ワガママな後輩彼女にフラれたら、優しい先輩彼女とお付き合いすることになりました。

三葉 空

11 のんきな元カレに翻弄される

 里音さんとのデートを終えた夜。

 僕はベッドに寝転んで、今日のデートの光景を思い浮かべていた。

 やっぱり、里音さんはきれいで、可愛かったな。

 歩く姿とか、食べる姿とか、もう何もかも、ずっと見つめてしまった。

 昔からずっと憧れだった人と付き合うことが出来て、僕は本当に幸せ者だ。

 しかも、あと一歩で里音さんと……

「うわぁ~……!」

 思い出しただけで、すごく恥ずかしくなって来た。

 とても嬉しいことなんだけど、何かこう……とにかく落ち着かない気持ちだ。

 どうやら、今日は眠れそうにない。



      ◇



 私はベッドに腰を下ろすと、ようやく人心地着いたような気がした。

「ふぅ……」

 今日の史くんとのデート、すごくドキドキした。

 史くんとは、長い付き合いだけど……こんなにドキドキしたのは、初めてかもしれない。

 告白する時も、もちろん緊張したけど。

 今回は純粋にドキドキしたと言うか。

 だって、最後にあんな……キ、キスをしそうになって。

 私は思い出しただけで、顔がすごく火照って来た。

 とても幸せな気持ちになってしまう。

 でも同時に、どうしても気になってしまうことがある。

 私と史くんがキスしようとした時に……萌香ちゃんが割って入った。

 たまたま、通りかかっただけって言っていたけど……まさか、ね。

「もしかして、萌香ちゃんはまだ……」

 言いかけて、私は首を横に振る。

 邪推はやめておこう。

 史くんの今の彼女は、私なんだ。

 もっと自信を持って、胸を張って行こう。

 そう思って、私はふと自分の胸に目を落とす。

 あまり、露骨な真似ばかりしたくないけど。

 いざとなったら、また史くんに……

「……って、私は何を考えているの」

 史くんのことを想うあまり、自分にこんな一面があったことを知ってしまう。

 あまり、嫌らしい女の子にはなりたくないのに……

「……あっ」

 私は史くんのことを想いながら、また少しだけ自分の胸に触れた。



      ◇



 今のあたしの頭の中にあるのは復讐。

 いや、それだと人聞きが悪いから、リベンジと言い換えようか。

 というか、そもそも、相手は戦っているつもりなど無いわけで。

 これはあたしの一人相撲なのかもしれない。

 でも、それでも……

 あたしは屋上の扉を開く。

「あ、萌香」

 彼はのんきな顔でそこに居た。

「フーくん」

 あたしは彼の名を呼ぶ。

「萌香、今日は僕もちゃんとお昼ごはんを持って来たよ。食べながら話す?」

 あたしの決意など露知らず、尚ものんきな顔で彼は言う。

「フーくん、ちょっとお座りして」

「うん、ベンチに……」

「この場でお座りして」

「へっ?」

 彼は目を丸くする。

「いや、僕は犬じゃないんだけど……」

「知っているわよ、そんなこと」

 あたしが苛立った口調で言うと、

「も、萌香? 何でそんなに怒っているの?」

 彼はそんなことを言う。

 分からないでしょうね、あなたにあたしの気持ちなんて。

「あ、もしかして……」

 え、何? もしかして、感付いてくれたの?

「昨日、あげたプレゼント。気に入らなかった?」

「……は?」

「ご、ごめんね。萌香が欲しいと思って、買ったんだけど……」

 おずおずと言う彼を前にして、あたしは体をプルプルと震わせた。

「この……フーくんのバカたれ!」

「また言われた!?」

「もう、何なのよ、本当に!」

「も、萌香? 何でそんなに怒っているの? 気に入らないんだったら、あのプレゼントは捨ててもらっても……」

 まだそんなことを言っている彼に痺れを切らせたあたしは、

「ほら、見て!」

 胸ポケットから取り出したものを見せる。

「あっ……」

「ちゃ、ちゃんと、肌身離さず持っているから……文句ある!?」

「い、いや、無いけど……むしろ、嬉しいな」

 フーくんが微笑んで言うと、あたしはたじろぐ。

「て、ていうか、ちゃんと里音さんのプレゼントは用意したの?」

「あ、えっと、里音さんのことをずっと見ていたんだけど……これというものが無くってさ。だから、里音さんに似合う物をプレゼントしようかなって」

「ふ、ふぅん?」

「ごめんね、萌香。やっぱり、僕にはサプライズなんて器用な真似は出来ないよ」

 フーくんは言う。

 いや、出来ちゃっているから。

 メッチャ出来ちゃっているから。

 元カノのあたしに対してね!

 って、ダメだ、このままじゃ。

 また、気が付いたらフーくんのペースになってしまう。

「フーくん、ちょっと聞いて欲しいの」

「あ、うん。何かな?」

「ほら、言ったでしょ? あたしがフーくんに恋愛のアドバイスをする代わりに、あたしの彼氏づくりを手伝って欲しいって」

「言ったね」

「あたしね、フーくんと里音さんのデートを見て、本気で彼氏が欲しくなったの」

「そっか」

「だからね、誰か紹介してよ」

「え? 僕が?」

「そう」

 あたしは頷く。

 ふふふ、フーくんめ。

 まさか、あたしがここまで本気で来るとは思っていなかっただろう。

 それに、今は素敵な彼女がいるとはいえ、元カノが他の男とくっつくなんて、内心では穏やかじゃないはずだ。

「そうだな……じゃあ、鎌哲かな」

「は? カマテツって誰?」

「いや、僕の親友なんだけど。良い奴だから」

「ちょ、ちょっと待って、フーくん」

「どうしたの?」

「いや、随分とあっさり紹介してくれるんだなと思って……」

「もちろんだよ。だって、僕は萌香にも幸せになってもらいたいから。僕に出来ることなら、何でもするよ」

 飛び切りの笑顔でフーくんは言いやがる。

 何その笑顔? むしろ、皮肉にしか思えない。

 あ、でも、こんな風にのんきに笑う顔が可愛いなって、付き合っていた時も思って……って、違ああああああぁう!

「あの、萌香? 大丈夫?」

 フーくんは言う。

「……今日の放課後」

「うん?」

「そのカマテツって人を紹介してよ」

「良いよ。鎌哲の奴、喜ぶだろうなぁ。あ、でもあまり他のみんなにはバレないようにしないと。萌香は人気者だからさ」

「うん、ありがとう」

 あたしも負けじと、満面の笑顔で言う。

「じゃあ、お昼ごはんを食べようか……」

「ごめん、フーくん。あたし、教室に戻るから」

「えっ?」

「ちょっと、やらないといけないプリントがあって」

「あ、そっか。じゃあ、一人で食べようかな」

「里音さんはどうしたのよ?」

「昼休みはお友達と食べるって。それとやっぱりまだ、学校で一緒にお昼ごはんを食べるのは恥ずかしいらしくてさ」

「へええええぇ~?」

 何それ、超甘酸っぱいんですけど。

 別に、羨ましくなんてないけどね!

「じゃあ、フーくん。また放課後にね」

 あたしは踵を返して歩き出す。

「うん、また」

 もう顔は見えないけど、またのんきな笑顔を浮かべているに違いない。

 おのれ、フーくんめ。

 その時だった。

 ぶわっ、と強く風が吹き抜ける。

「きゃっ!」

 あたしのスカートが舞い上がった。

 いたずらな風は一瞬にして過ぎ去ったけど……

「……み、見た?」

 あたしは振り向いて、フーくんに問いかける。

「え、な、何を?」

 その動揺っぷり、明らかに見ているし。

「……フーくんのスケベ。そんなんじゃ、里音さんにフラれるよ?」

「じょ、冗談でもやめてよ」

 フーくんは苦笑しながら言う。

「ふん、だ。またね、エッチなフーくん」

 あたしはそんな捨てゼリフを残して屋上を後にした。







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