赤の絆

咲羅 屡依

プロローグ

俺には双子の姉がいる。
二卵性の双子なのに、そっくりだ。

俺の家族は姉だけ。
母親は幼少期に死んだらしい。
あまり覚えていないけど。
父親はいる。酒飲みでギャンブラーで、女癖も悪い最低な男。

高校生になってすぐ、姉は家を出て行った。
家出のように何も言わず。

家には俺と親父だけ。

親父は、俺を殴った。
毎日毎日、飽きもせず。
意味なんてない。理由なんていらない。
気分に任せて殴る。

それでも俺は逃げなかった。

傷だらけで登校する度、先生や友人はどうした何だと騒ぎ立てた。俺が毎回何も答えない
から、気付いたら「素行の悪い子」のレッテルを貼られていた。
先生には見放され、友人も離れて行った。

ひとりになった。
それでも俺は、あの家を離れない。



「ただいま」
玄関を開けて、一応声を掛ける。
勿論、応答はない。
だけど、リビングに行けば、今日も酔い潰れてる親父がいる。
「親父、冷蔵庫開いてる。閉めるくらいしろよ。」
「うるせぇ!俺に指図してんじゃねー!」
俺が閉めた冷蔵庫に酒瓶がぶつかり、弾け飛ぶ硝子。右頬と右腕からポタリと血が流れた。
「危ないな。瓶を投げるなよ。」
俺は破片を避けながら、リビングの出口へ向かう。親父がよろけながら立ち上がり、俺の長い髪を捕まえた。

グッと引っ張られ、俺は痛みに顔をしかめた。親父は遠慮無しに髪を引っ張り、顔を覗き込んできた。そして、
「俺に指図すんな!殺すぞ!」
と、怒鳴った。

俺は目を背けない。じっと見つめていると、ぐいっと髪を引っ張られ、いきおいをつけて近くにあったテーブルに額をぶつけられた。
額からポタポタと血が落ちた。
親父は床に転がる俺を足蹴にし、また近くの一升瓶に手を伸ばした。

ゆっくり起き上がり、流れてくる血を手で抑えながら俺はリビングを後にする。
親父は何も言わない。振り返りすらしない。

硝子の片付けも床に染みた血の処理も後で俺がやらなきゃいけない。その前に自分の傷の具合をチェックしなきゃならない。
親父は無職だから、保険はない。
病院になんか行けないから。

自分の部屋に入り、鏡に向かう。
額の傷はそんなに深そうではない。
腕や頬は絆創膏を貼った。額にはタオルをあてて、そのまま俺はベッドに寝転んだ。

そっと目を閉じる。
リビングの物音に集中する。
階段の軋む音がしたら、暴力はまだ続く。でも、襖が開く音がしたら、今日はもう終わり。神経を研ぎ澄ます。俺に休息はない。

スーっと襖が引かれる音がした。
俺は大きく息を吐き出した。

「姉ちゃん、今日も生き残ったよ。」

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