異世界行ったら従者が最強すぎて無双できない。

カザミドリ

勇者に遭遇しました

 墓地での戦い?のすえ、俺達は犯人を捕まえ原因を解決した。


「………アンデットは全部元の死体に戻ってるな」


「はい、動いているものはいないようです」


「そりゃなによりだ」


 しばらく歩き、解決した事を再度確認する。のだが……。


「誰も居ませんね!」


 フェンが周りを見ながら言う。ちなみにフェンが言っているのはアンデットについてではない。


「……マジでクソだな」


 拠点には誰もいなかった、冒険者もギルドの職員も、誰も。


「ふむ、どうやら我々が墓地に入った後、直ぐにここを放棄したようです」


 周りに転がっているアンデットには戦闘の跡はなく、自然に倒れたもののみである。


「……ここで防衛線を張るって俺言ったよな?」


「はい、確かに言っておりました」


「………どう思う?」


「嘗めてますね」


 初めて怒りを募らせる従者を止めようと思わない。


「……とりあえず街に戻ろう、話はそれからだ」


 幸い俺達の馬車はそのまま残されていたのだが。


「……残されていたと言うよりは、奪えなかっただな」


 馬車の中は人の足跡が沢山、ユニコーンが相当暴れたようで足下には暴れた後が沢山。


「……こりゃひどいな」


「タクト様、よろしければ少々掃除をさせて頂きたいかと」


「ああそうだな、頼んでいいか?」


「はい」


 何処からか取り出したモップで掃除し始めるクロノ。執事だから常に掃除道具持っているのか?


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 掃除が終わり馬車に乗って街に戻る頃には日が沈みきっていた。


「はぁ、割りと時間が掛かったな」


「そうですな、おや?」


「どうかしたか、クロノ?」


 荷台から業者台に顔を出すと、クロノが顎に手を当てていた。いや、綱握れよ。


「……街の門が閉まっています」


「なに?」


 見てみると確かに閉まっていた、出る時は開いていた門は完全に閉まり、番も居ない。


「夜だから閉まったのか、もしくは中で何かがあったのだろうか?」


 どちらにしろこれでは中に入れない。


「どうするかな、門まで行って叩いてみるか?」


「タクト様、今夜はここで野営をしてはどうでしょうか?」


 ふむ、それもひとつの手だな。


「野営はできるか?」


「はい、食材は確保してあります、幸いな事に馬車は綺麗にしたので中で寝ることが可能ですので、問題無いかと」


 荒らされたが為に野営ができる環境が出来たとは皮肉なものである。


「よし、じゃあ今夜は馬車で野営をし、明日の朝門が開いたら中に入ろう」


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 翌朝、門は開かれなかった。


「………日はもう高い、なぜ開かれないんだ?」


「タクト様、少々中の様子を見てきます」


「クロノ頼んだ、十分気をつけてくれもしかしたら中で何かがあったのかも知れない」


「はっ、畏まりました」


 クロノが門に近づいていく。ん?そう言えばクロノはどうやって中に入るんだ?


 首を傾げていると、クロノは閉まっている門を垂直に登り始めた、所謂壁走りをしてそのまま中に入って行った。


「あんな事できるのかよ……」


 野営をしなくても良かったのでは?……まぁいいか。


 しばらく待つと、門がゆっくりと開いて行き、中からマガリさんとクロノが出てきた。


「ようやく中に入れるな、ご苦労クロノ」


「はっ、しかし、些か煩わしい事になって下ります」


 煩わしい?何かめんどくさい事か?まぁ、だいたい予想つくけど。特にマガリさんの疲れた表情で。


「……本当に生きていたんじゃな」


 あー、はい、やっぱりそうですか。


「……とりあえず報告を先にしましょうか?」


 ギルドに行きマガリさんに事の顛末を報告する。


「……それで、その際に使われていたのがこの宝玉です」


 アンデットを作り出していた宝玉を机に置く。


「ほうなるほどねぇ、見たことの無いマジックアイテムだね、禍々しい空気を纏ってる、下手に扱うと大変な事になるだろう……」


 マガリさんはしげしげと眺め眉間にシワを寄せる。


「ふむ、所で、犯人は何処だい?」


「ああ、それでしたらまだ馬車で寝てると思います」


 野営中に全く知らない他人が居るのが嫌だったので、メロウに頼んで強制的に眠らせ排除した、今日の夕方には目覚めるだろう。


「そうかい、なら、この件は以上だね」


「ええ、この件は……」


 事件については終わったのでいい、問題は……。


「………うちの職員が済まなかったね」


「いったいどうゆう報告を受けたんですか?」


 次はこちらが話を聞く番だ。話の内容は、まずプライムローズ率いる街への救援班が主発した後、俺達が墓地に入り、犯人を捕まえようとしたが失敗、アンデットに成り襲って来たので、防衛線を放棄、街へと引き返して来たとの事。


「……そりゃ、また」


 奇しくも実際に負けていたらそうなっていただろうから、ある意味的を得ている。


 一通り聞き終わったタイミングで扉がノックされる。


コンコンコン。


「マガリ様、例の職員を連れてきました」


「お入り」


 墓地に付き添ったギルドの職員がプライムローズに連れられ入ってくる。


「っ!?生きていたのか……」


 職員が俺達を見て驚く。


「まるで、生きているのがおかしいみたいな言い方ですね?」


「そ、それは……」


 死んでいる確信が有るような、そんな職員の態度にマガリさんとプライムローズが眉をひそめる。


「貴方には聞きたいことがあります、まずなぜ街に帰って来たんですか?」


「そ、それは君達では勝てないと思って……」


「勝てない?あの奥に強力なアンデットが居たのを知っていたのですか?」


「い、いや、あの数のアンデットだ、とても歯が立たないと思うだろ?」


「そのアンデットなら、フェンとエニが貴方の目の前で軽く倒していたでしょう?」


「いや、しかし」


「加えて、そのフェン達を街に行かせようとした、まるで墓地から遠ざけたいみたいに」


 マガリさん達の疑問の視線が嫌疑に変わる。


「……どうゆう事だい?」


「ついでに言うと、その後全員で墓地の奥に行こうと言いましたよね?それは何故ですか?」


「………」


「答えられませんか?なら、代わりに答えましょうか?貴方は強い冒険者をアンデットにするために、あの墓地に集めた、違いますか?」


 追及についに職員がボロを出す。


「し、知らない!お、俺は、魔石が有るなんて知らなかったんだ!」


 はい、自白頂きました。


「魔石?それはこれの事ですか?何で知っているんですか?」


 机にこれ見よがしに置いていた宝玉を指差す。


「ルミアさん、これは何だと思いますか?」


「え?えっと、水晶?いえ、宝石でしょうか?少し禍々しい気がしますが……」


 プライムローズの他の面々も同じ反応を返した。この世界では魔石というのは相当珍しく、マガリさんでさえ禍々しい水晶か何かと答えたくらいだ。魔石と言ったのは二人だけ。


「これを魔石と知っているのはこれを使った人、そしてこれを渡した人、のみのはずですか?」


「………」


 もうネタばらしをしてもいいだろう、俺達は犯人を捕まえた際に事前に情報を聞き出していた。あんだけのアンデットを操る物だ、出所を調べた方がいいと思い、メロウの催眠で情報を全部聞き取っていた。この犯人がまぁ用心深い奴で、魔石を自分に渡るようにしたのがギルドの職員である事を調べ上げ、今回の騒動に協力する事を約束させたり、逃亡の手助けを約束していたり、と、ボロボロ出てきた。


「………確か、魔王教でしたっけ?」


「くっそ!」


「クロノ逃がすな!」


「ぐはぁ!」


 魔王教と言った瞬間逃げようした職員をクロノに取り押さえさせる。


「今、魔王教と言ったかい!?」


「ええ、彼は魔王教信者です」


 魔王教、読んで字のごとく魔王を崇拝し、世界に破壊と再生をもたらす……のが目的だとか。


「くっ、魔王様に栄光あれ!」


 と、叫ぶと職員は爆散する。


「自害か」


「……なんて愚かな事を」


 俺達はとっさにメロウが張ってくれた結界のお陰で全員無事である。


 その後俺達の知っている情報をマガリさんに話、今日はお開きになった。ギルドに魔王教が入り込んでいるのは相当大事な事らしく、この件については箝口令が引かれた。


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 全ての報告を終え、ついでに酒場で朝食を食べている最中。


「……変に暇になったな」


 昼前とはいえ、今から掲示板を見る気にもなれず、とりあえず酒場で食事をしているわけだが。


「今日一日どうするかな」


 これから次の目的地に行ってもいいのだが、そうすると忙しそうにしているマガリさんに言わないといけないわけで。


「んー……」


 気乗りしないうめきを上げていると。


「タクト様、今日のところは出発の準備に使い、明日マガリ様に告げに来れば良いかと思います」


 メロウの意見は至極真っ当である、ここで管を巻いていても仕方ないか。


「よし、じゃあ今日は準備に使い、明日出発でいいな?」


『はい!』


 ……と言っても、せいぜい買い物くらいだろうけど。


「タクト様、よろしければ別行動をしても?」


 おや?また、クロノから別行動の進言が来た、こう言うときはたいてい新しい何かを作る時だが。


「構わないが、今度は何を作るんだ?」


「はい、良い素材が手に入ったので、新しい剣を作ってみてはと」


「素材?」


「はい、つきましては件の魔石を頂けないかと」


「魔石を?」


 魔石はマガリさんに報告した後、ギルドをも手に余るということで報酬として貰っていた。


「まぁ、別に構わないが」


「ありがとうございます、では後程」


「あぁ、気をつけてな」


 クロノと別れ買い物をと思ったが。


「タクト様、わたくしも別行動をしてよろしいでしょうか?」


「メロウもか?」


 これは珍しい、メロウはだいたいが俺の側に居たので少し驚いた。


「はい、ダメでしょうか?」


「いや、別に構わないぞ?何をするんだ?」


「少しこれから行く異界神の教会について調べておこうかと」


 順路的にはこれから北に行き教会に挨拶と言うことになる、その前にある程度情報をということらしい。


「わかった、任せよう」


「ありがとうございます、では」


 一礼してメロウは去っていく。


「さて、フェンとエニは着いてくるよな?」


「はい!御供します!」


「ん……」


 良かった、いつも誰かしら一緒だから一人になるのが不安になり始めてる。


 フェンとエニを連れて買い物に出たは良いものの。


「……実際何買う?」


「とりあえず野営用の食材と雑貨、あとは適当にで良いんではないでしょうか?」


 適当にか、実際いざとなればエニかクロノに造って貰えばいいしな。


「よし、まずはあの雑貨屋に入るぞ!」


「はい!」


 近くにあった雑貨屋に入ると。


「うぅ……」


 血塗れの男が倒れていた。


「大丈夫ですか!?」


「ぐぅ」


「ひどい怪我だ、エニ回復を!」


「ん!」


「いったい誰がこんな事を?街中に盗賊でも居たのかよ」


「んー?傷の状態から、何発も殴られたみたいですね、肋が三本、顎に裂傷、止めに腹を一突きですね、確実に殺しにきてます」


 お、おう、フェンが解説してくれるが見た目子供が冷静に傷の内容を教えてくれるのは恐怖を感じる。


「う、うぅ……ゆ、ゆう……しゃ……」


「え?」


 今この人勇者って言わなかった?聞き間違え……だといいな?


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 しばらくして意識を取り戻した、雑貨屋の店主からお礼を言われる。


「本当に助かりました、ありがとうございます」


「いえ、えっと、何が有ったんですか?」


 迷ったが聞かないわけにもいかず、店主に何故怪我をしていたか訪ねる。


「……今この街に勇者様が来ているのです」


 おう、聞き間違えじゃなかった、いや、まだ犯人と決まったわけじゃ……。


「その勇者様が店に入って来るなり、ポーションは無いかと……」


 あー、雑貨屋にポーションは基本置いてないんだよな、置いているのは薬屋か、ギルドの販売店なんだが。


「うちには無いことを伝えると、怒りだして、あとは皆様の知っている通りです」


 沸点低いなぁ、こりゃあ、ダメなタイプの勇者かな?


「……衛兵には伝えないんですか?」


「と、とんでもない!そんな事したら、どうなるか……」


 うーん、これはどっちだろう、国の問題か?勇者の問題か?でもなぁ、会った感じそんな無茶な事言わなそうな王様達だったし、たぶん勇者が問題なんだろうな。


「お、お願いです!衛兵には言わないで下さい!家族に何かあったら困るんです!」


「わ、わかりました、誰にも言いませんから落ち着いて!」


 相当悪い噂、それも誇張なしに伝わっているらしいな。


 その雑貨を買って店を後にした、お礼なのか口止めなのか、全て無料にしてくれると言うのを丁重にお断りしてちゃんと代金を払い宿に戻る。


「ただいまっと」


「御帰りなさいませ、タクト様」


 宿の部屋に行くと既にメロウは帰って来ていた。


「あれ?クロノは?」


「しばらく掛かるので先にお休みしていて下さいと言って下りました」


 ほー、それだけ時間が掛かるって、いったいどんな物を造っているのか。


「わかった、ならそうだな、宿に頼んで弁当でも作って貰おう、悪いがメロウ持って行ってくれるか?」


「畏まりました」


 その後宿で休み翌日、俺はギルドの酒場で驚く。


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「何だこれは!?」


「昨日御時間を頂き造りました、剣です」


 いや、剣は剣でも伝説のが付くものだよね?見るからに普通の剣より威圧感が違う、何より刀身が白銀、柄の部分は件の魔石が埋め込まれた金色。明らかに勇者が使いそうな剣だ。


「これは、何て言うか……」


 俺が使うようなものじゃないと言いたかったが。


「すごいです!まさにタクト様にぴったりです!」


「ん……すてき」


 メロウも頷いている、どうやら従者達には好評らしいのだが。


「いや、こんなの持ってたら、悪目立ちするだろ」


 そんな話をしているそばから。


「おい、そこのお前!」


「ん?」


 声に振り替えると、そこにはいかにも高そうな鎧を着た青年が立っていた。あー、こいつたぶん……。


「なかなか良さそうな剣を持っているな?それを俺に寄越せ!」


「いきなり何を言っているんですか?」


「あぁん?ああ、お前知らないんだな?」


 バカにするように笑う青年が誇らしげに言う。


「俺は勇者だ、解ったらその剣を寄越せ」


 だよなぁ、こいつ髪は上半分くらいが黒で下が汚い金色だが黒目でいかにも日本人ぽいからな、勇者だと思ったよ。


 はぁ、会いたくなかったが、残念な事に勇者に遭遇した。







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