主役にはなりたくない〜田中司(41歳)がやりこんだゲーム世界に転生した件について〜

もりし

第9話 カシム(田中司)は犯人を知っている

署長は、俺のガンソードの前に倒れた。
単純に、ガンソードでクリティカルヒットさせただけだが、頭を割られてぶっ倒れた。
死んではいない。

決闘で負けた以上、署長は賄賂罪に問われ、強制労働送りになるだろう。
「では、スラムに住んでるルンの事を頼みます」
俺は誰に頼めばいいのか分からないので、とりあえずアルフレッドに頼んだ。
「分かりました。こちらの方で処理しておきます」
アルフレッドは優秀な男で頼りになる。俺が捕まったのも、情報として掴んでいたからこうして迎えに来てくれたという。

署を出ると、車が停まっていた。豪華な車だ。
「さ、行きましょう」
ラーナ姫が俺を迎えの車まで手を引いて誘導する。
運転手がドアを開く。
俺とラーナ姫は車の後部座席に乗り込む。
アルフレッドは助手席に。
後部座席は、前の座席とは仕切りがしてあって、部屋の様になっていた。
覗き窓からアルフレッドが顔を出して、
「では、城へ向かいます」
と言った。
「えぇ、お願い」
ラーナ姫が手を払う。放っておいて欲しいというゼスチャーだ。
覗き窓を閉めるアルフレッドだ。

少しして車が動き出した。ゆったりと走っている。
俺はラーナ姫と並んで座っている。
不思議な気持ちがした。ラーナ姫が隣にいる。
彼女は俺の視線に気付いて、ニコッとした。
俺はその反応に驚いた。
やはりタイタンソードマジックオンラインをしていた時のラーナ姫の反応とは違う。
かなり友好的な反応なのだ。
そして、ラーナ姫は美少女で、俺は胸の高鳴りを抑えられなかった。
「カシムは観光客よね。いつ戻るの?」
「明日には帰るよ」
「そうなんだ…残念」
ラーナ姫はそう言った通りホントに残念そうな顔をする。
「ラーナ姫、残念がる事はないだろ?俺は何の取り柄もない普通の男だぞ?こんなのは何処にでもいるだろ?」
「それは私が決める事よ」
ラーナ姫の意図が読めない俺だ。一度助けただけでは、彼女の好意を得るのは無理なはずだが、下手に刺激しても良くない。
どうせ明日には帰るのだ。


◆◆◆◆


城に着いた。
俺は一室に通された。
俺は憲兵に逮捕されてから靴を履いていなかった。それで、騎士に配布される靴を譲渡された。俺が持っている靴より履き心地は良く、上等である。
豪華なテーブルの上には銀製の器。山盛りのフルーツ。食べていいとの事なので、ブドウをひとつまみした。
コーヒーを飲む。小さなカップである。
「上品だな」
メイドがコーヒーのお代わりを入れてくれた。
「ありがとうございます」
俺はお礼を言った。メイドはニコッと笑って会釈した。
このメイドはレベル高いなと俺は彼女を見ていた。
メイドもこちらを見ていた。俺はドギマギして、目を反らす。メイドはそんな俺を微笑ましく見てくれていた。

「カシム、何メイドに見とれてるの?」
ラーナ姫が部屋に入って来た。
「いーじゃないか。可愛いメイドを見ても減るもんじゃないだろ?」
メイドは、「あらま」と言う表情をしている。ラーナ姫はあからさまに不機嫌になる。
「エッチ!」
「何でそうなるんだ?」
俺が何かしたと言うのか。

アルフレッドに先導されて俺とラーナ姫は並んで歩く。俺はその横顔を盗み見る。
整った鼻筋、長いまつげ、ふっくらとした唇。俺の理想通りの造形だ。改めて見ると本当に美少女だ。
もちろんミィもラーナ姫に負けず劣らず美少女である。

「こんなところへおられましたか、姫様」
俺達が歩く先に、一人の男がいた。
「これはクルード大臣。何か?」
高級そうな紫のローブとスーツに身を纏っている。俺から見ても下品な服装である。
チョビヒゲと、テカテカに撫で付けたヘアースタイルが、それを一層強調していた。
ラーナ姫は、余りこの男が好きではないらしい。眉間にシワがよっていた。
「おや、こちらの御仁は?」
「カシム殿です。姫様が帝国の者に連れ去られる所を彼に助けられたのです」
アルフレッドが、クルード大臣にそう紹介した。
クルード大臣は、ピクッと反応して、
「なるほど、それで褒美は何を所望かな?その身なりですと現金ですかな?」
クルード大臣はニタニタと笑う。
「大臣!失礼ですよ」
アルフレッドがたしなめる。だが俺は、
「確かにウチは貧乏です。良くお分かりですね。ここラ・アルトマイドに来るのも、両親がギリギリ費用を捻出してくれた程でして」
俺はニコッとした。嫌みを受け流されたのが気に入らないのか、ふんっと鼻で笑うと俺達の横を通ってすれ違う。
俺はガンソードの柄をすれ違い様に奴のケツに当てる。
「……っぐ!」
クルード大臣は、悶絶して床に倒れた。
「す、すみません。大丈夫ですか?」
俺は、クルード大臣を引き起こそうとする。その際に剣先を奴のケツの穴にぐりぐりとする。
「……うっ!ぐおあぁぁぁ!」
クルード大臣の絶叫がこだました。

「どうされましたか?」
執事が現れたので、俺は彼にバトンタッチした。クルード大臣は気絶している。
執事は、クルード大臣を担ぎ上げると医務室へと連れていった。

「どうしたの?彼は」
ラーナ姫は首を傾げる。
「さぁ。持病でもあるんじゃないか?」
俺はとぼけた。

クルード大臣。帝国から派遣された間者だ。
俺が、ラーナ姫を助ける際にケツの穴に棒を突っ込んでやった野郎だ。殺せばいいんじゃないか?と思うかもしれないが、生かしておいた方がいい。
殺してしまうと、奴より優秀な人材を送ってくるので、奴といざこざを繰り返した方がやりやすい。
しかも、これで奴は重度の痔に悩まされる事となり、帝国とのやり取りも緩慢となり、その企みの遅延に繋がるのだ。

「さ、行きましょ」
ラーナ姫が俺に声をかける。
「あぁ」
俺は執事に担がれたクルード大臣が白目を剥いているのを見届けてから、きびすを返した。

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