主役にはなりたくない〜田中司(41歳)がやりこんだゲーム世界に転生した件について〜

もりし

第11話 ダンドンの町へ

ダンドンの町に着いた。
そこは田舎町である。ギザトの町も田舎と言えばそうなるが、それよりもはるかに寂れている。

ここで、マイトの最初のシナリオをお復習さらいしたい。
マイトは、幼なじみのリジンという女の子と二人で町を出るのが冒険の始まりである。
道中に山賊のヒューゴと出会い、彼の妹の命を救い、ヒューゴは改心して仲間になる。
それから、空中都市ラ・アルトマイドでラーナ姫を助けるイベントをするのだ。
つまり、俺は現在のところ逆にシナリオをなぞっている。
ヒューゴは山賊のままであった。
─という事は、マイトはまだ冒険に出ていない。という事だろうか。

ダンドンの町の適当な場所に【ランドポーター】を停める。
俺とミィと、リリーとカレンの四人は町に入る。地面は土で風が強く、土煙が上がる。この町の特徴だ。女性達は砂がまとわりついて嫌そうである。勿論、俺も嫌だ。だが払った所で意味はない。風が強いので、きりがないからだ。
「カシム、どこ行くの?町工場はこっちみたいよ」
「……あぁ」
リリーが、よく調べてくれたお陰で町工場に直行だ。ほんとに優秀な人である。
俺としては、すぐにでもマイトの家に行きたかったが、この町には工場の視察の為という名目で来た以上それを実行しなくてはならない。

◆◆◆◆

荒野の寂れた町の工場。正直期待していなかったが、わりと良い仕事をする。俺は前世の職業柄、この手の仕事は見る目がある。
ちなみにこの世界の金属を加工する機械は、汎用機である。汎用旋盤、汎用フライスという昔ながらの加工機械である。
現代社会では、コンピュータープログラムによって、職人が10年かかって覚える技術を、半年で出来るようになる世界だった。
しかし、この異世界は、職人の世界。職人が、10年かかって、10年なりの仕事を覚える。良い職人を抱えている町工場が良い仕事をする世界である。町が寂れていてもこの町に住む者は食べていかなくてはならない。
都会に出るのも一つの手段ではあるが、荒野を抜けるのは並大抵の事ではない。
命を落としてまで、この町を出ようという者はいないし、冒険者に護衛を頼むと、それはそれで高額な護衛費用がかかる。結局、ここで食いぶちを探すしかないし、よい仕事をしていれば、この世界では引く手あまたになる。
だから、この町の職人は必死で技術を学んでいるのだろう。

ダンドンの町は、外部から人が訪れる事は滅多にない。
だから、町中の人が俺達を見に来ていた。
遠巻きに見ている人達の中に、リジンの姿を見つけた俺だ。
だが、こちらからリジンに声をかけて、「マイトはどこ?」なんて不自然極まりない。俺は、はやる気持ちを抑えて町工場の職人と会話する。
職人は、普段寡黙に仕事をしているので、他人と会話出来るのが嬉しいらしい。饒舌に自分の技術をたくさん話してくれた。
それはありがたいが、そのやり方を聞いたから出来るという訳ではない。
職人の技術とは何年も修練して手に入れる技術である。
そういった事は、町工場の人にまかせて、俺は俺の仕事をするだけである。

一時間も町工場でおしゃべりをする事になってしまった。
ミィもリリーもカレンも美少女だから、職人が離してくれなかったのだ。

◆◆◆◆

俺達は職人のおしゃべりに、くたくたになった。
町の喫茶店で休憩する。
ミィはミルクティー。リリーとカレンはバナナジュース。
俺はアイスコーヒーのブラックである。
「カシムって、急に味覚変わったよね?」
ミィが不思議そうに言う。
「そうだな……」
俺は自分が転生した時の事を思い出していた。
駅のホームで死んだ俺。
両親と妹がいた。多分悲しんでるだろう。
普通に生活していたつもりだが、やはり無理していたと、今では思う。
早めに気づいて転職すべきだったのだろう。ブラック企業で働くとそういう傾向になるらしいが、思えば判断能力が欠如していた。
俺は会社を辞めていった面々を思い出していた。
入社時は朗らかに笑っていた人達が、段々と眉間にシワが寄っていったのを思い出す。
しまいには笑わなくなって、嫌味を言うようになっていた。
あの会社はそういう所だったのだろう。

「カシム?」
リリーに声をかけられて、現実に戻ってきた。俺は思い詰めた顔をしていたらしい。
「どうしたのですか?」
「……いや、何でもない」
「そうですか?何でも相談して下さい。そのために私は来たのですから」
リリーは優秀で美少女。
「カシム、私もいるからね」
ミィは、カシムだけを見ている美少女。カレンも俺に微笑みかけていた。
「大丈夫。頼りにしてるよ」
俺は一人ではない。

◆◆◆◆

用を終えたので、観光と称して町を歩く。
土煙が時折上がるので、女の子達は嫌がったが、折角だからとついてきた。
俺は記憶を頼りにマイトの住まいに向かう。

ミィとリリーとカレンは、俺の後ろを歩いている。俺を土煙の盾にしている。
三人とも仲良くおしゃべりをしながらの進軍である。結局、仲良くなった女子達である。三人とも、嫌みのない性格だからな。

ここでリリーについて説明を補足しておきたい。
俺はリリーを仲間にしている。
マイトの仲間になる予定のキャラを取った体になっている。
王族との食事会の時に思わず、リリーの名を出したからだが、ゲームではリリーを仲間にするタイミングは、ラーナ姫を救出した時と、ゲーム後半のシナリオだけだから、問題はない。
タイタンソードマジックオンラインでは、仲間に出来るキャラクターが多い。
正直、余らせてしまう傾向にあるので、リリーぐらいは良いかと……まぁ、自分の保身もあるのだ。
流石に一人では身の安全面を考えると何ともならないと考えている。
駐屯地を強襲したのも、ミィをさらわれた怒りもあったが、最初のシナリオだからと、タカをくくっていた。でなければ行く訳ないが、後期のシナリオであっても、ミィをさらわれれば助けには行くだろう。
要するにどこで止めるか。という点では今回は自分の気持ちに歯止めが効かなかった。
それにしてもガル・クライトンに出くわしたのは運が無かった。
一歩間違えれば死んでいただろう。

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