ワガママな後輩彼女にフラれたら、優しい先輩彼女とお付き合いすることになりました。

三葉 空

4 胸が疼く

 僕は家に帰って来た。

「あら、史。おかえりなさい」

 母さんが声をかけてくれる。

「うん、ただいま」

 僕はそう言って、二階に上がる。

 自分の部屋に入ると、椅子に腰を下ろす。

 そして、もたれかかった。

 里音さんとのお茶デートは、とても楽しかった。

 何より、癒された。

 今も僕の体に、里音さんの優しい匂いが染みこんでいるようで。

 とても安らぐと同時に、ドキドキしてしまう。

「……里音さんの胸、すごかったな」

 イケナイと思いつつも、ついつい見てしまった。

 というか、もしかして、僕にアピールをしていたり……いや、それはないか。

 里音さんはあくまでもオシャレとして、ああいった形を取っただけだろう。

 だから、あまり深くは考えず、ただの眼福として脳内に映像を保管しておく。

「……もし、このまま里音さんと付き合えたら……どうなるかな」

 それはありもしない妄想だけど。

 中学校時代からの想いが今になって実ったら……僕はちゃんとブレーキを踏めるだろうか。

 あの魅力的な体にばかり気を取られて、里音さんの心を傷付けないようにしてあげたい。

「傷付く……」

 その言葉で頭に浮かんだのは、萌香の顔だった。

 僕はたぶん、彼女を傷付けてしまった。

 傷モノにしてしまった。

 いや、エッチはもちろん、キスさえしていないけど。

 それでも、萌香の恋愛遍歴に傷を付けてしまったと言うか……

 別れて言うのもなんだけど、萌香は本当に可愛くて、魅力的な女の子だ。

 本人は小柄でロリ体型なことを気にしていたけど。

 それが魅力的だと思う男だっている訳だし。

 あの明るい性格もまた、男を喜ばせる。

 まあ、ちょっとワガママな所はあるけど。

 そう言った面も含めて、萌香は魅力的な女の子だ。

 だから、どうか、高校では彼女に良い出会いを……

「……って、いつの間にか萌香のことを考えちゃっているし」

 せっかく、里音さんとデートをしておきながら、失礼な奴だ。

「……風呂にでも入るか」

 少しでも、不純な気持ちを洗い流したいと思った。



      ◇



 シャワーを浴びていた。

 栓をきゅっと閉じる。

 鏡に映る濡れそぼった自分を見つめた。

「……少し、露骨にアピールしすぎたかな?」

 私は自分の大きく膨らんだ胸に手を当てて呟く。

 彼にはしたない女だと思われてしまっただろうか?

 なるべく、おしとやかで、上品な年上の女性だって思われたかったけど。

 昔から好きだった彼に対して、気持ちが止まらなかった。

 自分の不純な気持ちを洗い流そうとしたけど。

 やっぱり、消えない。

 ほんの一時間程度の間、私に染みこんだ彼の匂いは消えてくれない。

「……史くん」

 彼の名前を呼びながら、ちょっとだけ胸を揉んでみる。

「あっ……」

 口の端から嫌らしい吐息が漏れたので、やめておく。

 これ以上、ふしだらな女にはなりたくないから。

 でも、もし、いつか彼にこの胸を触ってもらう時が来たら……

『里音さん、好きです』

 ちょっと想像しただけで、興奮してしまう。

 自分が思っている以上に、彼のことを好きなんだと自覚した。

 そんな彼と一緒にデートみたいな時間を過ごせたことはすごく嬉しい。

 でも、完全に喜びきれない自分がいる。

「……萌香ちゃん」

 やはり、その存在は大きい。

 史くんの元カノ。

 天真爛漫でキラキラと輝いている。

 私にはない魅力を持つ女の子。

 中学時代、史くんと同じ委員会の後輩として知り合った。

 そして、時々、私と史くんの文芸部にやって来るようになった。

 話していて楽しいし、良い子だと思った。

 でも……その笑顔の内に、どこか私を敵視するような気配を感じた。

 そして、私が一足先に卒業する時。

 萌香ちゃんは涙ぐみつつも、ほんの少しだけ、口元が笑っているように見えた。

 私の被害妄想かもしれないけど。

 私が中学を卒業したあとの一年間、二人の間に何があったのか、あまりよく知らない。

 私にとって空白の一年の間に、二人は仲を進展させて、恋人同士になった。

 正直、とても悔しいと思った。

 私の方が、先に史くんと出会っていたのに……

 ひょっこり現れた、可愛らしい後輩に全てを奪われてしまったようで……

 だから、私は、本当にイケナイことだと思いつつも。

 二人が別れたと聞いて、内心で少し嬉しかった。

 お互い様だ。

 私も、萌香ちゃんも。

 そして、今は私の方に分がある。

 このチャンスを逃さない。

 絶対に……史くんとお付き合いしたい。

 この唇も、胸も、そして……ううん、言えない。

 私、鈴原里音という女をぜんぶ、彼に捧げたい。

 その覚悟は、とうの昔にできている。

「んっ……あっ……」

 自分の中でほんの少しだけ盛り上がった私は。

 つい、胸のてっぺんにも触れてしまった。

 こんな私を見たら、彼は……何て思うかな?

「好き……史くん……はっ……あんっ」

 漂うのは風呂の湯気なのか、それとも自分の吐息なのか、よく分からなかった。







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