ワガママな後輩彼女にフラれたら、優しい先輩彼女とお付き合いすることになりました。

三葉 空

1 後輩にフラれ、先輩に癒される

「フーくん、もう別れよう」

「えっ?」

 3月の終わり、高1の春休みも半ばに差し掛かった頃。

 僕は1年付き合った彼女にそう告げられた。

「な、何で?」

「何でって……自分で分からないの?」

 今、僕の目の前で少し怒った顔をしている小柄な女子。

 髪はセミロングで首の付け根のラインで切り揃えられている。

 天木萌香あまぎもえかは同じ中学の後輩だ。

 僕が中学校を卒業する時、彼女に告白された。

『史センパイの第2ボタン下さい!』

 今どき、そんなことを言うなんておかしくて。

 でも、必死な彼女の姿が何だか可愛らしくて。

『好きです! あたしと、つ、付き合って下さい!』

『ありがとう。こちらこそ、よろしく』

 そして、僕らは付き合うことになった。

 この1年間、特にケンカをすることもなく、ずっと仲良く付き合って来たと思っていたのに……

「……フーくん、分からないの?」

 萌香は怒りを通り越して、冷めたような目で僕を見つめる。

 そして、可愛らしい唇からため息を漏らす。

「フーくんはさ、優しいよ。すごく優しい。けど、優し過ぎるの」

「えっ?」

「ケンカをしないのは良いことかもしれないけど……それでも、あたしは寂しかったの。それに、フーくんは何もしてくれなかったでしょ?」

「何もって……」

「キスとか……エッチとか」

「で、でも、手は繋いだよね?」

「小学生じゃないんだけど」

 萌香の言葉がグサリ、と胸に突き刺さる。

「あたしね、悔しかったの。他の子なんて、中学生でもうエッチとか経験している子もいるのに、あたしは……フーくんと1年も付き合っていながら……バカみたい」

「で、でも、それが全てじゃないでしょ? 僕は萌香と一緒にいて本当に楽しかったし……」

「フーくん、もう終わりにしよう」

 萌香は言う。

「ありがとう、大好きだった。でももう、冷めました」

 早口に彼女はそう告げる。

「バイバイ」

 そう言って、僕の前から去って行った。

 そんな彼女の背中を追いかけることもせず。

 僕はただ、呆然と立ち尽くしていた。



      ◇



 そして、4月。

 僕は2年生になった。

「おーい、史ぃ。春休みは彼女とヤリまくりだったか~?」

 そんな軽薄なことを言うのは、高校に入学してから一番仲の良い友人、鍋元鎌哲なべもとかまてつだ。

「いや、そんなことは……」

「んだよ、まだ童貞かよ。あんな可愛い彼女がいてさ」

 鎌哲が言うけど、僕は押し黙ってしまう。

「どしたよ?」

「その、実は……別れた」

「はっ? 何で?」

「フラれたんだ、僕は不甲斐ないばかりに」

 僕はうなだれたまま言う。

 鎌哲は面白がって笑うかと思ったけど、何も言わずにポンと背中を叩いてくれる。

「女はまだまだ、たくさんいるさ。めげずに行こうぜ」

「鎌哲……僕を慰めてくれるのかい?」

「ああ、俺の胸で泣いても良いんだぜ?」

「いや、それは遠慮しておくよ」

 僕は笑って言う。

「なーなー、今年の一年生みた?」

「ああ。すげえ、可愛い子がいるな」

「小柄でロリ可愛い感じな」

「名前は確か……天木萌香だ!」

「萌香ちゃんね~、ロックオーン」

「お前、チャラいぞ~!」

 そんな会話が聞こえて来て、せっかく上向きになった僕の気持ちが、また下を向いてしまう。

「……ドンマイ」

「……ありがとう」

 当面の間、僕はこの想いを引きずってしまいそうだった。



      ◇



 放課後、僕は一人でトボトボと歩いていた。

「はぁ~……」

 鎌哲が『パーッ、とカラオケにでも行くか?』と誘ってくれたけど。

 とてもそんな気分にはなれず、気持ちだけちょうだいしておいた。

「……萌香、すぐに新しい彼氏が出来るだろうな。僕よりも素敵な」

 そうしたら、その彼氏と、僕が出来なかった、あんなことやこんなことを……もう、頭がおかしくなりそうだった。

「――ふみくん」

 その声にハッと振り向く。

 僕の目に映ったのは、美女だった。

 黒髪のロングヘアーがさらさらと春風になびいていて。

 目はおっとり垂れ目で優しい雰囲気を醸し出している。

「あ、里音さとねさん……」

 彼女は微笑みながら、僕のそばにやって来る。

「史くん、元気がないね」

「まあ、ちょっと……」

「その……萌香ちゃんとのことだよね?」

「あっ、萌香に聞きました?」

「うん。史くんと別れたって、わざわざ連絡をくれたの」

「そうですか……」

 この清楚な美人さんは、鈴原里音すずはらさとねさん。

 僕と萌香と同じ中学校の先輩で、僕の1個上だ。

 そして現在、僕と同じ高校の3年生である。

「……はぁ~。フラれた元カノが同じ高校だなんて……地獄だ。しかも案の定、そのルックスの良さで男子に噂されていて、いやおうなしに僕の耳に入るし……」

「史くん……何か私に出来ることがあると良いけど」

 里音さんは、まるで自分のことのように言ってくれる。

 この人は、昔からこうだ。

 誰よりも美人で優等生なのに、全くおごりたかぶることはない。

 誰よりも優しい人。

 そんな彼女に僕は甘えていたし。

 正直、恋心も抱いていた。

 でも、やはり高嶺の花だとあきらめていた。

「ありがとうございます、里音さん。こうして話してくれるだけで、僕の心は救われます」

「本当に?」

「はい。やっぱり、里音さんは最高の癒し系ですよ」

「い、癒し系?」

「萌香と付き合っていて楽しかったけど、正直ちょっとノリが合わないなと思うことがあって。だから、僕は里音さんみたいな人が合うのかもしれませんね」

「へっ?」

「あ、も、もちろん、僕と里音さんじゃ全然釣り合わないですよ?」

 僕は慌ててそう言う。

「……そ、そんなことは無いと思うよ」

「里音さん?」

「だって、私は昔から、史くんのこと……」

 里音さんは頬を赤らめて、僕をまっすぐに見つめて来る。

 僕もまた、心臓がドキドキしていた。

「……ううん、何でもない」

 里音さんは何かを誤魔化すように首を振った。

「ねえ、史くん。萌香ちゃんのこと、すぐには忘れられないだろうけど……」

 里音さんがそっと僕の手の甲に触れて、ドキッとする。

「私で良ければ、いつでも相談に乗ってあげるから。ね?」

 この人は美人だけど、小首をかしげる仕草はとても可愛らしいし。

 まだ17歳の少女なんだと思わせてくれる。

 それにしては、胸が随分と立派に発育しているけど……って、見るな僕!

「どうしたの?」

「あ、いえ! 何でもありません……」

「ふふ、変な史くん」

 里音さんは長い黒髪を耳にかけて微笑む。

 そんな彼女が、やっぱりきれいだと思った。







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