僕が守りたかったけれど

景空

第67話

今僕とミューはグラハム伯の屋敷の庭で剣のイメージトレーニングをしている。それぞれの愛用の剣はメンテナンスを終え手元に戻ってきているものの、防具が間に合っていないため魔獣の討伐等の危険度の高い活動は自粛中。その中で身体をなまらせないようにするための鍛錬だ。対戦相手のイメージはキュクロプスアンデッド。敵の攻撃を躱し、いなし、切りつけ、カウンターで突き込む。そこにキュクロプスアンデッドの魔法攻撃。間に合わない。
「はああ、また間に合わなかった」
ミューの嘆きが聞こえた。
「ミューは、何を相手に想定してる」
「そりゃこれまでで一番苦労したキュクロプスアンデッドを」
「やっぱりか。一緒だなあ。で間に合わないのはやっぱり」
「うん、対魔法の処理がどうしても」
「弓だけで遠間からチクチクしていられれば何とでもなるだろうけど、さすがにそれは無理だからねえ」
「地道に頑張るしかないね」
「うっし。鍛錬再開」
再開、キュクロプスアンデッドをイメージ。初手、突進してくる相手をギリギリで躱しながら右手に持ったオリハルコンコートのブロードソードで1撃。振り向きつつ反対の左手に構えたスリルのハンド・アンド・ハーフソードで切り上げつつ右へ移動。打ち下ろしを左のハンド・アンド・ハーフソードでいなし、右のブロードソードを打ち下ろしてきた腕に叩きこむ。歩法で後ろにまわりブロードソードを突き込む。引き抜く反動を利用してハンド・アンド・ハーフソードで切りつける。イメージの中のキュクロプスアンデッドの手に魔法の光が灯る。発動に備え体勢を整える前に魔法が発動、切り払う時間は無く、実際の場面と同様に両の手に持った剣をクロスさせて魔法に差し込む。そんな鍛錬をしていたとこに声が掛かった。
「重心の移動が大きすぎる。祝福による体さばきに頼りすぎだ。不足する威力は腰の回転で補え。剣筋は叩きつけるな、切れ」
いきなり現れた女性の声に咄嗟に反応した僕とミューだったけれど、言葉の内容を理解すると、動きに修正を加えた。それはほんのわずかな違い。言われた内容にしても僕たちとて全く意識していなかった事ではない。上位魔獣との戦いが常態化したことで1撃の重さを無意識に追った結果、本来の動きを置き去りにしてしまっていたことに気付かされた。
「歩法は良いが動きが直線的すぎる。円を意識して動け」
最短距離を移動する癖がいけなかったのだろうか。動きがぎこちなくなる。
「また、重心が大きくずれている」
さんざん動きにダメ出しをされながら動きを修正していく。

数時間の鍛錬の後、クタクタに疲れ切った僕たちの前にグラハム伯と一緒に立つ女性がいた。
「こちらはブランカ・シエロ。剣の腕は帝国内でも1番だ。お前たちの事を話したところ指導を請け負ってくれた。名前ぐらいは知っているか」
ブランカ・シエロ。聖国にも名前は伝わっていた。
「まさか、剣聖」
「ブランカ・シエロよ、よろしく。キュクロプスアンデッド討伐の英雄さんたち」
「よろしくお願いします。ファイです」
「あたしはミューといいます。よろしくお願いします」

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