陥没都市

島倉大大主

C5:6/18~6/19ダンジョン攻略レベル1 :2:促成栽培

「あのアマツという人物は――まあ、あのアマツのアバターの本体って意味ですけども、いわゆる超能力者の類で、自分の一部を龍脈にアップロードしたと我々は考えています。目的は不明です。我々を助けると言ってますが、信じていいのかは疑問ですね! ええ、疑問ですとも!」
 佐希子は興奮しながら、懐中電灯をブンブンと振りまわした。

 大根田達はネギハマー砦から五キロ北、竹森町に向かっていた。
 道々、麗子達が昼に交渉を持った人たちの住居や、コミュニティに立ち寄った。マナモノ対策として学校や、寺院を中心にバリケードが建てられ、マナ灯が設置されている。その周りには数人の見張りが雑談したりしながら、ぶらぶらとしていて、麗子が挨拶をすると、走り寄ってきて麗子に何かを耳打ちをしてお辞儀をした。そしてそれに麗子がお辞儀を返し、小声で何やらやり取りをするというのを何度も大根田は見ることになった。
「ヨモツシコメが二体うろついてるらしいわ。それと変化生物ね」
 麗子はそう言って大根田を見た。大根田はぶるっと肩を震わした。
「ま、またあの大きなゴキブリ?」
 麗子は答えずにちらりと佐希子を見た。興奮気味に五十嵐に続きを話していた佐希子は、ん? という顔でこちらを見る。
「佐希子ちゃん。変化生物で新種が出たわよ~」
「マジっすか!? うっひょ! いいねいいねいいねグイグイくるねぇ! ゴキブリにミミズ、あと電気猫! それと浄化微生物!! お次はなんすか!?」

「……カマドウマ」

 大根田と佐希子が同時にびくりと肩を震わした。
「ま、マジっすか? あ、でも、あれですか、リオックぐらいの大きさで――」
「ああ~、あの大きなバッタね。ははは、怖いなぁ……」
 麗子はふうと、大きく息を吐く。
「夕方にそこのバリケードでゴンって音がしたんだって。で、何だろうと思って見たら、このくらいの――」
 麗子はそう言って、自分の胸の高さあたりで手を水平にした。
 五十嵐が口笛を吹く。
「そりゃすげぇな。跳び着かれたら、子供なら押し倒されるかもしれねえぞ」
「うん。ちょっと怖いよね。草食にしろ肉食にしろ――カマドウマって雑食だったよね? まあ、ともかく繁殖したら、どえらい事になりそうだし、見つけたら駆除かな」
 佐希子と大根田は顔を見合わせ、真っ青な顔になっていた。
「……大根田さん。あたし、それは無理っす……」
「……僕も無理かな。どうも、その――大きな虫は――」
「あと、大型犬くらいのクモもいるみたいよ。巣も張らないで、のそのそ歩いてたらしいわ。アシダカグモだったらいいんだけど……」
 絶句する大根田と佐希子を置いて、麗子は再び見張り達と話を始めた。

 やれやれと五十嵐が話題を変えた。
「それにしても、お嬢のダチごとおっさんの夢に引き込むってのは、かなり凄い事なんじゃないか? なあ?」
 五十嵐の質問に、佐希子はうんうんうんと激しく頷く。
「そそそそそうだと思ったんだけども! 能美ちゃん――あ、これ京都の子ね。彼女が言うには、龍脈を経由して、あ、あたしたち三人を同時に大根田さんに繋げるってのは、考え方としては可能らしいんだよね。うん、結構可能なんじゃないかな? うん。
 多分、あたしらのマナ通信を利用した所もあるんだろうけども! とにかく、あたしらは龍脈に接触できないのね。存在は判ってたけども、地面の下のマナの流れって、こうチャンネルが違うっていうか、アプリが違うっていうか――」
「早口すぎて全然判らん。判らんが――そいつは助けてくれるって言ったんだよな? でも、なんか条件があんだろ? もしかして、ダンジョン潰さないと呼び出せないのか?」
 佐希子が口をすぼめ、大根田の方を見た。
「いや、その――実は今この場でも呼び出せるっぽいんだけども――」
 五十嵐が、は? と声をあげる。大根田がううんと唸った。
「いやあ、夢から覚めたら、頭の中にその知識があったんだよねぇ。勝手に埋め込まれたみたいで正直気持ち悪いというか……」
「あたしら三人も、まだ確認はしてない――いや、これ出発前の話ね」
 五十嵐がほうと口を丸くした。
「それは何か必要なのか? 場所とか、能力とか――」
 いんや、と佐希子は頭を振った。
「地面がむき出しの所に指ぶすっとさして、アマツに呼びかけるだけ。多分、足でもできる。靴履いたままでも多分、可。もしかしたら、地面に繋がってる柱があれば、屋内からでも床やら壁を触って呼び出せるんじゃないかって」
「ゆるゆるじゃねえか。なんつーか……ホントか、それ?」
 どうなんじゃろう、と佐希子は頭を捻っている。

 大根田はアスファルトをしばらく見つめると、ふっと佐希子に聞くことを思い出した。
「佐希子ちゃん、今日、北海道の子がダンジョンを調査したんだよね? どうだったの?」
「ああ、それですが、アタックメンバーが良い感じの構成にならなかったんで、取りやめになったそうです。柳ちゃんは一人でも行くって言ってましたけど、周りが何とか止めてくれたようで――」
「うわぁ……無茶をする子だね……」
「そこが魅力なんすけどね。で、ドローンを突撃させてみたそうです」
 おお、と五十嵐が腕を組んだ。
「中々興味深いじゃねえか。どうだったんだ?」
「操作もできるし、撮影もできた。ただ、中にいたマナモノに襲撃されて五分後にあえなくおしゃかになったそうで……映像見たけど、確かにコンクリの壁が延々と続いている感じだったな。出口も確かに消えたんだけども――」
「だけども?」
「出口のあった辺りの壁に向かって飛んだら、外に出れたって」
「……それは、つまり中が変化するのは見せかけってことか?」
「ところが違う。だって、ドローンは少なくとも百メートルは前進したらしいから。そんな高架下はないっしょ? だから、まあ……『出口を無くしたように見せかけた』ってことかな、と」
 五十嵐と大根田が顔を見合わせた。
「佐希子ちゃん、それって――」
 佐希子は、いやいやと手を振った。
「明日潜ろうって時に推論は良くないっすよ。とにかく、『そうだった』ってことだけ覚えといてください」
 見張りと話し終わった麗子が戻ってくると、参ったわね、と溜息をついた。
「やっぱり食料の問題が深刻化してきてるわ。かき集めたものでも、コミュニティに参加する人が日々増えてきてるから、もって一週間。水はうち――ネギハマーの井戸とかで何とかなるけども……新鮮な野菜なんかは明日あたりから無くなるところが出てくるんじゃないかな。
 というわけで――」
 麗子は佐希子に微笑む。
「そのアマツとかいうのに、手助けしてもらうのは意外と早くなるかも、具体的に言えば、あと数十分後かしら」

「こちら、大竹さん。マナを使っての促成栽培に協力してもらっている農家さんよ」
 麗子の紹介に、どうもどうもと欠伸を噛み殺しながら中年の男性が立ち上がった。
 住宅の裏の細い道路、それに面した小さな畑はマナ灯が四方に設置され、煌々と明かりが灯っていた。その前に置かれた古いベンチの上には座布団と、水の入ったペットボトルが置いてある。大根田達が近づくまで、大竹はそこに座って寝ていたのだった。
 大竹は年のころは三十代くらいだろうか、やや猫背で腕は日に焼けている。眠そうな目をしょぼつかせて、深々とお辞儀をした。
「いや、こんな時にご苦労さんです。今日も暑かったですなあ」
 のんびりとした口調に、大根田の頬が緩んだ。
「いやいや、こちらこそご協力いただき感謝しております。私、大根田清と申します」
 頭を下げる大根田の横で五十嵐もお辞儀をする。
「自分は五十嵐です。大根田さんの部下です。以後よろしくお願いいたします」
 いやいや、どうもどうもとお辞儀し合う三人の間に、佐希子がするりと割り込んだ。
「へいへいへい、そこら辺でストップストップ。で、大竹のおっちゃん、どんな感じ?」
 それがなあ、と大竹は顎をさすった。
「ほうれん草は確かに六時間くらいで芽が出たんだわ。まあ、一緒に凄い勢いで雑草まで生えてきて吃驚したんだけどさ」
 成程、目の前の畑には小さな苗が規則的に並んでいる。
「ところが、そっからの成長が遅い。夏場も大丈夫って品種なんだが、さっぱりだ。一応間引きをしたんだがな……」
 佐希子は畑の隅に歩いていくと、そこに刺してある小さな円筒の上の部分を開け、中を覗いた。大根田と五十嵐もならって反対側の畑の隅の円筒を開けてみる。
 中には粉々になった淡く光る塊が入っていた。
「マナの結晶、だよな」
 五十嵐の問いに大根田は頷く。麗子は佐希子と対角線上の隅にある円筒を開けて覗き込んでいた。
「こっちの結晶、粉々だけどそっちは?」
「こっちも粉々だ。佐希子ちゃんのは?」
 佐希子は立ち上がって、舌打ちをする。
「こっちも粉々っすね。マナが消費されつくした……原因は判ったけども、こりゃ対策の打ちようがないんじゃないかな」
 大竹が、ああと声をあげた。
「マナ切れってことか。だったら、もっと大きな結晶を――あ、これ、簡単には手に入らないんだっけ?」
 大根田は頷いた。
「そうですね……マナモノ――徘徊している怪物たちの残骸や、マナ溜まりで採取できるらしいですが、栽培用に『長期間』『安定して』『かなりの量』となると、見通しが立たないというか――」
「そう、ですか――実は知り合いの畜産業者にもマナの欠片を少しまわしたんですけど、飼料にマナの欠片を磨り潰して入れてみたら、例えば鶏なんかは卵の数が増えたような気がするって言われたんですよ。うまくいけば、食料結構なんとかなりそうだったんですけどね……」
「それは――なんとも、残念な……」
 肩を落とす大根田と大竹。その横で五十嵐はじっと畑を見ていた。
「……さっきの今であれだけどよ……お嬢、アマツを呼んでみねえか」
 佐希子は顔を顰め、畑を挟んで反対側にいる麗子を見る。
 麗子は、ほらね、と声を出さずに肩を竦めて見せた。

 不承不承という感じで、佐希子はしゃがみ込むと畑に指を差そうとした。大根田が慌てて小太刀を抜き、麗子が短機関銃スコーピオンを構える。
 五十嵐が佐希子の後ろに立つと、指を鳴らした。
「準備できた。何かあったら、腹に手を回して掴み上げるからな」
 佐希子はごくりと唾を飲む。
「で、できることなら! む、胸は触らないように! よろしく!」
「判った。安心しろ」
「……そこはちょっと残念がるボケをかましてほしいかな、と――」
 はよやれ! と五十嵐に頭を小突かれた佐希子は畑に指をちょっとだけ突き入れた。
「あ――アマツ、さ~ん。いらっしゃいます?」
『口に出さなくてモ、ダイジョウぶだ。思い浮かべるダケで良い』
 畑の真ん中に半透明のアマツが出現した。体の下半分が透明であることを除けば、夢で見たそのままである。うわっと大竹が声をあげ、少し後ずさる。
『あれがアマツ?』
 大根田に麗子からマナ電話が来る。
『ああ。夢で見た通りだ』
 アマツが麗子を指さした。
『申し訳ないガ、私はマナでできていル。君達のマナにヨル交信は、全てキコエる。よって肉声デ喋っても違いハナイ』
 佐希子が恐る恐る自由な方の手を挙げた。
「あ、あの~……指って畑から抜いても大丈夫っすか?」
『大丈夫ダ。君達から向けらレる、マナによって私は起動シテいる。君達カラのマナが途切レレば、私は停止スル』
 佐希子は指を抜くと立ち上がる。その顔に大きな笑みが浮かび始める。
「え、え~とですね! 聞きたいことが山のようにあって、まずは! あ、まずはあれだ、あなたの存在定義と言いますか――いや、あなたが生命体であるかどうかを――」

「マナで野菜を促成栽培したい。龍脈を使って栽培できるか?」
『可能だ』
 五十嵐の質問にアマツは即答した。佐希子は涙目で五十嵐の脇腹をどついたが、跳ね返され、かったい! と手を抑えてしゃがみ込んだ。
『マナを使って瞬時に脇腹ヲ硬化サセたノカ。陥没かラ時間があまり経ってイナイのに、大根田もソウダが、見事なモノだ』
 五十嵐は涙目の佐希子を指さす。
「こいつの指導が良いんだよ。無駄は多いが、基本優秀だ。ホントに無駄は多いが」
「二度も言うな、このヤクザ!」 
『ソウか。ところで促成栽培の件だが、土中にマナの結晶ヲ埋めレバ――』
「マナの欠片は粉々になってしまったわ」
 麗子の言葉にアマツは頷く。
『植物ノ生長に消費されたカラな。君達はマナの結晶のストックがあまりナイのだな? ならば、龍脈を使えばヨイ』
「ど、どうやって!?」
 佐希子の質問に、アマツはしばらく頭を小刻みに動かすと、円筒を指さした。
『君達ガ今持っていル技術でやるならバ、マナ灯の応用でやるといい。例えバ、あの円筒内にマナの吸収率が高イ鉱物――君達がパワーストーンと呼んデいる物ヲ入れる』
 大根田が佐希子を見た。
「な、なんか結構簡単な話に聞こえるんだけど」
 佐希子は頭をガシガシと搔き毟った。
「そうかそうかその手があったか!! パワーストーンの類はマナを備蓄するんですよ! だから女性陣の装備に使ってるわけで――」
 そういえば、防弾ベストにパワーストーンを磨り潰して張り付けてあると言っていたな、と大根田は思い出した。
 麗子が銃を下すと、大根田の隣に歩いてきた。
「陥没前は、パワーストーンなんて馬鹿にしてたんだけどね。マナを吸収してある程度、留めておくって知った時は、色々腑に落ちたわ。幸運のお守りとか本当だったんだなって」
「胡散臭い商売にも本物がまぎれてたってことか……いや、今思えば、本物だったから偽物がたくさん出てきたんだな。駅にいた占い師とか、今どうしてるんだろうなあ。あの婆さんは本物っぽかったんだけどなあ」
 そうねえ、と遠い目をする二人の前で、佐希子がピアノを引くように指を小刻みに動かしながら、うろうろし始めた。

「つまり――つまり、円筒内にマナを貯めこんで、それを土中にゆっくりと放出していく。放出量は円筒の数で調整? うん、それでいける。いけそう!」
『円筒ノ下には龍脈からマナを集めるタメのアンテナを取り付ける。アンテナは胴体部分を鉛でコーティングし、先端は銀、モシクは銅が良いダロウ。長さはコノ場所ならば――五メートルあれば十分ダ。充填が遅いならば更に一メートル深クすればイイ』
 大竹が手を挙げた。
「あのぉ……地面の下のマナの流れってのは、こう、地表付近に上がってくることはないんですかね? そうすりゃ、悩む必要なんてないんじゃ――」
『そういう状況ハ、あル』
 え? と全員が目を丸くした。
『現在、場所によっテハ、地表付近、もしくは地表ニ噴き出しテいる場所もアル。
 それを龍穴ト呼ぶ。
 ただし、異常な状態の龍穴は範囲ガ狭スぎて、農耕には使えナイうえに、圧縮され高濃度のマナの為、副産物ヲ生んでいる状態ダ』
 佐希子が額をばしりと叩いた。
「もしかして、マナモノ!!? マナモノの発生原因だったりするの!?」
『全てがソウではナイが、原因のうちの一ツではアル』
「……それって――い、いや、続けて」
『本来ならバ、龍脈は地表からある程度の深さヲ、ゆっくりと流レ、人ヤ大地に豊穣をモタラスもののはずだ。植物や動物の成長速度を速めるモノではない。
 マナが地表付近に集中する状況ガ異常ナノダ。
 しかし、現在ノ龍脈は大体の場所デ、かなり深い場所を流れてイル。
 そして特定の場所で地表ニ大量に流出してイル。
 これではいくら手入れヲしようと土地は痩セ続ける』
「深く流れたり、吹き出している原因は、夢で言ってた通りの?」
「ソウダ。地上ニあるマナの溜まり場などニよる、圧迫で間違いナイ。私のデータが統合不全であるのも、発声ガ不明瞭ナノモ、それが原因ダ』
 大根田が手を挙げた。
「……それってマナ溜まりをどうにかすれば、例えばこの促成栽培も良い方向に向かうってことですかね?」
『成功スル可能性は間違いなくアガル。
 勿論、促成栽培の際ニハ土地の管理も必要ダ。異常な量のマナを付加するワケだから、土地が痩せるノモ早いハズだが、マナが枯れることはナイので、適切な処置をすれば、土が死ぬコトはない』
 大竹が成程な、と頷いた。
「マナがあれば、全て安泰! すくすく成長! ってわけじゃないわけだな。こりゃ、腕の見せ所だな。肥料はやはり下肥を使うとして――」
 佐希子が手を再び挙げる。
「……ねえ、アマツさん。マナ溜まりって県内に何ヶ所あるのん?」
 アマツは目を細めた。
『恐らく三百二十五ヶ所』
 多すぎでしょ!! と佐希子が頭を抱えた。シカシながら、とアマツが続ける。
『龍脈ニ強い影響を与えてイるノハ、七ヶ所。一番巨大なマナ溜マリは、月光市ダ』
 ぞくり、と大根田の背筋が寒くなる。

 あの連絡がつかない月光市か!

「……月光で何が起きてるんだ?」
 五十嵐のストレートな質問に、アマツは意外にも頭を振った。
『判らナイ。強力カツ強大な妨害ガアル。龍脈どころか大気中のマナの流れも曲げラレテいてアクセスでキナイ』
 絶句する大根田達に、大竹が慌てたように声をあげた。
「と、とにかく今は目前の問題を――そのマナ集めの円筒を作りましょう」
『アンテナを付ける円筒は一つデよい。あとは円筒内の石を鉛でコーテイングした銅線で接続スルのだ。マナの放出はコーティングしていない銅線ナドで行えばヨイだろウ』
 佐希子は口を押さえてアマツを見ていたが、ややあって質問をした。
「あの――促成栽培の件はありがとうね。
 で、その月光市の妨害に、あたしたちが言う所のマナモノが関わってたりする?」
 アマツは頷いた。
『恐らクハ。君達の一人が遭遇しタ強大な――マナモノ――』
 大根田の体が引き締まる。
 あの霧の奴――
「あれはアメノサギリって呼ぼうかと思ってるんだけど……」
 佐希子の言葉に、大根田の体がひくりと反応する。

 アメノサギリ。
 それが、あいつの名になるのか。

『月光市にイル可能性がある固体ハ、アメノサギリという固体――いや群体よりも強力デ、強大ダと思ワレる』
「ぐ、群体!? あれ一体じゃないのかよ……しかし、あいつよりも強いって……ま、マジかぁ……」
 なんだそれ、なんだそれ、とブツブツ言い始める佐希子。
「ねえ、可能性とか思われるって、ずいぶん歯切れが悪いわね。それも妨害のせいなの?」
 麗子の言葉に、アマツは笑みを浮かべた。
 苦笑い、といってもいいような表情だった。
『恐らクハ。私は万能ではナイ。情けない話ではアルが』
「な、情けないって――あなたは、その……生きてるんですか?」
 大根田の質問に、アマツは元の無表情に戻った。
『それは私モ答えを知りタイ問題ダ』

「ファンタジー」の人気作品

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