主役にはなりたくない〜田中司(41歳)がやりこんだゲーム世界に転生した件について〜

もりし

第12話 ダンドンの町のリジン

「やあ」
脇道から声をかけられた。
ツインテイルの青い髪が風になびく。
「さっき見てたけど、よそ者とは珍しいね」
彼女は、建物の影から俺達のもとへ、歩いてくる。
額にはゴーグル。日差しの強いこの町には似つかわしくない白い肌。

「あなた誰?」
ミィは尋ねた。
「僕かい?僕はリジン。この町で金物屋をしてるんだ」

青髪ツインテイルの僕っ子。
リジンは、マイトの幼なじみの15歳の女の子だ。遠目でも分かる程の美少女だ。
「良かったら家にもおいでよ」
リジンは俺達を招待した。

リジンは、タイタンソードマジックオンラインでは重要なキャラクターである。
金物屋と言ったが、手先が器用で、武器の強化や修理もしてくれる。
両親は数年前に他界していて、マイトはリジンの面倒を何かと見ていたし、その逆もある。
マイトも、母は他界。冒険者である父は行方不明という事で、二人で支え合って生きてきたのだ。
マイトは15歳になり、父を探しに冒険者になる。
そんなマイトについていくリジン。
もちろんリジンの攻略ルートもあり、これはおそらく皆好きなシナリオだと思う。それにリジンの攻略はそんなに難しくない。既にリジンはマイトの事が好きだし、要するにマイトはいつも通りリジンに接して、冒険をして、しかるべき時に告白するだけで良いのだから。
幼なじみと結ばれる話は、良いものだ。
──と、しみじみとして俺は隣のミィを見た。

◆◆◆◆

リジンの金物屋は、物置小屋のようである。
ダンドンの町の気候のせいで、土埃にまみれて鉄製で錆びていた。
中は手狭で薄暗い。スチールラックに多くの工具やがらくたが、押し込まれている。
「待ってね。今お茶を入れるから」
俺達は、用意された椅子に座って待つ。
しばらくしてお盆にお茶を乗せて来た。
それは粗末なお茶であったが、彼女の精一杯のもてなしなんだろう。
「ありがとう」
俺はそれを飲んで、リジンが俺達に話しかけてきた意味を考えていた。
意味と言うのは、単に俺達が余所者で珍しかったから声をかけてきたという事ではなく、今後のシナリオにどう影響するかという事である。
「リジンは、独り暮らしなのかな?」
俺は彼女の家族構成は知っていたが、確認のために、聞いた。
「僕は母子家庭だったんだけどね。母さんは二年前に亡くなったよ」
「そうか。変な事聞いたな……」
「いいよ。もう一人にも慣れたよ」
俺はここで、もう少し押してみる事にした。
「近所付き合いというか、助けてくれる人もいるんだろ?」
マイトの存在を確認出来れば……と、思った俺だ。
「近所のおじさん、おばさん。幼なじみの子とか。まぁ、それなりに助かってるよ」
幼なじみ!俺はそれを聞いて安心した。
マイトの家に行って確認もするが、とりあえずリジンに幼なじみがいるのは確認出来た。

「これはリジンが加工したの?」
リリーは床に転がってる金属の加工物を手に取った。
「あー、そうだよ。練習だけどね」
俺もそれを見せてもらう。それは見事な加工だった。
ここにある設備で出来る限界ギリギリの加工だ。
丁寧で美しい。
もっといい設備があれば、さらに素晴らしい仕事をするだろう。
リリーも、この工房を興味深く見ている。
ミィは、特に興味はないらしい。
技術的な事より、商売になるかどうかという点を見ている様だ。
そこは商人の娘である。

リジンは普段は生活用品の修理をして生計を立てていると言う。
フライパンや鍋を治したり、包丁を研いだりしている。
儲けは少ないが、近所のおばさんとかが、オカズや、食料をたまに持ってきてくれたりするので、ギリギリやっていけてるらしい。

「そうだ。さっき話題に出た幼なじみに頼まれた包丁を持っていかないと。すぐ戻るから、好きにしてて」
リジンは研いだ包丁を届けるというので、俺もついていく事にした。
女子達はここに残るという。
砂ぼこりが、ひどい町なのであまり出歩きたくないのだろう。

リジンと俺は通りを歩く。
ふと、マイトでゲームを遊んでた時はこんな感じだったと思った。リジンが隣にいて、いつも俺を支えてくれていた記憶がある。
肉屋があるこの先の角を曲がると、マイトの家である。
俺は意外に緊張していた。
実物のマイトに会えるのである。
この世界の英雄になる予定のマイトである。

「あ、ここだよ」
ん?俺は目が点になっていたと思う。
そこは肉屋である。
「おーい。ケーンいるかい?」
ケーン。それは俺にも僅かながらに記憶にある。肉屋の息子。マイトやリジンと同じ幼なじみではあるが、はっきり言ってモブキャラである。
「おう、リジンか」
出てきた男は、豚っ鼻で太ってる。言ってみれば、肉屋の息子っぽいキャラである。
「これ、頼まれてた包丁」
「おう、ありがとよ、あ、ちょっと待ってろよ」
そう言ってケーンは、奥に引っ込み、それから袋を持ってきた。
「これ少ないけど屑肉な。それとこれは砥代」
そう言って、お金と肉の入った袋をリジンに渡す。
「いいの?ありがとう。僕は肉大好きだからね」
「ウチに嫁に来たら毎日食べれるぞ」
ケーンはリジンにモーションをかける。
「あ、それは遠慮しとく」
「何でだよ?!」
「あははは」
──と、和気あいあいと会話が続く二人であったが、俺はそれどころではない。
この角の先にマイトがいるか。確認したかった。
俺はたまらず走り出した。

「?どうしたんだい?!」
リジンの呼び掛けに答える余裕は無かった。
(マイト……早く出てこいよ)
そう願わずにはいられなかった。
そして、その家はあった。
「何だよ。あるじゃないか……」
俺は安堵して、たまらずへたりこんだ。

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