僕が守りたかったけれど

景空

第92話

「何かこのあたりの上位魔獣さえ逃げ出すような強力な存在が……」
僕はボソッと呟いたあと、自分の言葉にゾッとしてミーアに声を掛けた。
「ミーア、最大警戒。僕の探知範囲外に何か規格外の存在がいるはずだ」
「フェイ、どうする。逃げるの」
「いや、確認だけはしたい。できれば一当てして手ごたえも確認したいところだけれど、それは状況次第かな」
僕とミーアは追跡を開始する。これで気配を消し探知を最大で展開しながら魔獣の痕跡を手掛かりに探索を行う。
ターゲットはやはりかなりの巨躯の持ち主のようだ。比較的太い木がいくつも折れている。毛の少ない魔獣らしく痕跡周辺にターゲットのものと思われる毛の付着は見つからない。そうして探索をしていると徐々に高台にむかって移動しているのを感じた。追跡で小さめの山を登っていると僕の探知の端に魔獣らしきものが引っかかった。ミーアにハンドサインで発見の合図を送る。距離はあるけれど、あの巨大亀を捕食する魔獣かもしれないのだ慎重にアプローチする。風向きを確認すると左からのやや向かい風。少し進路を右にずらして、完全に風下になるようにしっかりと調整しつつ向かう。少し進んだところでミーアがピクリと肩を揺らした。ミーアの探知にも目標が入ったのだろう。ミーアの探知も以前とは桁違いになっている。1マルグまではいかないものの1000メルドは余裕で届くみたいだ。そして、実は僕にはある伝説の魔獣が頭の中に浮かんでいる。上位種では討伐記録自体も伝説となってしまっており、稀にその死骸が発見されるとその素材が超上級の武具の素材となる魔獣。最下位種ですら数年に1度上級冒険者が複数パーティーで犠牲を出しながら討伐に成功する程度。
あとおよそ500メルド。森の中では視線が通らずまだ目視確認はできない。その反応の向こう側も魔獣の反応がない。どうやらこれが上位魔獣さえ恐れさせる存在で間違いなさそうだ。残り200メルド。100メルドあたりで森が切れているように見える。残り100メルド。唐突に森が切れ、視線が通る。
いた。森の中の開けた高台でまるで日光浴でもしているかのようにじっとしてる。全長25メルドはありそうだ。4本脚で体高は4、5メルドといったところか。全体のフォルムはトカゲに似ている。やはり
「アースドラゴン」
僕が呟くのと同時にミーアも口にしていた。最下位の竜種。最下位とは言え竜の眷属。巨大な身体とそれに見合った力。上位魔獣を捕食するに十分な力を持つ存在。それでも、出来れば一当てしてみたい。
「このまま、ここで待っているのも芸がない……か。ミーアちょっと下がって作戦を練ろう」
さいわいと言うべきか、アースドラゴンのおかげで他の魔獣は近寄ってこないようだ。僕はミーアに自分の考えを話してみた。
「うん、逃げ道を先に確保してからなら……」
ミーアと作戦を共有した。まずは逃げ道を確保する。
「ミーアは、そこに」
頷くミーアと分かれアースドラゴンの風上に移動する。あまり風が強くないので僕のにおいはアースドラゴンまで届くのに時間が掛かるだろう。それでも急がないと事故が起きてからでは遅い。
僕は境界線にここまでに狩ってきた新種上位魔獣の死骸をひとつ魔法の鞄から出して転がす。そして、急いでそこを離れさらに風上に巨大亀の死骸を1体出す。そして僕はその巨体の陰に潜む。ここまで来たらあまりやることは多くない。この2体の魔獣の死骸のにおいにアースドラゴンがいつ気付くか。そろそろ弱い風乗ってにおいが届く頃だけれど。更に少し時間が経つ。さすがにとっくににおいは届いているはず。失敗かと思い。死骸を片付けようと思ったとき、動きがあった。アースドラゴンが首を上げ鼻先を揺らしている。ゆらりと立ち上がりゆったりとした足取りでこちらに向かって歩きはじめた。そこまで確認した僕は2体の死骸から離れ100メルドほどの場所で久しぶりに黒弓を取り出した。少し離れた場所ではミーアも狩弓を準備して待機しているのが見える。そこまで確認し、僕はアースドラゴンの監視に戻る。さあ餌に食らいつけ。

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