主役にはなりたくない〜田中司(41歳)がやりこんだゲーム世界に転生した件について〜

もりし

第3話 カシム(田中司)は姫を助ける

俺は空中都市ラ・アルトマイドの外壁を落ちている。
もちろん落ち続ければ、はるか下の地面に激突して死ぬ。
外側は、木の根や蔦が延びていて俺は、ガンソードを突き刺して急制動をかけた。その内の蔦を一つ掴むと、それが外壁をべりべりと剥がれる。蔦と一緒にゆっくりと落ちながら、俺は目的の場所を見つけ飛び移った。

俺が飛び移った所は、空中都市の外壁に設置してある整備用通路だ。
俺は外付けされた通路を走って、外壁の中に入れる亀裂を見つけそこへ体を滑り込ませた。
こんな危ない行動をして怖いか?と言われると分からないとしか回答出来ない。ゲームでは平然と出来る事が現実に出来るか?と言うと実際のところ出来ないと思う。
田中司だと飛び降りるのは怖いと思っているが、カシムだと怖くないと思っている。自分の中にカシムの性格はほとんど消えているが、カシムの性格の記憶があって、そのお陰でこれが出来ている。俺自身、カシムの記憶に何らかの影響を受けているのだろう。
初めてカシムに感謝した。


◆◆◆◆


外壁の中は、空中都市を空に浮かばせるための動力機関であろうか。
鉄と油の匂い。蒸気が上がり、何万という巨大な歯車が回っている。
俺はその間を縫うように、張り巡らせている通路を走る。迷路のように入り組んだ通路であるが、俺はこのルートをやり込んでいるので迷い無く走る。

タイタンソードマジックオンラインは、自由度の高いゲームである。
その中でも、今俺がやっているラーナ姫救出のためのショートカットは比較的有名な攻略法だ。

帝国のやつらは、ラーナ姫を、帝国の【飛空艇】で連れていく。だから、本来なら後ろから追って行き、マイト達一行を足止めする戦力と戦い、相手の人数を少しずつけずりながら【飛空艇】の格納庫まで行くのだが、今俺がやっているこれは格納庫まで直で行って、集団全員まとめて相手する方法だ。
こちらの方が難易度が高いが、何周もクリアをしてると飽きて来て、こっちのルートが面白くなってくる。


◆◆◆◆


俺が、走って走ってたどり着いた場所は、格納庫の天井裏だ。帝国の【飛空艇】は28番倉庫にあるが、ここは55番倉庫である。
その理由は天井近くまで、うず高く積まれた積み荷。これを天井裏から降りていく足掛かりにするのだ。
こういう細かい手順を踏まないと、ショートカット出来ない。まさか外壁を飛び下りてここまで来るなんて。これを見つけたゲーマーは天才だな。


◆◆◆◆


28番倉庫が見えた時、丁度奴等が着いた様だ。俺は足を止めずにそのまま追いかける。
時間との勝負だ。
足は悲鳴を上げてる。肺も潰れそうになっている。
それでも俺はこれを成し遂げなければならなかった。
全ては、モブキャラとしての自分の幸せのためである。


そのまま無言で後ろから一人一人、クリティカルヒットで、ぶっ倒していく。
「何だ?!貴様!」
誰かが叫んだ。
2回ガンソードを、【オーブ】の魔力だけを使いスタンガンのように使う。これで二人制圧。
【オーブ】の魔力チャージ時間中は、ガンソードを魔力を使わずにクリティカルヒットさせる。ただの鈍器でぶん殴った様なものである。似非般若えせはんにゃの面ごと、頭を割る。これで一人制圧。
俺はこの二つのコンビネーションで、敵を制圧していく。
こいつらは、シタールという曲刀で応戦してくる。
混戦になっているので、かなり避けやすい。

それにゲームでは最初の方のイベントであるので、気を付けなきゃいけないポイントはあるが難易度はそこまで高くない。
一人だけ角が付いた般若の面を付けた奴がいるので、こいつは【気絶スタン】させる。

俺以外、立っている者はいなかった。
ラーナ姫をすぐにでも助けたい所だが、その前にやる事があった。
俺は角が付いた般若の面を被った男をうつ伏せにして膝を折り腰を上げた形にする。
その際にズボンをずらしてお尻を出しておく。
俺は周囲を見渡す。予想通りの、おあつらえ向きの【木の枝】が落ちている。
それを拾って、俺はその男のケツの穴に思いっきり突っ込んだ。
「きゅー…」
という変な声を出している気絶した男。
この【木の枝】は矢印の様にささくれだっているので、入れる時はスルッと入り、抜く時は引っ掛かったりする地獄のアイテムである。

これには理由があるのだが、いずれ説明しようと思う。

「さて…」
俺はモゾモゾぐねぐね動いている麻袋に歩み寄る。
「ラーナ姫、助けに来ました」
気の効いた事も言えず麻袋に声をかける俺。
動いていた麻袋はぴたっとおとなしくなる。

「ホント?」
鈴の鳴るような声に俺はドキリとした。

「はい」
俺は麻袋の紐を解く。
袋の口から白い足がスッと出てくる。
俺は息を飲んだ。
白銀の髪。アーモンド型の瞳が俺を見上げている。

ラーナ・テラ・メルト・フェンザー。

フェンザー王家のお姫様であるラーナ。

俺が41歳にもなって擬似的に恋愛感情を持ってしまった女の子だ。
おてんばで気位が高く、少し寂しがり屋で、わがままな女の子。

「本物だ…」
俺は思わず声に出していた。

「貴方が私を?」
キョトンとした顔で俺を見ていた。
俺は手を差し出し彼女は俺の手を取った。
「はい」
俺は彼女の手を引いて立たせた。

「ラーナ姫。行きましょう」
「え?」
「早く!」
俺は彼女の手を引いて走り出した。
「ど、どうしたの?!」

帝国の飛空艇には奴が乗っている。
今の俺ではどうにもならない。
ジーク・バガラ。
マイトのライバル的存在だ。

ゲームでは、マイトが敵の集団を制圧した後に登場する。
マイトは仲間と共に数ターンの戦闘を行う。
そこで、圧倒的に負けそうになるので、ラーナ姫を連れて逃げるという展開になる。
この数ターンの戦闘もカシム一人では持たないだろう。

俺は走りながら、後ろを振り向いた。
ジークが、【飛空艇】から出て来てその惨状を驚いた顔で見ていた。
髪は銀髪のロング。
イケメン高身長。

ジークは走り去る俺達を見つけた。
青い瞳に怒りの光が点っていた

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