勇者?いいえ、聖・魔剣使いです。〈 聖・魔剣使いの英雄談〉

カザミドリ

6.聖魔剣の力


「ガッ!」

「グゥ……」

「ゴハッ!」

何度となく壁や床に叩き付けられる、さすがにあちこち痛みだす。

「ククク、無様だなぁ聖魔剣使い?しょせん貴様には何もできぬ、諦めよ」

「………諦める訳にはいかない、見たい明日があるんでな」

「明日だと?」

「ああ、そうさ、みんなで笑い合う明日だよ、たったそれだけのちっぽけな願いさ」

「ククク、なんと陳腐で愚かな」

「笑いたければ笑え、誰も犠牲にしないし、諦めもしない!」

「ならばその希望、砕いてやろう」

靄が蛇のように体に巻き付いてくる。

「グゥ…」

そのまま持ち上げられ投げ飛ばされる。

「明!」

「明くん!」

どうやら司達の所まで投げ飛ばされたらしい、部屋の約半分の距離飛んだと言うことか。

「その希望、夢、未来、我が壊してやろう!」

直後、禍々しいオーラが奴の腕に集まる。

「くっ……」

駄目だ、あれは受け止められない、本能が警告を鳴らすが。

「避けるわけにいくか!!」

避ければ後ろに居る司達に当たる。

打ち下ろされる剣状に変化した魔王の腕に対して、下から掬い上げるように合わせる。

「ぐぅ、あぁぁ……」

何とか頭上で耐えるが、徐々に押し込まれる、圧によって足が地面にめり込む。

「明!」

横から手が伸び聖魔剣の柄を掴んだ。

「司!?」

「君にだけ背負わせたりしない!あの日、誓ったんだ!君の隣に立つって!君の親友であり続けるって!」

聖魔剣から眩い光が溢れ、放たれる。

それは紛れもなく聖魔剣の本来の力、つばぜり合いをしていた魔王の腕を消し飛ばし、霧散させた。

「ぬぅ、ぐぅ……」

「聖魔剣が使えた?いったいどうして……」

とにかく、今がチャンスと、体制を立て直そうとすると。

キィィィン

「ぐぅあ!」

「きゃあ!」

「なに!?」

突然の大きな耳鳴りに、耳を押さえてうずくまる。

司や澪達も同じようにうずくまる中、景色は色を失ったように灰色に変わる。

「……なんだ?何が起きて?」

動いているのは、俺、司、澪、鈴、敦、そして……。

「ぬぅ、忌々しい聖魔剣の意思め……」

「ちっ、あいつも動けるのか」

どうやら魔王も動けるらしい、それより魔王の言葉が気になる、聖魔剣の意思だと?

『使い手よ』

複合音声の様な声が響く。聞き覚えがあるその声は間違いなく聖魔剣の意思だった。

「え?誰?」

「聖魔剣の意思ってやつだ、ガラドボルクの名前を聞くときに聖魔剣の中で会った」

状況を飲み込めてない鈴達に説明をしつつ、聖魔剣の意思に目を向ける。

『使い手よ、手を重ねよ』

「手を重ねる?」

『聖魔剣は一人では振るえぬ、手を重ねよ………』

キィィィン。

聖魔剣の意思の言葉が切れると、再び激しい耳鳴りに襲われ、時間が動き出す。

「手を重ねよね、なるほど、澪!司!敦!鈴!」

「うん!」

「わかった!」

「うむ!」

「え!?なに?どういうこと?」

若干一名理解できてないが全員が集まる。

「ぬぅ、させんぞ!」

怒号と同時に再度無数の魔物がわき出る。

「ちっ、まだこんなに……」

「どうする、明?」

「ここから、撃ってみる?」

「いや、できれば確実に一撃与えたい、だから、狙うは至近距離」

回数制限があるのか、それも録にわからないんだ、なら、一撃必殺に掛けるしかない。

「だが、この壁を越えるのは至難の技だぞ?」

敦が言うように、俺達の目の前には幾重もの魔物の壁が出来ていた。

「ならばその道我らが作ろう!」

声の方を見ればダイア皇帝が腕を組んで立っていた。

「ダイア皇帝生きてたのか」

「人を勝手に殺すんじゃない、人手が必要なのだろ?」

確かにここでダイア皇帝が来てくれたのは嬉しいが。

「下は大丈夫なのか?」

「ご心配なく工藤様、下に居たものは全てこちらに来ているようですから」

ダイア皇帝の後ろから、クリスティア法王とリュエさんが歩いて来た。

「と、言うことは、あれは本来、下で抑えてた奴か?」

それを、さも、助けに来たと言うように、手を貸そうというダイア皇帝。

「な、なんだその目は!言いたいことは分かる!だから、急いで上がって来たんだぞ!」

「はい、はい、どうもありがとうございますー」

「くぅ、このぉ………」

「まぁまぁ、落ち着いてくださいダイア様、それよりあれが魔王ですか……」

「あぁ、奴の近くまで行きたい、力を貸してくれ」

「畏まりました、ですが、なぜ攻めて来ないのでしょう?」

そう、今、俺達はゆっくり話をしているが、魔王も魔物も動きを止めている。

「恐らく、あれのせいだろう」

魔王の腕を指差しながら言う。

「奴の腕を消し飛ばしたんだが……どうやら聖魔剣でつけた傷は治りが遅いらしい、今のうちにもう一撃叩き込むのがいいだろう」

「……ふむ、どうやら、そこに勝機があるな」

「あぁ、勝負時だ、チャンスは一回、一撃必殺だ!」

こうして、最後の時は近づいていた。

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