片腕の炎

火焚 柾

第4章 証言と情報

照り返す日差しが強い。
今日は珍しく夏のような日差しの強い日だ。零士は世守と二人で住宅街の一角にある一軒家の玄関にまで来ていた。
『ここが伊東さんが言っていた自宅療養中の同僚さんのお宅なんですね。電話してよく会ってくれるってなりっましたね。』零士が汗を拭きながら玄関のインターフォンを見つめている。
『小栗 良助 33歳 〇〇自動車販売株式会社 営業 元整備士からの営業に転身そのまま営業として伊東さんと同じ店舗配属 その後、鬱う病診断を受け2か月前から自宅療養中… って伊東さんからのメールではそうなってるね。とりあえず電話では悪い印象はなかったから話してくれると思う。』
世守がスマートフォンの画面を読み上げながら話した。

ピーンポーン。

『はい。』インターフォンから比較的若い男性の声が聞こえた。
『先ほど電話でお話しした畔上です。』世守がさらっと答えた。

『あああちょっと待ってください。』そう言うと玄関が開きTシャツ、スウェットパンツ姿の男性が
出てきた。
小栗さんは部屋の中に我々を案内した。格好はラフだが好青年のイメージが第一印象だった。
『すいません。こんな格好で、お電話では簡単に伺いましたが、本当なんですか?伊東さんが大変だと』
世守は軽く頷き今日話された内容を分かりやすいように小栗さんに説明をした。
『確かに元々店長は気性の荒い人です。実際に私も暴力はないですがある日から罵声やしつこい説教が多くなりました。もともと私は整備士からの転身でしたのでミスや安定した成績は上げられないっていうのもありますが、かなりひどく、気持ちが追い詰められてしまいまして鬱病になってしまいそれから会社には行ってません。最近はだいぶ良くなりっましたけどね。』小栗さんは俯きながら語った。平気そうに見せているがその手は微かに震えている。
『療養中にすいません。いくつか聞きたいんです。小栗さんから見た目線で構いませんので伊東さんと店長2人はどういう人ですか?教えてください。』世守はメモを取りだしながら質問した。
『わかりました。そうですねぇ、伊東さんは転職してきた人なので長くは関わってませんが一言でいうと営業マンです。車を売ることに自信がある営業マンです能力も高い人です。人事にも気に入られていましたし、それに明るい人で面倒見がいいです。』小栗さんがゆっくりと丁寧に話した。
『なるほど、人事の人にも気に入られているって言うのは?』世守はやさしく質問した。
『私の会社は、大学卒しか採用されないんですが伊東さんは高卒ですが、車の販売にたけていたのと人事課の重役と出身校が同じなので採用されたと伊東さんはある時そう語ってましたし実際たまに重役が伊東さんに会いに店舗まで来たりしていました。』
『あの人は人に気に入られるタイプの人なんです、売れないで困っている私や別の営業マンを呼んで夜中まで営業の仕方とかを教えてくれていました。でも何故か店長にはなかなか気に入られなくて何かあると理不尽な理由で怒鳴られていてかわいそうでした。』小栗さんは俯きながら語った。
『なるほど、優しい方だったんですね。その店長 国立 剛ですか、彼の事も伺っていいでしょうか?』世守はサラサラっとメモを取ると次を促した。

『国立ですね、彼はこの会社はかなり長いです。会社での成績もよくすぐに店長に出世したみたいです。
常務の武内 浩三 が常務に昇進しては愚痴を吐いていましたが結局は2人は馬が合うのでその影響で出世したみたいです。』
『その馬が合うとはどう言う所なんですか?』世守はすぐに質問した。
『パワハラですよ。彼らはこの店舗に配属になる前からひどいと噂がありました。武内は成績の悪い営業マンには無理矢理、車を買わせたり、国立は自分のやり方に合わない奴は怒鳴るなんて当たり前、それに苛立った営業マンは常務に助けを求めるも常務がそう言う世代で育っているので常務で揉み消されます。伺っていると思いますが、この会社は給料や賞与、がいいのでみんな事を大きくしたくないんですよ。』小栗は苛立ちを隠せないと言う表情で語った。

『聞いていた通りでした。一体伊東さんの何がこんな事態になってしまったのでしょうか?なにか心当たりはありますか?』世守は丁寧に質問していたが目には強い意志のようなものが感じられる。

しばらく沈黙してから小栗は口を開いた。
『正直言ってこれが原因だとはっきりと言えませんんが、国立は店舗に出入している業者で、すごく仲良くしている業者がいますね、仲いいといっても事務所内まで入ってきて国立の隣の席に座っては仲よく話してます。何を話しているのかは聞こえませんがすごく親しい間柄だなぁと』小栗は自信なさげに話をした。
『業者ですか?業者なんて沢山出入りしてますよね、変だと感じますかね?』

『いや確かにそうなんですが二人の年齢と二人の雰囲気がイマイチちぐはぐなんですよ、国立は50代後半、その業者は20代後半って感じで見た目もどこかガラが悪く仕事も事故、故障車を運んでくるレッカー会社をやっているみたいなんですが、レッカー業者がそこまで自動車販売会社の店舗の店長と仲いいのって少し変だなと感じるんで今回話したんです。』小栗さんは自信なさげではあるが必死に説明していた。
『確かにそう言われればなんか変な感じもしますね、あまり長居していると悪いので最後に一ついいですか? すこし話は遡りますが小栗さんに対するあたりが強くなったのはある日を境にと言っていましたがある日とはいつですか?』世守は最後の質問と繰り返しながら質問した。

『そうですね、ある日というか決定的なことでは無いかもしれませんが私が店舗で故障車両を引き上げの際に貸出しする代車を回収して来てから国立店長に質問したんです。
この前代車貸した〇〇さんのお客様には代車レンタカー貸したのは何でですか?とそしたら〇〇さん?レンタカーなんか貸してない。うちの店舗の代車だろう?って店長に言われたので、いや車検証の名義は違いましたよ?って伝えると、国立は目の色を変えていちいち細かいことで質問するんじゃねぇ!!!伊東と一緒でお前も黙って言う事聞けねぇのか?!と怒鳴られました。それからですね、ひどく怒鳴られるようになったのは。』小栗さんんは静かになって下を向いてしまった。

小栗さんの手が震えるのを見た零士は
『世守くん、これ以上は小栗さんも辛いんじゃないかな?』と零士は小声で世守に伝えた。
世守はゆっくり頷きながら。丁重にお礼をいい話を切り上げ門に向かっていたら後ろから小栗さんの声が聞こえた。
『力になることができなくて本当に後悔しています、ごめんなさいと伊東さんに伝えてください!』小栗さんは深くお辞儀をした。
世守はにっこりと笑い言った。
『わかりました。伝えます。それに十分力になってくれてます。ありがとうございました。』

世守と零士は小栗邸を後にした。

『今日の情報収集はここまでにしよう。一旦、twilightに戻って情報のまとめと次の動きを考えよう!』
世守はそう言うとヘルメットを被りバイクのエンジンを掛けた。
街を照らす夕日を背にゴツゴツと轟音が鳴り響いていた。

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