ワガママな後輩彼女にフラれたら、優しい先輩彼女とお付き合いすることになりました。

三葉 空

2 元カノとの距離感

 優しい里音さんと話したことで、傷付いた僕の心は癒された。

 けれども、また一人になると、ジワリジワリ、と傷口が痛み出す。

 それは美味い夕ご飯を食べても、良い湯加減のお風呂に入っても、癒えることはない。

 風呂上がりに自分の部屋で勉強イスにもたれかかる。

 惰性でスマホをいじっていると、萌香とのやり取りを見てしまう。

 まだ、付き合っていてラブラブなやり取りをしていた時。

『フーくん、明日のデートは頑張ってお弁当を作っちゃうよ?』

 みたいな可愛いことを言ってくれていた。

 でも、最後の方は……

『大事な話があります』

 この改まった敬語口調を見た時、嫌な予感はした。

 と言うか、その前に異変を察知しておけという話である。

 僕は萌香が出している別れのサインに一切気が付くことが出来なかった。

 1年間も一緒に居て、何も気付けなかった。

 僕はこの間、努力を怠っていたのかもしれない。

 ひたすらに好意を寄せてくれる萌香に甘えて、僕の方から萌香に対してアプローチして、もっと彼女を知る機会を逃していたのかもしれない。

 それがこのような結果に繋がったのだとしたら……受け止めざるを得ない。

「……忘れよう」

 自分に言い聞かせる。

 そもそも、同じ高校に入学して一番つらいのは、萌香の方が。

 わざわざ、僕と同じ高校を選んでくれた。

 それなのに、僕と別れたいと思わせてしまった。

 僕が彼女の人生を狂わせてしまった。

 だから、そんな僕が彼女に出来るせめてものこと。

 それは、なるべく彼女に存在を臭わせないこと。

 同じ学校内だから、どうしたって顔を合わせてしまうことはあるかもしれない。

 けど、僕が萌香のことを意識から消して、ひっそりと過ごしていれば。

 恐らく栄光のルートを歩むであろう、萌香と触れ合うことはなくなるはずだ。

 もうこの際、僕の学園生活はどうなったって良い。

 だって、去年が楽し過ぎて浮かれていたから。

 調子に乗っていた罰が当たったのかもしれない。

 人生は山あり谷ありと言うし。

 去年が山のてっぺんなら、今年は深い谷底だ。

 そう思って、僕は自分を見つめ直し、生活して行く他ない。

「山……か」

 ふと、その単語が引っかかった。

 そして、ほわわん、となぜか頭に浮かぶのは。

 里音さんの豊かな胸だった。

 って、僕は何を考えているんだ。

 こんなどうしようもない僕に優しく声をかけてくれる里音さん。

 そんな彼女でエロ妄想をするなんて。

 まあ、中学時代はしょっちゅうしていたけど。

 今はそんな場合じゃないだろ。

 萌香を傷付けてしまった僕に、安息の時はない。

 しばらくは、色々と自粛をしなければならない。

 ピロン♪

 スマホが鳴る。

「……ん?」

 おもむろに画面を見ると、表示されていたのは正に里音さんの名前だった。

 僕はついドキッとしてしまう。

『こんばんは、史くん。ごめんね、夜遅くに』

 その優しい言葉を見て、僕はすぐさま返事をする。

『いや、平気ですよ。むしろ、嬉しいです。正直、一人だと何かに押し潰されてしまいそうだったので』

『そっか……萌香ちゃんとは、もう話していないの?』

『はい。その方が、萌香のためかなって思うんです』

『ちょっと寂しいけど……史くんがそう決めたなら、良いと思うよ』

『ありがとうございます』

『そうだ、史くん。今度の週末、予定はあるかな?』

『いや、特に無いですけど』

『じゃあ、ちょっとお茶でもしない? 二人きりで』

『あ、はい。良いですよ』

『本当に? 萌香ちゃんと別れたばかりで、どうかなって思ったけど……』

『ありがたいですよ。今日の帰りにも言ったけど、里音さんは僕にとって、最高の癒しですから。癒しの女神です』

『癒しの……女神』

『そうです』

『嬉しい。私、もっともっと、史くんを癒してあげたい』

『はは。中学時代からの付き合いがある、弟みたいなものだから?』

『それはそうだけど……』

『里音さん?』

『……ご、ごめん。何でもないの。じゃあ、今度のお休みに、二人きりで……ね』

『はい、楽しみにしています』

 そして、俺は里音さんとのやり取りを終えた。

「……はぁ~、やっぱり里音さんは優しいなぁ。けど、こんな冴えない僕の相手ばかりさせて申し訳ない。今年は受験で忙しいだろうに」

 僕はスマホを勉強机の上に置く。

「寝よう」

 そして、電気を消した。



      ◇



 里音さんに励まされたおかげで、僕の気持ちは上向きになっていた。

 学校へと向かう足取りも、思ったより軽い。

「よーし、立ち直るぞ~」

 そんな風に気合を入れた時だった。

「――フーくん」

 その呼び声に、息を呑みながら足を止めた。

 振り返ると、

「……も、萌香」

 僕のことをジッと見つめている彼女がいた。

「久しぶりだね、話すの」

「あ、うん。そうだね」

 僕は心臓をバクバクとさせながら、何とか平常心を装って萌香と話す。

「ど、どう? 高校生活は」

「モテモテで大変だよ」

「そ、そっか。さすがだね。萌香ならきっと、すぐに素敵な彼氏ができるよ」

 僕が気を遣いながら言うと、萌香の目付きが鋭くなった。

 ま、まずい。余計なお世話だったか。

「ご、ごめん。それじゃあ……」

 僕は足早に彼女の下から立ち去ろうとした。

「……フーくんさ」

「えっ?」

「彼女、出来た?」

「は? いや、出来てないけど……」

 萌香はまたジーッと僕を見つめて来る。

「……そう。何だか楽しそうに見えたから」

「た、楽しいなんてことはないよ。けど、前向きに行こうと思って」

「じゃあ、あたしも前向きになろうかな」

「う、うん。それが良いよ」

 僕は笑いかけるけど、萌香は笑わず、ひたすら僕のことを見つめていた。

 僕は最後に笑顔で浮かべて、萌香に背を向ける。

 彼女と対面すると、胸がドキドキしてしまう。

 それはまだ、彼女に対して恋心が残っているせいだろうか?

 それとも、自分をフッた彼女に対して恐怖心を抱いているのだろうか?」

 どちらにせよ、これ以上、彼女と話をするのは得策じゃないと思った。

「……フーくんのバカ」

 最後に彼女が何か言ったけど、僕はよく聞こえなかった。







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