ワガママな後輩彼女にフラれたら、優しい先輩彼女とお付き合いすることになりました。

三葉 空

9 色々な意味で、ドキドキの恋人デート

 雑踏が行き交う駅前の一角に僕は佇んでいた。

「史くーん」

 柔らかく間延びした声を聞き、僕は振り向く。

「あ、里音さん」

 彼女は笑顔で僕のそばにやって来た。

「ごめんね、待たせちゃって」

「いえ、僕もいま来た所なので」

「良かった」

「じゃあ、行きま……」

 言いかけて、僕は一度、口をつぐむ。

「史くん?」

 小首をかしげる里音さんに対して、

「今日のその服、とても可愛いですね」

「えっ? あ、ありがとう」

「似合っていますよ」

「そ、そんな……」

 里音さんは照れたように頬を赤らめて、顔をうつむける。

 僕はそんな彼女を見つめながら、少しホッと胸を撫で下ろす。

『良い、フーくん? 女の子はデートする時、いつも以上にお洋服に気を遣うんだから。それについてちゃんと感想を述べること。もちろん、ちゃんと褒めてあげてね』

 萌香の教えを思い出す。

 今までの僕なら、心の中では『可愛い』と思いつつも、あまり口には出さなかったと思う。

 照れくさいから。

 でも、そんなことは言っていられない。

 女の子だって照れ臭いから。

 男の子がリードしてあげないとダメ。

「史くん、今日はどこに行くの?」

「里音さんと街をぶらつきたいな」

「うん、良いよ」

 里音さんは笑顔で答えてくれる。



『やっぱり、里音さんとデートするなら、いつもの喫茶店が良いかな? もしくは、映画館とか』

『ちょっと待った、フーくん。それはあまりオススメしないよ』

『え、何で? まず、いつも行く場所だと、確かに安心感はあるけど。何も変化を感じられないでしょ?』

『変化?』

『そう、二人はもう恋人なんだから。あ、私たちって恋人になったんだって、実感させるには、今までと同じ行動じゃダメ』

『な、なるほど』

『あと、里音さんみたいな落ち着いた感じの女子とデートする時、映画館とか選びがちだけど。映画館は定番のデートスポットだけど、付き合いたてて行くのはオススメしないな。あまり会話が出来ないから』

『そ、そっか』

『たぶん、フーくんは里音さんが受験生だから、あまり負担がないという意味でもインドア系のデートにしようとしているんだろうけど。むしろ、息抜きをしてもらうためには、あまり動かないデートは良くないよ』

『じゃあ、スポーツとかした方が良いのかな?』

『それは何度かデートを重ねた時が良いよ。いきなりスポーツ系だと、それはそれで、里音さんの雰囲気と違いすぎるから』

『だとすると、どんなデートが良いのかな?』

『街ぶらね』

『街ぶら?』

『そう。初々しいカップルだからこそ、街ぶらを楽しめると思うの。ある程度、付き合いが長いカップルは目的がないと出掛けるのが少し億劫になるだろうけど。付き合いたてのカップルは、何もかも新鮮だから』

『ふむふむ』

『それで色々なお店とか巡って、彼女の反応を見るの。何気ない視線とかも見逃しちゃダメだよ。それが後の布石、あるいは伏線になるから』

『布石? 伏線?』

『例えば、彼女が欲しそうに見ている物を心の中にメモしておくの』

『その場で買ってあげるのはダメなの?』

『それでも良いけど。ちょっとしたサプライズが、女の子は嬉しいんだよ』

『サプライズ……僕に出来るかな?』

『大丈夫だよ、フーくん。自信を持って』



 電話口から伝わって来た、萌香の笑い声を思い出す。

「あ、可愛らしい小物屋さん」

 待ちの一角に、そのお店はあった。

「ちょっと、入ってみる?」

「良いの?」

「もちろん」

「やったー」

 里音さんはニコッと笑う。

 店内に入ると、女性客が多くて少し気が引けるけど。

 里音さんと一緒なら、まあ大丈夫かな?

「うわぁ~、可愛い~」

 里音さんは目をキラキラと輝かせる。

 いつも大人びた彼女にしては珍しい反応だ。

 あ、そっか。

 だからこそ、今まで遠慮していたのかもしれない。

 今までは、僕の先輩だったから。

 けど、今は彼女な訳で……

「……あっ。ご、ごめん、ちょっとハシャいじゃって」

 里音さんはふっと、我に返ったように赤面する。

「良いですよ、里音さん。好きなだけ、ハシャいで下さい」

「も、もう、史くんってば」

 里音さんは照れながらも微笑んでくれる。

 僕は今のやり取りに、少し手ごたえを感じていた。

「……やるじゃん、フーくん」

 ふいに、ぼそっと聞こえたその声に、僕はハッとする。

 チラッと背後を見ると、棚の陰にサッと隠れる小さな人影を見た。

「……里音さん、ごめんなさい。ちょっと、ここで待っていてもらえます?」

「え? うん。分かった」

 里音さんは小さく目を丸くしながらも、頷いてくれる。

 僕はニコッと笑って、棚の方に向かう。

 その小さな人影がビクッとして逃げようとするけど、

「萌香」

 僕が呼び止めると、観念したように動きを止めた。

「……フ、フーくん」

「えっと……何でここにいるの?」

「そ、それは……フーくんが、ちゃんとあたしの教え通りにデート出来ているかなって思って……」

 萌香は少しばかり頬を赤らめて、目を逸らしながら言う。

「わざわざ、心配で僕たちの様子を見に来てくれたの?」

「う、うん。そうそう」

 萌香はぶんぶんと頷く。

「そっか……ありがとう」

「えっ?」

「あと、今日のその服、萌香にとてもよく似合っていて可愛いよ」

「ふぇっ!?」

 萌香がちょっと大きな声を出したので、僕はとっさに手で口を塞ぐ。

「……っ!?」

「しっ、萌香。里音さんにバレちゃうから」

 萌香は初め、小さく抵抗していたけど。

 やがて、大人しくなった。

「じゃあ、僕は里音さんとのデートに戻るから。萌香はどうする?」

「ぷはっ……も、もう少しだけ、フーくんたちの様子を観察している」

「そっか。あ、くれぐれも、里音さんにはバレないようにね」

「分かっているわよ。早く行って」

 萌香は少し怒ったような口調で言う。

「あ、そうだね。いつまでも、彼女をほったらかしにしたらダメだよね」

「そ、そうよ。早く行って」

「うん」

 僕は笑顔で頷いて、萌香の下を離れる。

「……フーくんのおバカ」

 背後で萌香が何か言ったような気がしたけど。

 僕は急いで里音さんの下に向かった。







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