僕が守りたかったけれど

景空

第6話

結婚式の翌日、僕たちは簡単に旅支度をして家を出た。元々二人とも狩人なので、狩りのために村の外に出ることが多いから準備も慣れたものだ。村から聖都まで普通の人なら徒歩で3日、狩人の祝福もちの僕たちなら2日は掛からないだろう。そうミーアも狩人としての祝福を神様からいただいている。色は黄だ。僕たち二人掛かりで狩りを行えば狩りの効率でこの世界でも果たして上がいるかどうかわからないような狩りパーティーになるだろう。これからがとても楽しみだ。けれどミーアがちょっと調子が悪そう、というか何か歩きにくそうにしている。
「ミーア、大丈夫か」
「え、大丈夫って何が」
「なんか歩きにくそうにしてるからさ」
途端に顔を赤らめてミーアは上目遣いに僕を見てくる。
「誰のせいだと思って……」
「え、僕のせいなの」
「だってあんなだと思わなくて」
そうだった、ミーアは初めてで
「ごめん、気付かなくて」
僕も少し照れくさくて目を合わせられなくなってしまった。
「いいわよ。これもあたしがフェイのものになったって証拠でもあるし」
「でも、どうする。つらいなら出発を遅らようか」
「そこまでじゃないわ。なんかまだフェイが中にいるように感じるだけだから」
「でも……」
「大丈夫よ」
「わかった、じゃぁ様子をみながらゆっくり行こう。でも辛くなったらすぐいうんだよ」
「うん、ありがとう」

準備を済ませた僕たちは、出かけることにした。聖都までの道は整備されているし治安も比較的良いけれど、偶には盗賊も出るし、何より魔獣はどこにでもいる。なので僕たちは一応武装している。僕は旅用に厚手の布の服にいつもの狩弓を持ち、背中にブロードソードを背負っている。ミーアも布の服を着て、狩弓を持ち、腰に短剣をぶら下げている。ミーアの弓も僕のほど強弓ではないけれど大の男でも簡単には引けないような強力な弓だ。そして、僕たちは狩人の祝福にある探知を使う。これで僕たちに気付かれずに近づけるのは、隠蔽能力を持つ魔獣くらいなもので勇者様が討伐目標にしている魔獣の王やそれに近い強力な魔獣くらいだろう。

順調に旅路を進み、簡単な魔獣除けの結界を張られた空き地にたどり着いた。今日はここで野営をする。この結界は旅人の保護のために主要な街道のところどこに国が設置してくれている。もともと魔獣の少ないルートを街道にしているうえに、こんな安全地帯を設置してくれているので本当に主要な街道を旅する限り魔獣の被害にあうことは少ない。そして、実はこの安全な街道こそが聖国が栄えている本当の理由だと僕は考えている。他の国にはこんな結界を設置できる高位の司祭様は多くない。国内を安全に移動できるのは国の繁栄にどれほど役立っていることだろうか。そうは言っても結界内だからといって完全に気を緩めるわけにはいかない。結界をすり抜ける魔獣もわずかながら存在するし、盗賊は人間なので結界に影響されず襲ってくることができる。そのため、だれか一人は見張りに起きているのが定石だ。
「ミーア先に見張りを頼めるかな。3時間くらいで交代するから」
「え、先は良いけど。フェイ3時間しか休まなくていいの。あたしも狩人の祝福あるからそんなに休まなくて平気よ」
「そこはゆっくり休んで欲しいかな。ミーアが黄の祝福をいただいていて疲れにかなりの耐性があるのはわかるけど、僕は銀だからね。それに朝のつらそうだった時の分もあるから僕に頼ってほしい」
僕が、そう言うと、ミーアは耳まで赤くなりながら僕の胸をポカポカと叩いてきた。
「恥ずかしいから言わないで。でもありがとう」

「フェイ。時間よ」
ミーアの声にスッと目が覚める。数ある祝福の中でも狩人の祝福は優秀で、野外活動で有利になる祝福が色々とある。目覚めの良いのもその一つ。
「あいよ。しっかり休めよ」
そう言いながら、僕は今の時間を確認するために星を見る。
「ミーア」
「なにフェイ」
「1時間くらい長かったんじゃないか」
「そ、そんなこと無いよ」
「ま、いいけど。ちゃんと休んで体力回復するのも僕のためにもなるってわかってるよね」
「う、うん」
「じゃ、今度は本当にちゃんと休んでね」
「はーい、おやすみなさい」
「ん、おやすみ」

僕は愛用の弓を横に置きリラックスしながら見張りにつく。狩人の祝福のおかげで夜目も効くし、銀の狩人の祝福の探知は僕を中心に800メルドに魔獣や人が入ればわかる。見張りについて3時間ほど、僕は弓を手に取った。立ち上がり闇に向かって3射。少し様子を見て、また座ってリラックスできる姿勢で見張りに戻る。数時間後空が白み始めミーアが起きてきた。
「ミーア」
「うん」
僕たちにそれ以上の言葉は必要ない。僕たちは弓を手に取った。まず僕が3射。僕の4射目以降に合わせるようにミーアも射始める。二人合わせて20数射で終わる。周囲に意識を向けこれ以上必要の無い事を確認し、射た方向に二人で歩いていく。
「フォレストファングみたいね」
ミーアが狼の魔獣の亡骸を見てつぶやいた。僕はミーアにさらに向こうを示す。
「シルバーファングだ」
狼の魔獣。フォレストファングの上位種。普通はこんな森の浅い場所には出てこない。
「数が多い。フォレストファングは証明部位だけ持っていって後は埋めるか」
「シルバーは全部持っていくの」
「そうだね、流石にこれはもっていかないと」
亡骸を処理し回収できるだけの矢を回収。二人合わせ28本の矢を放ったが5本は折れたり歪んだりしていたため矢じりだけ回収、残りの25本は矢筒に戻した。近くの木を伐り、シルバーファングを括り付けて引きずって運べるように準備を進める。
「余計な時間がかかったな。今日中に聖都に入れると良いんだけど」
「まだお昼前だから、あたし達の足ならギリギリ間に合うんじゃない」
とは言え時間に余裕が無いのも確かなので干し肉を齧って朝食兼昼食にする。食後に水筒から水を一口ずつ飲み、
「行くか」
「うん」

夕刻、空が茜色に染まり始めた頃に聖都の門をくぐることができた。もう少し遅くなっていたら門の前で翌朝まで待たなければいけなくなるところだ。聖都に入って最初に行くのは普通ならば宿の確保なんだけれど、今回はギルドに向かう。
「ここ、かな」
「たぶん」
僕たちはちょっとだけ顔を見合わせて、思い切ってドアを開けた。

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