主役にはなりたくない〜田中司(41歳)がやりこんだゲーム世界に転生した件について〜

もりし

第14話 モブキャラは主役について考える

俺たちが家を出ると、ハウスキーパーのおばちゃんがいた。
「あんた達、どうだった?何か叫び声が聞こえたけど」
この町に来る人は珍しい。それが、あんな風になったマイトによそ者が訪ねてきたら尚更である。おばちゃんの好奇心をくすぐったのだろう。待っていたのだ。
「大した事はないです。それよりもマイトはいつからあんな感じなんです?」
俺はこの手の質問で、おばちゃんもフリーズするかと思ったが、
「さぁ。私はここ2ヶ月位頼まれてるだけだからね。でも変ね。そう言われると確かにマイトが、どうしてたなんて記憶がないわ」
普通に答えてくれた。俺はリジンに向き、
「リジン、マイトとは仲良かっただろ?何か原因とか分からないか?」
「私が……マイトと?……──……」
先程と同じように、リジンはフリーズした。人形のように瞬き一つせず。動かなくなってしまった。
何故リジンや、マイトの父親はフリーズしたのか。バグ?
マイトはいつからこんな感じなのか。マイトは気が触れていた。
そして、これは俺の想像でしかないし、確信は持てない。だが、一つの可能性として、推察する。
俺はマイトに転生するはずだった?
だから、マイトの肉体だけが存在し、あの様に中味がない状態になっていたのではないのか。そして、俺がマイトになっていれば、この町でマイトに深く対関わっている人達の記憶が、スムーズにリンクするはずだったと推察する。
マイトの父親や、リジンのフリーズを見た所、一種のデータの破損の様な状態になっているのではないか。
そして、いつからこうなったのか。と考えれば、俺がカシムに転生した時からであろう。世界が何らかの強制力を働かせて、マイトの父親をこの家にしばりつけ、リジンからマイトへの好意を奪った。
ハウスキーパーのおばちゃんは、マイトについて質問してもフリーズしなかった。これはモブキャラだからではないだろか?リジンや、マイトの父親はマイトと深く関わっている。だから、彼の事を詳しく聞こうとすると、本来のマイトと現状のマイトの状態に矛盾があり彼らをフリーズさせる事になるのだろう。
マイトは、プレイヤーが使って初めてその存在を発揮するキャラクターだ。しいて言うなら操作する者がいなければ、中身がないのも同じ。マイトの幼なじみであるリジンも、マイトの父親も、中身のない者との記憶など、あるようで無いものなのだ。
だが、それは俺の仮説でしかない。
そして、一つ確定している事があるのならば、今現在この世界には主人公は存在していないという事だ。マイトに誰かがプレイヤーとして転生してもらわない限りは。

「カシム──」
俺は思考の底に沈んでいたらしい。ミィが目の前にいた。
「遅いから心配になって来たけど、どうしたの?」
ミィは俺の頬に手をやる。リリーとカレンもいた。俺はどう答えたモノかと考えを巡らせた。
バン!と窓ガラスを叩く音が聞こえた。
振り返るとマイトが部屋の中からこちらを見ていた。バンバンと、何度も窓ガラスを叩くマイト。父親が、後ろからマイトを羽交い締めにして、
「マイト!何やってるんだ?大人しくしなさい!」
と部屋の奥につれていった。

マイトは完全に壊れていた。

「びっくりしたぁ。何なのよぉ……」
ミィはマイトを見て驚いていた。

◆◆◆◆

サイレンがけたたましく鳴る。
次から次へと状況が変わっているのだろうか。
そして、こんなシナリオは無かったと記憶している。
「非常事態!非常事態!武装集団とおぼしき者達が町に接近中!町の人達は警戒して下さい!また、戦える方は町の入り口まで来て下さい」
と町内アナウンスが流れた。なるほど、もしかしたらこの時期に町は襲撃を受けていたかもしれない。俺はこのゲームをやっている時はダンドンの町に戻る事が滅多になかったから、人によってはこのシナリオをやった事があるのかもしれない。

「カレンって非戦闘員なのか?」
俺はカレンに聞いた。カレンは頷いて、
「そうよ」
と答えた。
「ミィとカレンは【ランドポーター】に避難した方が良いな。そうしてくれ」
俺は二人にそう指示する。ミィは戦闘は出来ない。タイタンソードマジックオンラインでは、戦えるキャラクターと戦えないキャラクターがいて、ミィは後者である。【ランドポータ】は荒野の様な劣悪な環境を走るために、頑丈に作られているので中には入れば多少は安全である。
「リリー、一緒に来てくれ」
「もちろんよ」
俺とリリーは俺が闇落ちしてから、言葉遣いがくだけた感じになっていた。今さら戻すのもよそよそしいと思う。
「リジンはどうする?」
俺はリジンに聞いた。リジンも戦えるが、ここは本人の意思を尊重したいと思った。
「もちろん、僕も行くよ。でもちょっと準備しないと」
そう言ってリジンは装備を取りに自宅に戻った。
「じゃあ、行ってくる」
「うん、カシムも気をつけてね」
「無茶はしないよ」
俺はミィにそう言って、町の入り口へと向かう。
「おまたせ」
そう言ったリジンは鉄の棒を持って来ていた。彼女は槍を使うのであるが、これは初期装備である。
鉄の棒からは、コードが伸びていて腰に着けた箱に繋がっている。中に魔石が入っていて、この鉄の棒で殴られると電気がビリビリと発生してダメージを与えるのだ。
リジンはこれを自分一人で考えて作っている。俺は自分のガンソードを見る、大分使ってきたからか、傷みが激しい。そろそろオーバーホールしなくてはならないだろう。
だが、これを頼めるのは、現状ではおそらくリジンしかいない。満足な設備はここにないので、ギザトの町に来てもらう必要がある。
だが、マイトに誰かが転生した時にリジンがいないと困るのではないかとも思う。
「リジンをスカウトして良いものなのか……」
思わず独り言を呟いていた。するとリジンが俺の方を見て、
「何?僕の事?もしかして僕の腕をかってくれたのかい?」
と聞いてきた。
「……うん。出来ればギザトの町に来てほしいとは思うけど……」
俺は素直に答えた。だが、無理に来なくても良い。リジンがマイトの側に居続けるキャラクターならば、その設定には抗えないだろう。
「うーん……考えとく」
考える程度の余地はあるらしい。リジンは俺に向かって微笑んでいた。

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