勇者?いいえ、聖・魔剣使いです。〈 聖・魔剣使いの英雄談〉

カザミドリ

9.それからとこれから(エピローグside明)

デスに肩を貸しながらみんなの元へと戻る。

「明くん……」

「ちょっと、明?それ、大丈夫なの?」

鈴が指差すそれとは、今まさにデスに刺さっているガラドボルグの事である。

「あ、あの、工藤さん、そろそろこれ抜いてください」

「あ、悪い、忘れてた」

そう言ってデスからガラドボルグを引き抜く。

「ぐふぅ……」

抜いた時デスが呻く。

「おい、人聞きの悪い声出すな、痛みは無いはずだろ?」

「……すいません、でも異物感は有ったので」

痛みは無いが剣が刺さった感触はあるようだ、それは嫌だな。

「てゆーか、デス君無事だったの!?」

「はい、何とか魔王の中で少しですが意識を保っていました」

その僅かな意識も本来なら消えていたはずだが、ガラドボルグによって取り戻す事に成功した。

「明日を切り開く聖魔剣ね、まだまだわからない事が多いな」

「そうですね、でもそのお陰で僕は助かりました、ありがとうございます」

デスに礼を言われる。

「……そう言えば、お前もう魔王じゃないんだろ?」

「……はい、魔王の力は完全に消えています」

「その事で明様、ご報告がございます」

ミーアが一歩前に出る。

「どうした?」

「どうやら私も魔王の力が無くなったようです」

「リミアちゃんも、ただの美少女になったよ!」

ふむ、どうやら現存する魔王全員がその力を失ったらしい。

「………大元の魔王が居なくなったからか?親機が使えなくなったから、子機が使えない的な?」

「まぁ、多分そうだと思いますけど……」

「言い方もうちょっとなかったの?」

とりあえず、本当に脅威は去ったようで何よりだ、一息着こうとしたが。

「工藤様!急いでこちらに来てください!」

声を上げたのは回復を担当していた、クリスティア法王だ。

「どうした?……ああ、そうか」

近づくとそこにはデュラハンが倒れていた。

「先輩!」

その身を貫かれて尚、俺達を守るために魔王の剣を受け止めたその身体は限界であった。

「……すまない、俺達のせいで……」

ガシャ……。

サムズアップするその姿は弱々しい。

「先輩、先輩!」

ガシャン。

デュラハンがデスの頭に手を置く。

「ありがとうございました、今まで、貴方のお陰で僕は……」

ガシャン。

小さく手を振る、その姿には「気にするな」と言っているようにも見える。

ガシャ……。

「握手か?」

差しのべられたデュラハンの手を掴む。その手からはデスのこれからを頼むという意志が伝わってくる。

「ああ、わかった、デスについては任せてくれ、俺からもありがとう……」

ガシャン!

最後にサムズアップをして力が抜けたように、動かなくなる。

「う、うぅ、うああ……」

動かなくなった鎧に静かに黙祷する。



しばらくして、デスが落ち着いたのを見計らい話しをする。

「………彼の墓を作りたいと思うんだが、何処がいい?」

「………ルクレア法国の外れに彼の田舎に似た所が有ります、そこに作ってあげたいです」

「………わかった」

デスは空になった鎧をそっと抱き上げ、用意した馬車に乗せる、そのまま彼も馬車に乗るように伝える。

「………負傷者を先に街まで運んでくれ、少なくない被害が出ているんだ、急いでやってくれ」

「はい、わかりました」

クロエ達メイド部隊に指示を出して、俺はその場に座り込む。

「明様も負傷しています、馬車にお乗りください」

「いや、俺は最後でいい、もう少しここで休んでいく」

「………畏まりました」

クロエは何か言いたそうだったが、静かに頭を下げ馬車に向かう。

魔王城の小島を眺めつつ、物思いにふける。

「明くん、大丈夫?」

澪が心配そうに聞いてくる。

「………ああ、少し疲れたな」

「あんたは、良くやったわよ」

「うん、最善を尽くした、そうだろ?」

鈴と司の言葉が刺さる。

「そうだな、最善だ、だが、少なくとも一人の死は俺の責任だ」

最初の一撃、あれは俺の油断、デュラハンが死んだのは俺の責任だ。彼の本当の名前は?彼は何処から来た?彼は何者だ?デスと一緒に聞きたい事は多くあった、ひょっとしたら俺が彼の明日を奪ったのでは?

「人死には初めてか?」

そう言って来たのはダイア皇帝だった。

「…………ああ、目の当たりにするのはな」

「………そうか、割り切れとは言わない、悩んで悔やんで、それでもお前の守った物に目を向けろ、経験上それが一番立ち直りが早い」

アドバイスなのか良く解らない事を言うダイア皇帝。

「ああ、わかった………」

自分の守ったもの、いや、守り続けなきゃいけないものなら、今も隣にいるよ。

「償いは、全て終わってから………」

小島に黙祷しつつ、決意と敬意と謝罪を。

それから、何度目かの馬車の往復に乗り、俺達はベアトリス王国へと戻った。


それから一週間後、俺は馬車に揺られていた。

ベアトリスに戻ると、直ぐに王族達はそれぞれの国には戻らず、これからの支援体制の確立の会議に明け暮れた、俺達異世界組も惜しみ無く力を貸していく予定、だったんだが、俺は断られた。

いやね、そりゃ以前復興の手助けをする際、いろいろやったよ?特にガレオン帝国では、でもね、顔を引き吊らせながら、腫れ物を触るようにやんわり断らなくてもいいんじゃない?ちょっと傷つくよ?

結果、俺は本来の目的である、元の世界への帰還方法の捜索をすることになる。

ひとまずはデス、いや、篠宮 翼(しのみや つばさ)と一緒にルクレアを目指している。

目的は二つ、まずデュラハンの埋葬、彼の故郷に似ていると言う地へと向かう予定だ。

二つ目は、ルクレアが保有する膨大な歴史書、古文書の解読だ、ひょっとしたら何か手掛かりが有りそうではあるが、数が数だけにまだ手付かずの物が多いとの事、仕方ないので少しずつ探して行こうと思う。

俺についてはこのくらいか?以降は各国についての記述だ。

まずベアトリス王国はさほど復興が必要ではないので、各国に支援をするのが今後の主な役割である、特に人手の支援が主になるだろう、最低限を残し勇者を各国に派遣、中継点を担っている、情報も殆どはここに集約されそれぞれの国に渡される。

日野がまともになった事で日野に従っていた奴等もある程度動かせるようになったのはありがたいことだ。

「そう言えば、お前何でそんなに変わったんだ?」

「いや、僕にもそれは解らない」

〈聖魔剣のレプリカの暴走の際、日野聖治の中にあった、謂わば毒素が消費された事が原因と考えられます〉

「毒素って………」

「た、確かに肩が軽くなった気はするけど………」

聖魔剣にはデトックス作用でも有るのだろうか?

以上が旅に出る前の日野との会話だ。うん、まぁ、会話できるくらいになって良かったんじゃないか?

ああ、ちなみに一部の日野信者が、勇者日野を称える銅像を作れと無茶を言ってきたよ、相変わらずだね?しかし、日野本人がそれを拒否、こっちは変わったね?デトックスの効果だね。

それはともかく、石碑を立てるのは良い事なので記念碑は作った、そこには参加した各国の兵士、勇者、王族、そして篠宮翼とデュラハンの本名も書かれた。

え?俺の名前?書かれたよクロエ達によって、石碑のど真ん中にデカデカと。

ちなみに銅像も作られたけど、全力で壊しました。

閑話休題。

さて、次にガレオン帝国では、城が絶賛建設中だ、委員長の手によって。

覚えていない人のために、一度説明を入れておこう。

以前獣人の村引っ越しの時、委員長がガレオン帝国の大工クマゴロウに日本の城について熱く語った事があった。

それに感化された、クマゴロウ帝国筆頭大工(後にダイアから任命された)は委員長と手を取り城を作っている。

何より、皇帝のダイアが乗り気だった、決戦の後、委員長がダイア皇帝に日本の建築美について、それはもう熱く語っていた、少し盗み聞いたが日本家屋について話していたな。

大丈夫だよね?城処か城下町とか、長屋とか出来たりしないよね?一抹の不安を覚えながら、帝国組を見送ったものだ。

次いでルクレア法国だが、こちらもほぼダメージが無いので各国に教会を設立、回復や医療についての協力を約束していた、特に法国産の薬の輸出と開発が急務になっている。

ここで意外な才能を発揮したのがキャプテン率いるシスター大好き組だった、まず第一にシスター好きがそんなに居たことに驚いたが、これはどうやらキャプテンがせんの……布教したらしい、妥協しても布教が精一杯だった。

とにもかくにも、このシスター大好き組、割りとバカに出来ない、この中には薬や医学に詳しい者が多く、遺憾なく知識を発揮した、加えてキャプテン等の体力自慢が多く、野を駆け山を駆け、必要な薬草や素材を効率良く集めていた。

素晴らしい分業能力で医療をサポートしていた。以前に比べ楽になったと法国のシスターも大喜びなのだが、奥手なキャプテンはなかなかシスターに手を出せずじまい、残念!

最後に澪達についてである。俺の乗る馬車には澪達は居ない、居るのは翼だけだ。実は現在俺達はバラバラに行動している、お互いがお互いに依存し続ける今の現状を危惧した結果、しばらくは別れて行動する事に話し合いで決まった。

激しく反対すると思われた澪も、以外にもあっさりと了承した、一瞬愛想つきたか?とも思ったが、俺の出発前に髪が欲しいと言って来たので、大丈夫(?)そうだった、ちなみに髪は最近伸び始めていたから、クロエに少し切ってもらいそれを渡した、その際クロエが入れるための小袋を複数用意していた気がするが気のせいだよね?

…………話を戻そう、大丈夫悪寒なんて走ってない。

別れる際、澪と司にはベアトリスに残ってもらい、鈴と敦にはガレオンに行って貰った、最初は澪と鈴、司と敦に分けようかと思ったが、若干二名の要望に目を向けて、この組み合わせに変えた。

その内の一名エレナ姫は決意を固めた目をしていたが、もう一名の敦はまだ決心できない様子だった、ヘタレめ。

さて、これが今後についての指針である、澪達と再開するのは三ヶ月後を予定しているが、どうなるかはまだ解らない、結果は神のみぞ知ると言うやつだ、俺はナビさんを見ながらこれからについて思いを巡らせる。

ひとまずは俺の物語はここまで、またいつか語る日が来ればいいとは思うが、とりあえず物語を閉めようと思う。



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