僕が守りたかったけれど

景空

第90話

事前調査に出て6日目。僕達は前回の八つ当たりデートでの一番奥だった場所に到着した。魔獣の空白地帯はまだ完全には無くなってなかったこともあり、ここまでは基本的に魔獣を避けてくることが出来た。
「さて、ここからが本番だ」
そっと呟き、僕は探知を全開で展開する。6年前は半径800メルドが限界だった探知も熟練度があがり、今では最大探知範囲は半径2マルグを超える、しかも最近気付いたのだけれど僕の探知は上位魔獣が隠蔽能力を使っても見逃すことがなくなっていた。あの時、何度も貴族派が放った隠蔽能力を使ったスカウト相手に探知で対抗したから探知の精度が上がったのだと推測している。そして最初はスカウトを見つけられなったミーアの探知も今では格上のはずのスカウトの隠蔽を見抜けるようになってきていた。僕達の過酷な経験がそれぞれの力を底上げしてきている。おそらく素の状態からすれば2、3階梯上に相当する力を僕たちは手に入れた。そして、僕達は2、3階梯上の力をもった初心者ではなく、相応の経験を積んだ経験者だ。仮に同じ力を持っているだけの初心者を相手取ったとしても負けることはあり得ない。その程度の自負はある。それでも、ここからは未知の領域。人が未だ立ち入ったことのない深層の更に奥。僕はミーアを見る。ミーアも僕を見ていた。目と目が合いふっと微笑みを交わす。
「行こう」
油断はしない。探知を全開で展開しつつ、隠蔽を無効化しているとしても魔獣の痕跡を探しつつ探索を進める。この領域ならまだ僕達は強者だけれど、奥に足を踏み込んだら分からない。大きく息を吸い、吐き出す。
最初の獲物は先日の新種だった。風下から近づき、目標が反対を向いた瞬間に足音を潜め駆け寄る。体躯が巨大なためいきなり首を刈るわけにはいかない。僕とミーアは左右に分かれ僕が右から左手に持つハンド・アンド・ハーフソードを、ミーアは左から右手に持つ片手剣を振るった。
「グルウォ」
一瞬だけ叫んだ魔獣が半ばその体躯を上下別にして倒れこむ。やはり、このレベルなら僕たちは油断さえしなければ負けることは無さそうだ。少しだけ安心して更に森の奥へ足を向ける。しばらくは、この調子で良いだろう。
その後、僕達は森の奥を目指し慎重に歩を進めた。3日目、そこには今まで見たことのない巨大な亀の魔獣がいた。全長が20メルド近くありそうだ。何より、これまでさんざん狩ってきた上位中の上位魔獣を捕食していた。このことから1段階も2段階も危険度の高い魔獣のエリアに踏み込んだという事が分かる。しかし、まだ焦る必要は無い。あの巨大亀はまだ僕たちに気付いていない。できれば、次の獲物を狩るときの様子を確認したうえで行動したい。ミーアにハンドサインで合図をして巨大亀からおよそ200メルド距離をとり周辺の草などの下生えを集めて簡単なカモフラージュをした状態で観察を始める。3時間ほど巨大亀を観察していると時々向きを変えているのがわかった。僕達の探知の結果と組み合わせると、どうやらあの巨大亀は他の魔獣が近寄るとそちらに頭を向けるようだ。ただ、向きを変える動きは緩慢で素早さのスの字もない。あんな動きで上位魔獣を倒せるのだろうか。そんな疑問を感じたところに風上側の魔獣が近寄ってくるのが探知で感じられた。そのまま観察をしているとやはり新種と呼んでいる魔獣が巨大亀の正面に現れた。どう動くか。新種が魔法陣を展開。以前見たものより発動が遅いけれど、魔法陣が大きい、輝きが強い。発動した火の魔法は見たことの無い巨大な火球だった。それはとんでもない速さで巨大亀を直撃した。200メルド近く離れている僕たちまで余波が襲う。爆炎の余韻の残る中、僕は、これは決まったと思った。さすがにあの規模の魔法は耐えられないだろうと思ったのだけれど。爆炎が消えた時、そこには何もなかったかのように巨大亀が立っていた。
「うそ」
思わず漏れたミーアの声に、僕も全面的に同意する。首が無い。いや出てきた。どうやら甲羅の中に首から先を隠したらしい。と、いきなり巨大亀が前方にダッシュした。速い。あの頑丈な巨体でのダッシュアタックにさすがの上位魔獣もひとたまりもなかった。
「やっかいな……」
呟く僕に、そっとミーアが
「どうする」
「とりあえず、やっかいなのがあの頑丈な甲羅。僕達のオリハルコン製の剣でもきれるかどうか分からない。それと前方へのダッシュはまずい。あれは動き始めてからだと僕達でも避けられるかどうか……」
「そうね、でもそれ以外は……」
「うん、横への動きは鈍そうだし、甲羅から出ている間は手足も首もそれなりに柔らかそうだね」
「それと、あの亀ってあたしたちに気付いてないでしょ」
「それ僕も思った。気付かれていないなら近づいて。左右から足を狙ってみようか」

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