片腕の炎

火焚 柾

第3章 新しい仕事

零士は目が覚めるとバーのソファー」で目が覚めた。
『いててててっ』零士は頭痛で頭を押さえた。
どうして僕はここにいるんだろう?バーのソファーで寝ていたんだろう?しかも初めて来たバーで朝目が覚めるなんて!
零士が痛む頭を抱えながら起き上がるとバーの入口から、換気扇の隙間から朝日が漏れていた。
静まり返ったバーの中を見回すが開店している時とは違いやけにシーンとしていた。
そうか、昨日俺はあの男、世守って言ったな、たしか世守に一緒に仕事をしようと言われたんだった。
そのままなんだかうれしさとわくわくで色々話したんだそのままバーテンダーの人がお酒を持ってきて、気づいたら朝だったんだ!
零士は昨日の出来事を思い出した。
俺はあまり酒が飲めないからすぐ寝たんだ!まったくやってしまった、後悔に襲われながらも昨日のやり取りを思い出していた。

『一緒に仕事を手伝ってくれ!』うれしそうな笑顔で頼む世守
『どうして僕なんかと!』慌てて零士が切り返す
『そうだな、感がよさそうだからだ好奇心を実現するだけの行動力もある、何より今の仕事が面白くない何かに挑戦してみたいって気持ちが心にあるからだ!』ズバリと言われた。

零士は世守とのやり取りを思い出していた。
カウンターから瓶をガチャンと置く物音が聞こえ零士はカウンターを見た。
カウンターにはバーテンダーが片づけをしていた零士に気づくと
『おお目が覚めたか!斎藤君だっけ?昨日は楽しそうに話していたな!』零士に話しかけてきた。
『あ!すいません!寝てしまったみたいで!!!っ』零士はあわてて立ち上がり頭を下げると、バーテンダーは笑い始めた。
『いや、大丈夫だよ、バーだからね、ここはよくあるさ、それに世守はいつもここで寝泊まりしているから慣れっこだよ』バーテンダーはハニカミながら零士に言った。
『しかしアイツが誰かと仕事したいなんて言い出すのは初めてだ、気に入っったんだな』

『ここはその世守くんのお店ではないですよね?バーテンダーさんのお店ですよね?』
『京 俺の名前江渡 京、ここは俺の店でもあるが昼間も夜も開店しているもっぱら昼間はタトゥーアーティストが俺の仕事だがタトゥーのデザイン画は世守に任していてね、その代わりにここに住まわせているんだ。』
京はそう告げると忙しそうにカウンターの中を掃除し始めた。
『あのぉ世守くんは・・・?』気まずそうに零士が質問するとカウンターから京が返事をした。
『ん?あああ部屋で新しいタトゥーのデザイン書いているよ』
零士は言われるがままにあの奥の部屋に入っていた。
やはり部屋は薄暗くランプの明かりと入口から差し込むわずかな明かりぐらいだった、奥の角に木製の製図台に世守が座って作業していた。零士はどんな絵を描いているのか見たくなり机を覗き込んだ。
A4ほどの紙に綺麗な赤と黒のインクで流れるような炎の絵が描かれていた部屋が薄暗いせいかインクが赤く鼓動しているようにも見えた。
零士が驚くと、世守が振り返った
『目が覚めたのかい?昨日は色々悪かったね助かったよ。』
『どうして絵のインクが光ってるんですか?』唐突に零士が質問すると、世守はにこっと笑いながら話した『この絵を書くときだけ光るんんだ僕にもわからないんだ。ところで今日は予定があるかい?』世守が唐突に質問してきた。
『え?まぁ一応今日はバイト休みとですけど、』零士はおどおどしながら答えた
『じゃぁ一緒に行こう!』世守がそう言うなり立ち上がって黒いコートを着込んだ。
『え?どこにですか?』零士が慌わてながら質問をした、
『依頼人のところにね!』世守がそう言うと店を出ていっった。

外はいい天気だった。暗いところから急に明るいところに出てきたので零士は目がしぱしぱしている。
そこに轟音が鳴り響いてこちらに近づいてくる。
金属の低い音、詰まった空気が勢いよく流れるような音 バイクのアイドリングする音だった。
真っ黒いバイクは零士の前でゆっくりと止まった。
その音と迫力に零士は驚きながらじっくりと見つめてしまった。
そのバイクは大きく真っ黒いタンクのところにハーレーダビッドソンと書いてある。バイクは全く知らない零士でもその名を知っていた。大きい排気量のバイクなのだろうマフラーから漏れる排気音が独特の拍子を刻みながら音を立てている。運転手は黒いフルフェイスをかぶっているが着ているコートは世守が着ていたコートだった。
『零士!さあ乗って!次の依頼人のところに行こう!』轟音の中から世守の声が聞こえてくる。
『え、いや、僕まだ行くなんて決めてないし、それにバイクなんて乗った事ないし』零士は驚きながら答えた。
『大丈夫だよ!ちゃんと免許は持ってる!それに安全運転で行くから!』世守が轟音に負けじと叫んだ。
零士は流されるままバイクの後席に座った。
バーから京さんが出てきて零士にヘルメットを渡した。
『二人乗りするならヘルメットぐらい用意しておけよ!』京さんが世守に笑いながら怒鳴っていた。
『京さん、行ってきます。帰りは遅いかもしれません。』世守がそう言うと
『帰ってきたら店ぐらい手伝えよ!あとヘルメット返せよ!』京さんは憎まれ口をたたきながらバイクを見送った。

バイクは轟音を刻み名がら風を切って走っていく。
零士は振り落とされないようにい必死に世守にしがみつく【一体どこに行くんだろう?】零士は頭の中でグルグル考えながらしがみ付いているとある喫茶店の駐車場でバイクが止まった。
『ここですか?』ふらふらしながらバイクからやっと降りると零士は振り絞るように世守に尋ねた。
『そう。新しい依頼人の待ち合わせ場所だよ。』ヘルメットを脱ぎながら世守は話した。
二人は店員に案内されて一番奥の席で依頼人を待った。
『依頼ってどうやって入ってくるんんですか?』依頼人を待つ間零士は気になったので質問した。
『ん?依頼かい?これだよ。』世守がスマートフォンをチラつかせた。
『今は便利でねSNSで連絡が来るんだよ。その中でもかなり切羽詰まった依頼があって今回あって話を聞くことにしたんだ。』世守が淡々と話していると正面からスーツを着た男性がこちらを見ながら恐る恐る近づいてきた。
男性と目が合うなり男性が恐る恐る訪ねてきた『あのぉ畔上さんでしょうか?』
『はい私が畔上世守です。伊東さんですか?』真っ直ぐ相手の目を見ながら世守は返事をした。
男性は小さく頷いた。
『どうぞ、こちらに座ってください。』世守が正面の席に案内すると伊東さんはゆっくりと席に座った。
『初めまして、SNSで連絡いただいた畔上 世守です。こちらは助手の斎藤 零士です』僕はまだ助手になると言った覚えはないが世守が勝手に僕を助手として紹介した。
『あ、どうも、初めまして伊東 雅也です。』丁寧に男性はお辞儀をしながら自己紹介をした。
男性はすらっとした細身で髪は会社員らしく短い整った髪型で顔だちもきりっと整っている本来は第一印象は良さそうなさわやかな顔立ちなのだろうと零士は思ったが今は彼の顔はどこか疲れている暗い顔立ちだった。
『それでSNSでは簡単な話だけ伺いましたが一度詳しくお話を聞いてもいいでしょうか?』世守が真剣な表情で伊東さんに尋ねた。
伊東さんは頷きながら少しの間だけ沈黙がありゆっくりと話し始めた。
『私は、自動車販売の会社で営業をしています。成績は決して悪い方ではないのですが、店舗の店長から暴力を振るわれて困っています。ある日から突然些細な書類ミスを理由に店長から罵声を浴びしまいには蹴りや往復ビンタなどされるようになりました。』伊東さんは苦しそうな表情で続けた。
『この業界は決して優しい業界ではないのは知っていますが、今回はかなりひどいと思っています。店長からの暴力は酷く、多くて週に2回は私の仕事の落ち度を見つけては怒鳴られ暴力を振るわれます。店舗でも2人精神病を患ってしまい休業してるスタッフが出るほどの横暴ぶりなんです。』
息が切れるように伊東さんは話した。
『店長はその2人にも暴力をふるっていたのですか?』世守がすぐに質問をした。。
『いいえ、彼ら毎日のように罵声を浴びせられていたのは知っていましたが暴力は私だけなんです。』
伊東さんの手がっ刻みに震えているのを零士は見た。
『なるほど、その方たちは今は何をしていらっしゃるんですか?』
『一人は今も自宅療養中です。もう一人は別の店舗に配属になってます。』
『わかりました。後ほど二人いの情報をいただいてもよろしいでしょうか?』伊東さんんが軽く頷くのを見ると世守はメモに軽く書き込んでポケットにしまい込みながらすぐに新しい質問をした。
『それで、警察には行かれたんですか?』
すこし間を置いて伊東さんは話し始めた。
『警察には行きました。警察で言われたのはまず怪我をしているなら病院に行って診断書をもらってほしいとその後、聴取をとり捜査をしていきますと言われたので、すぐに私は病院に行って診断書をもらってきました、実際に暴力は行き過ぎていましたし痣が多数あるので、診断書を持って警察に再度行きました。そうすると今度は聴取が始まりかなりの時間どのように殴られたか実演をしながら聴取を取りました。その中で警官に言われたのが、捜査をする上で同じ職場にいるのは非常に危険なので、できる事なら引越しをして仕事も変えることを進めると言われえました。そして最後にお金目当ての訴えではないですか?と質問もされました。』伊東はため息を小さくつき話を続けた。
『私は長時間の聴取に仕事と住まいを変えるようにと言われたことに戸惑ってしまいました。そんな短時間で仕事と住居を簡単に変えることは難しいですし、それに、お金目当ての訴えでないのかと言われたことが何よりっもショックでしたなんだか味方がいないような孤独な感覚になってしまいそれっきり警察には行っていません。』伊東さんはぐっと下唇を噛んで下を向いていた。
『ひどい、そんな言われ方したら警察に話しづらくなるんのに、、』零士は思わず言葉にしてしまった。
すると世守がすぐに答えてくれた。
『現行犯でない限り今の警察の限界なのかもしれない、実際に暴行罪で相手を訴えて困った相手は示談にしてもらうその際の示談金目当てと言う話も聞いたことはありますが、それをいきなり言われしまっては助けを求めにくくなるのも無理はありません。大きな事件にならないと警察はしっかりと動いてくれないんですね。会社には何か話されたんですか?』
『はい。畔上さんがおしゃっている通りの事態で私は自分自身で解決しなければならないと思い店舗に見回ってくる常務に相談したのですが、、常務には、現状のこの会社の人員を考えるとこれ以上人を動かすことができない、それに君自身にも店長から注意をされる原因としてミスをしているのであれば一人だけ懲罰や人事などを出すのは難しいことだと言われました。懲罰会議など、警察に訴えもすべて証拠になるものや別の証言をしてくれるスタッフがいない限り立証は難しいのではないのか?と』伊東さんは苛立ちを隠せない様子で落ち込んでいた。
『警察も会社も証人が必要さらに被害者の気持ちを汲むとが出来ない言い回しで圧力それでは八方ふさがりですね。なので今回我々に相談されたということですね。』世守の目は真っ直ぐ伊東さんを見ていた。その目にはどこか悲しい気持ちも入り混じっているようにも見えた。
『はい。もうどうすればいいのかわかりません。証人と言ってもこの会社で働いているスタッフは年齢も高く給料や賞与や休みはしっかりしていて満足しているスタッフが多く私のような若いスタッフを助けるために自分の立場を危険にさらしてまで助けてくれるスタッフはいないです。実際私が暴力を振るわれている時もスタッフは見て見ぬふりをしていっました誰も止めには来てくれませんでした。
それでも私は、私は、許せません結果が出るように毎日努力をして成績も上げてきました。成績に悩んでいるスタッフには勉強会などを開き少しでも成績が上がるように協力もしてきましたが、毎回のように気に入らないことがあると教育と称して罵声と暴力をされます。私もいつ精神がおかしくなるか
わかりません。なんとかこの件を解決していただければと思ってます。助けてください!お願いいたします。』伊東さんは深く頭を下げました。よほど悔しいんのだろう目にはうっすら涙ぐんでいた。
世守は力強く返事した。
『さぞ辛かったでしょう。わかりました。私たちで事態の全貌と解決に動きたいと思います。
それまでは辛いとは思いますが目立った動きをせず耐えてください。何か動きや気になることは全部連絡をお願い致します。しばらくはこの案件を追わせていただきますのでご安心ください。』

それから少し会話をして世守と僕はお辞儀をして去っていく伊東さんを見送った。

『ふーしかしひどい話だね。あの伊東さんて人は本来はかなりできるタイプの営業マンなんだろうね話し方がしっかりしているしそんな人が会社であそこまでの扱いをされるなんて裏にはなにかもっと話があるのかもしれないね休業しているスタッフに逢ってみる必要がありそうだね。』
世守はため息交じりに僕に話しかけてきた。
『ひどいです確かにあの状態でも正気を保ってられるのが凄いと言うか、でも話してくれますかねスタッフの人はなかなか非協力的と言っていましたけど。』零士は真剣な表情で答えた。
『今もあの会社で働いているスタッフは話してくれないだろうね、でも一人自宅療養中の人なら話してくれるかもしれない。会いに行く価値はありそうだね。』
そう言うと世守もらったスタッフの情報のメモを眺めていた。

カランと喫茶店のドアが閉まる音を聞きながら
僕たちはまたあの轟音のバイクにまたがってまた走り始めた。


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