもらうね」

 里音は微笑む。

「かかってきなさい」

 萌香は舌なめずりをした。

「ええ、行ってやりますとも。そのおっぱい、引きちぎってやりますよ」

「引きちぎって、どうするの?」

「ご神体にします」

「萌香ちゃんって、サイコパス?」

「ち、違うもん! 萌香はちょっと小悪魔なだけだもん!」

「自分で言っちゃうのね」

 里音はくすくすと笑う。

「このこと、史くんに言う?」

「別に言っても、言わなくても、同じことですよ」

「そうだね」

 二人の美少女は、夕日に照らされながら、不敵に微笑み合っていた。







「ワガママな後輩彼女にフラれたら、優しい先輩彼女とお付き合いすることになりました。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く