勇者?いいえ、聖・魔剣使いです。〈 聖・魔剣使いの英雄談〉

カザミドリ

5.魔物の大群


さて、どうしたものか、アリシアと見せしめと言う名の訓練をしていたら、魔物の大群が発生したそうだ。

ナビさん詳しいことは解る?

〈ハイ、現在魔物の大群は、街から少し離れた森を突き進み、真っ直ぐに街に進行中です、幸いな事に森を進んでいるためか進行速度は遅く、街に到着するまではまだ時間があります、どうしますか?〉

どうしますかと言われてもなぁ、それってどれくらいの脅威なの?

〈マスターにとっては、脅威になり得ませんが、現在のこの街のマスターを抜きにした戦力では太刀打ちできないでしょう〉

マジか~どうするかな~

〈戦わないならば、早急にこの街を出る事をおすすめします〉

 悩んでいると、腕を捕まれ引き上げられる。

「大丈夫ですか?何度か声を掛けたのですが反応が無かったので…」

どうやら倒れたまま考え込んでいたら、俺が動かないのを見て心配になり、アリシアが引き上げた様だ。
驚いている俺を見て、慌てて説明してくる。

心配したのは司達も同じ様でこちらに駆け寄ろうとしていた、いや、澪だけはすでに隣に居た。

「大丈夫です…けど体が少し痛むのでここまでにしてもらえますか?」

と、成るべく弱々しくを心掛け言ってみる。

「判りました、今日は部屋に戻って休んでいて構いませんよ」

と、労るようにアリシアに言われる。それを聞いて、部屋に向け歩き出しながら、司達に向けて予め決めておいた緊急事態のハンドサインを出す。

気付いたらしい司達が驚いた顔をしながら小さく頷くのを見届け部屋に戻る。

部屋に戻ると用意してあった荷物を出し、直ぐに出ていく準備をする。
まだ時間があるとはいえ、急ぐに越したことはない。

緊急時の場合、決めておいた時間内に集合場所に集まるようにしてある、もしも来なければ仕方がないがここでお別れだ。

準備を済ませ部屋を出ると、廊下にはアリシアが居た。

「その荷物は何ですか?」

「アリシア団長、何故ここに?」

「質問をしているのはワタシですが、まぁいいでしょう、貴方が体が痛むと言っていたので、良く効く傷薬を持って来たのです」

めっちゃいい人やん!?いい人っぷりに涙が出てくるわ!?

「さぁ、今度はワタシの質問に答えていただきますよ!」

「ちょっと、明!緊急事態ってどうゆう事!?」

険悪な雰囲気の中鈴が叫びながら駆けてくる、いや、お前、来たらハンドサインの意味ないだろ!?何考えてんだ!?
…わかった何も考えてないな!!

 グダクダの中、鈴と一緒に駆けてくる中で、今一番状況を理解しているであろう司を睨む。

「いや、鈴が聞きに行くって停まらなくて…」

「停めてくれよ」

思わず声に出してしまった、そんな俺達の問答に水を指す声がする。

「そんな事より緊急事態って何?」

「…緊急事態?それは何なのですか?」

司達から遅れること少し、どうやら慌てる司達を見て付いてきたらしいエレナ姫が言う。しかたない、この場で説明するか。

俺は、ナビさんから得た情報を簡単に伝える。もちろん、ナビさんの事やスキルについてのあれこれは秘密だ。

「にわかには信じられませんね、貴方は一体どうやって知ったのですか?」

「企業秘密だ」

アリシアの質問に対して、華麗に?スルーする。
元々アリシアは俺の力を疑っていたのか、疑心の目で見られる。

「そ、そんな、一体どうすれば…」

「姫様、確りしてください!」

 アリシアに対して、同様を隠せないエレナ姫、お供をしていた兵士に支えられて何とか立っている状態だ。

「貴様、でたらめを言うな!」

エレナ姫を支えるのとは別の兵士が、剣を抜きながら叫ぶ。
おいおい、王城の、それもお姫様の居るところで軽々しく剣を抜くなよ。

よっぽど怒っているのか、なめられてるのか?まぁ、今は余裕ないし、ちょっと眠ってて貰おうか。

「…グハ」

「な、貴様、ガハ」

続けざまに、鬱陶しいお供の兵士を手加減した手刀で気絶させる。
これで話しやすくなった、邪魔が入ると話しにくいからね。

「…貴方は一体何者何ですか?」

「ただの異世界人だよ」

ショックにショックを重ねると言う方法で、最初のショックから立ち直ったエレナ姫に聞かれる。
もちろん詳しいことは答えない。

「…魔物の大群は本当なんですね?」

「だから、さっきからそう言っている」

「…アリシア、今の戦力では本当にどうすることも?」

「姫様、残念ですが恐らくどうすることも出来ないと思います、出来たとしても被害は尋常じゃないものになるでしょう」

「……」

「しかし、一つだけ方法があります」

重たい空気のなか、アリシアが呟く。
エレナ姫は、その呟きに希望を見出だす。

「アリシア、その方法とは何ですか!?」

エレナ姫の問いに対して、ゆっくりと俺の方を見つめる。

「彼ならば、何とか出来るのかも知れません」

「え?」

 アリシアの言葉にまるで信じられないと言う風に、同じく俺を見つめるエレナ姫。

「ずいぶん都合のいい事を言うな」

「否定はしないのですね」

「今さら、隠し通せそうにないからな」

と、横で倒れている兵士に視線を移す。

「待って下さい、本当にこの方が?」

「姫様、この方は、ワタシの剣を避けました、それも全力の」

「アリシアの剣を!?」

疑わしそうに見るエレナ姫にアリシアが説明する。

「はい、それも一度だけではなく、何度もです」

そう、訓練中アリシアは何度も全力で剣を振ってきた、本気でボコりに来ていた。

アリシアの言葉を受けたエレナ姫が、こちらを見据えて言う。

「お願いします、この街をお救いください!!」

「さっきも言ったが、ずいぶん都合のいい事を言うな、お前達は散々人を奴隷扱いしていたじゃないか?見ろよこのみすぼらしい格好を!?」

現在俺は、ボロ布のシャツとズボンだ、訓練をしたせいであっちこっち破れている、破れた布の間からは、傷が生々しく見える、この格好を見てよく助けを求められるものだ。

「そ…それは…」

「それに、あんたは俺が助けて欲しいときに助けてくれなかったよな!?何で自分は助けてもらえると思った?」

「……」

俺は別に助けられたくなかった訳ではない、助けて貰えるなら助けて欲しかった。

せっかくなので溜まった鬱憤を晴らさせてもらう。

「街が危ない?そんなもの知るか、今までお前達が俺に何をしたか忘れた訳じゃないだろ!そんな奴らのために、命を懸けて戦う?そんな事するわけないだろ!?」

すると、エレナ姫が頭を下げる。

「私には、こうすることしかできません!貴方の怒りは最もです、でも、もう私にはこうすることしか出来ないのです、今までの事はお母様に伝えちゃんと償いをします!これからは貴方様の不利益になる事はしないと誓います!ですからどうかこの国をお救いください!」

エレナ姫の謝罪を受け、頭が冷える。

「ワタシからも、どうかお願いします!」

アリシアも同じように頭を下げる、流石にこの二人に頭を下げられたら、冷静に成らざるを得ない。

「分かった、力を貸そう、ただし今度何かあったら俺はこの国を出るぞ?」

花が咲いた様な笑顔を見せるエレナ姫。
それじゃま、いっちょ派手にやりますか。


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