片腕の炎

火焚 柾

第5章 考察と謎

Twilightに着くと辺りはすっかり暗くなっていた。
木製のヴィンテージ風ドアを開け店に入るとすでに営業をしていてお客さんが数人奥の席で談笑をしながら楽しんでいた。

カウンターのビールサーバーから声がした。
『おかえり!遅かったな、なんか飲むか?』長髪を一つに結んだ京さんが声をかけてきた。
黒いシャツの第一ボタンから動物の歯のような形をしたネックレスが見えていた。

『ああじゃあ僕はイエガーをお願いします。零士は何飲む?』世守は慣れた感じで注文した。
『え?お酒?今から今後の予定話すんんじゃないの?』零士はあたふたしながら戸惑っていた。
それを見ていた京はふっと笑いながら答えた。
『その様子じゃなかなか難事件みたいだな。オーケーんじゃ適当にノンアルコールも持っていくよ』
『どうしてわかるんですか?』零士はまだ何も聞いていないのに京さんが難事件と分かったの聞いてか質問してしまった。

『それはな、世守は難事件や少し考えをまとめたい時はきまって、イエガーマイスターを頼むのさ、こいつを飲むと考えがスッキリするんだとよ。』京さんは緑の酒のボトルを取り出しながらにっこりと笑って答えた。

奥の部屋に入ると世守は壁にメモのようなものを張ったり糸を結んだりしていた。
零士が何をしているのかわからないので壁のメモを見た。

◆伊東 雅也 35歳 ○○自動車株式会社 営業 被害者 依頼人
◆小栗 良助 33歳 〇〇自動車株式会社 営業 被害者 自宅療養中

メモが張ってあるその横をひもで結ばれて●同僚 関係良好 っと付箋が張ってある。

なるほどこれなら一目見て人間関係などがわかる。零士はそう思い、世守の作業を黙ってみながら近くにあった小さい椅子に腰かけた。

◆国立 剛 50代 〇〇自動車株式会社 店長 
◆武内 浩三 50代 〇〇自動車株式会社 常務 
●上司 国立の行動を黙認 
◆謎の業者 レッカー業者 国立と仲がいい とメモが付け足されていく。
その後メモやら紐づけやらの作業が終わる頃、京さんが飲み物を運んできた。
『ほらよ、お前はイエガーマイスター ソーダ割、零士君はトニックウォーターライム入りね。ほぉこれが今回の被害者と加害者か。』京さんはそう言うと机に飲み物を置き壁のメモを呼んだ。
『◆伊東雅也 国立に殴る蹴るの暴力を社内で受けているが武内は黙認、危険な状況。かぁひどいなこの国立って奴は、でもよこいつのところ乗り込んで懲らしめちまえばいいんじゃねーのか?』京さんはメモを読みながらさらっと解決策を語った。
『たしかにそう思ったんですけど、それでは状況によっては伊東さんの立場が悪くなると思います。ましてやこの武内が出てきて形勢逆転、話は完全に揉み消されて伊東さんは会社を追われるって感じが目に見えてますだから決定的な言い逃れできない理由が他にあるんだと思います。』世守は真剣なまなざしでメモをにらんでいた。

『たしかにあの話の内容だとそうなると僕も思います。なんらかの理由があって暴力を社内で振るっていて伊東さんのしている小さい作業ミスはこじつけですね。』零士は率直な感想を話した。
『なるほどな、でその何らかの理由ってのがこの◆小栗 良助 証言① 代車の名義が会社の名義ではない車を貸し出していたのを指摘した日から国立の暴言に悩まされ鬱病になり現在は自宅療養中 って言うのとなんの関係があるんんだ?』京さんはメモを読み上げながら指摘した。
『そこなんですよ。この国立は話を聞く限りだと自分の言うこと聞かない営業マンにはしつこく暴言を吐くなんて当たり前みたいなんですが、この小栗さんはそう言う上司の話は無視して勝手に動くタイプの人でもないのにしつこい暴言を吐かれていた。ここが謎なんです。伊東さん、小栗さんこの二人には明確な理由がないんんです。』世守は腕を組みながらイエガーをグイっと一口飲んだ。
『このレッカー業者ってのも気になりますね。事務所まで入ってきて店長と仲よくしているってのは引っ掛かりますね。』零士は悩みながらぼそっと付け加えた。

しばらく3人は黙って壁のメモを睨んでいたが、京は接客をするためバーに戻っていった。
世守はイエガーを飲みながら椅子に戻り煙草に火をつけた。煙草の煙が揺れながら部屋にゆっくりと広がっていった。
零士も椅子に座りメモもみながら考え込んでいた。
しばらくすると世守が口を開いた。
『とりあえず明日伊東さんに業者の事を確認してみる、もう一人の被害者の情報は来ているから零士君んはこの人のところに行って話を聞いてきてほしい。』世守がメモ用紙を渡してきた。
零士は戸惑いながらも用紙を開くと情報が書いてあった。

◆鈴木 洋一 41歳 〇〇自動車株式会社 営業 鬱病になり自宅療養をしていたが完治したため仕事復帰 現在は別店舗に配属。

と書いてある。
『ここに僕が一人で行くんですか?』零士は戸惑いながら質問した。
ぼーと壁のメモを見ていた世守が笑いながらこちらを見て答えた。
『そう!お願いしたい。僕は業者の事を追って調べてくる、同時には行けないし零士君なら適任と思ってね。よろしくお願いします。』
困ったな。どうやって話しよう。
零士は心の中で不安んと葛藤したが伊東さんのあの悔しさを押し殺すようなあの表情を思い出し
乗り掛かった舟だ。やろう。 決意した。
『わかった行ってくるよ』決意した目で返事をした。
『そう来なくっちゃ!』世守は微笑んだ。

零士は鈴木が働く店舗のに立っていた。
日差しは今日も暑く汗がじんんわりと頬を伝って地面に落ちる。
大丈夫だ。話してくれる。
零士は自分に言い聞かせ重い足取りで店舗に入る。
そこはやはり新車の販売店だけあり綺麗に清掃されていた。お客も車の整備街なのだろうと思われるお客が数名ほど店内で慣れた顔つきで座って飲み物を飲んでいる。
入口付近に来客出迎えようの机に座っていた女性スタッフがすくっと立ち上がり零士にちかっ寄ってくる。

『いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件ですか?』女性店員がにっこりと微笑みながら零士に声をかけてきた。
『あ、あの、鈴木さん、鈴木洋一さんはいらっしゃいますか?』零士は緊張しながら答えた。
こんな事なら兄が車を点検する際に一緒に付き添ってなれるんだった。
と自分のおどおど具合に恥ずかしさを感じながら後悔していた。
女性店員は用件はと聞き返してきたが、緊張してなんと答えたらいいのか戸惑っている零士をみて直ぐに事務所内に戻り、男性店員を呼んできた。
男性店員が足早に近づきながら話しかけてきた。
『こんにちは。私が鈴木と申します。何か御用でしょうか?』40代前半の骨のように痩せた男性が
笑顔で零士に話しかけてきた。
零士はその笑顔がどこか業務的な笑顔で本心とは正反対なのではないのだろうかと思ったが我に返りすぐに用件伝えるべく質問に答えた。
『はじめまして。私は斎藤です。いきなりで申し訳ないのですがいくつかお話をお伺いしたいのですが。』
鈴木は笑顔のまま
『はい?どのような話でしょうか?とりあえずお席を案内します。』といい零士を個室の席に案内した。
零士は座らずに個室の入り口で答えた。
『今日来たのは伊東 雅也さんの店舗での困っている件で鈴木さんにいくつかお聞きさせていただければと。』零士はゆっくりと話そうと思っていたが緊張でやや早口になってしまった。

鈴木は笑顔が張り付いた状態で固まっていた。少しして小声で質問してきた。
『警察の方ですか?』鈴木の顔から笑顔が消えていた。
『いえ、違います!ですが伊東さんから困っていると相談を受け、伊東さんの店舗での暴力に関する事で色々と調べさせてもらってます。』零士は緊張しながら答えた。
鈴木はため息をつき下を向きながらふふっと笑い話し出した。
『なんだ、びくりしましたよ、弁護士か探偵かなんかすか?一体私に何を聞こうと思っているんですか?忙しいので手短にお願いしますよ。』鈴木は先ほどまでとは打って変わり横柄な態度に変わりながら零士より先に個室の席にすわった。
零士はその急変した態度に驚きながらもすぐに質問をした。
『伊東さんは店舗でも店長さんに度重なる暴力や暴言を受けていて困っています。彼がこうなったのには何かわけがあるんじゃないのかと思って鈴木さんは伊東さんと元同じ店舗で働いていて自宅療養されていたと聞いていたので。』

鈴木は少し黙ってから早口で答えた。
『まぁ確かに前の店舗では同じでしたよ。私が自宅療養していたこともあなたに話したんですね。
まったく、困るんですよ、そういうのは。やっと落ち着いた話なのに新しい店にまで来て昔の話を掘り返されると!』鈴木はため息をつきながら零士を煙たそうな目で見ながら答えた。
零士はその態度にドキっとした小栗さんの時とは全く違う態と度、零士がこうなるのは勘弁と思っていた態度をとられ心臓がドクドクと鼓動しているのを感じてしまった。
『すいません。ですが伊東さんは困ていて何か、お話を聞ければと思って』零士はもじもじしながら答えた。
『大体アポも無しにきて、前の店舗の店長にどうして怒られて自宅療養していたんですか?なんて初めて会う人間に質問して迷惑だと思わないんですか?』鈴木は小さくなっている零士を見てどんどん態度が大きくなって説教をしてきた。
『すいませんですが…?鈴木さんも国立店長に怒られていたのですか?』零士はもじもじ答えようとしていたが、鈴木の話し方に疑問を持ったですぐに質問した。
『はぁ?そう聞いていたんじゃないのですか?こっちと伊東の件は全く関係ないから。俺は俺であいつはあいつの話しですよ。』鈴木はイライラしながら答えた。
『別の話しって、どういうことですか?鈴木さんどういったことで国立店長ともめていたんですか?!』
零士はさっきの恐怖心よりも鈴木の話のほうが気になりパッと質問を繰り返した。
『あんた、いい加減にしてくれないか?俺は伊東がどういう理由であのくそ店長に文句言われてたかなんて知らないよ。まぁおおかた仕事のミスや会社に車が売れないとかじゃないんですかね。国立店長はそう言う人だから何するにも細かくて代車の管理すら自分でやってる細かさだよ!ちょっと手伝ってやろうと思ったら車売らないでさぼってんじゃやねぇとか怒鳴るそう言う人だよ俺なんか毎日言われて嫌になったんだよ。だから今じゃ店を変えてもらってよかったと思ってるよ。』鈴木は早口で文句を言ってきた。
『だから悪いけどここでは揉め事起こしたくないんだよ。伊東には悪いけど力にはなれないんですよ。もういいですか?』鈴木はイライラしながら席から立ちあがると零士を帰るように促した。
零士は伊東さんの悔しくも人前では悟られないようぐっとこらえていた顔を思い出し、鈴木の明らかに態度の悪い対応と自分だけ助かればいいとも聞こえる自己中な発言に腹立たしさを覚え、同時にこんな相手にビクビクしていた自分にも腹が立った。
その気持ちが抑えきれず、爆発し思わず真っ直ぐに鈴木の目を睨みつけ言った。
『突然現れて質問をしてしまい失礼なのはわかっています。謝ります。ですが、ですが、伊東さんも本当に困っていますそれでも私たちには丁寧に気を使って話し、助けを求めてくれました。あなたの事も心配されてました。なのにあなたどうすか?営業という仕事でありながら客ではない相手と分かったら態度を変え自分の事ばかり、こんなこと言いたくないですが店長に毎日怒られていたのはあなたのせいでもあるかもしれませんね!車が売れない?あなたみたいな営業マンからは車買いたくないです。ご迷惑おかけしました。失礼します。』
零士は抑えきれない気持ちを雪崩のように吐き出し踵を返して出口に向かって歩き出した。
鈴木は突然怒った零士に驚き呆然と口を開き、出ていく零士の背中を見つめていた。


Twilightはまだ営業前であったが店内から笑い声が聞こえてくる。
零士はバーに戻り今日起きた出来事を京と世守に話しているところだった。
『それでその鈴木って奴にそんな文句言ったのか!?やるねぇ!』京が笑いながら零士にビールを提供した。
零士はあの時は頭に来ていたので怒りに任せて言い返したが、落ち着いた今は恥ずかしかった
我慢すればよかったと後悔してビールをぐいっと飲んだ。
『でも零士のおかげでいい情報が手に入った。』世守は笑いながら話し始めた。
『やはり、あの国立店長があの店舗で怒る引き金は小栗さんの話にも出てきた代車だと思う。』
零士は驚きながら世守の方を見た。
『今日は伊東さんに会って事の始まりとなりそうな出来事はなかったか聞いてきたんだ。』
『それで?』京が促した。
『伊東さんは店舗でも1.2位を取るほどの成績みたいだったらしい。国立店長も営業能力は認めていたらしいんだけどある日業者の一人が店長と話をしていてその業者が話を終えると伊東さんを呼んで
彼から車を買ったらしいんだ。』
『それがどういう事なんだ?』京は疑いの目を向けながら世守に質問した。
零士はアッと声を出した。
『それが栗原さんの言っていた業者っていうことですか?』零士は割り込んで答えた。
世守が微笑んだ。
『そう!その業者に車を売る手続きを終えるとある日国立が言ってきたらしい、業者から担当を外すようにと言われているから納車までのやり取りはしなくていいと自分の知り合いの業者であるからあとは自分に任せろと言ってきたらしい。でも伊東さんは自分の仕事に誇りを持っているため最後まで対応したいと願い出たところ罵声と暴力にあいそれから事あるごとに続いたと。』
世守はは話しながら壁に新しいメモを付け足した。
◆深海 毅 29歳 新光運輸 レンタカー事業部 本部長 
『これが例の店長と仲いい業者の奴ですか?』零士が質問した。
『そう。ついでにこの会社も調べてきた。本部長と言っているが親が立ち上げた会社で新規事業をしているだけらしいから実質ほぼ社長のようなものらしい。それにこの深海って男にはどうやらあまり素行の良くない友人も多いらしい。』世守は目を細めながら語った。
『そこで、この男の周りを調べ上げてもらいたいんです。京さん』世守が話し終えると京を見つめた。
『え、まじかよ、また俺かよ。店が忙しいのによ!』京が嫌そうに答えた。
『この手の相手は京さんの方が調べるの得意だと思いますけどね?』世守が涼しい顔で答えた。
京は目を細めいやいや頷きながら、はいはい。と小声でいいながら開店準備に戻った。
零士は呆然として世守を見つめた。
世守がそれに気づき微笑みながら答えた。
『京さんはこの仕事をする前はやんちゃしていたから悪そうなやつに顔が利くんだ。』世守が京に聞こえないように零士にそっと耳打ちした。
なるほど。よかった自分が調べる事にならないで。
零士はそっと胸をなでおろし残りのビールを飲み干した。

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