主役にはなりたくない〜田中司(41歳)がやりこんだゲーム世界に転生した件について〜

もりし

第7話 卒業まで頑張るカシム(田中司)

「カシムとミィもあと少しで卒業だな」
店屋物てんやものを食卓で囲んで三人で夕食をすませた後、おじさんはそう言った。
「二人共、何か欲しいものはないか?卒業祝いにプレゼントしよう」
突然そう言われても戸惑う。この世界に転生して2日しか経ってない俺だ。
「カシム、欲しいゲームあるって言ってなかった?」
ミィがそう提案した。
「ゲームか……俺はそういうのに詳しくないんだが」
おじさんは顎に手を当てて考えている。
「ゲームはいりません」
俺は断った。カシムも俺もゲーム好きだが、この世界でそんな物を欲してたら詰んでしまう。
「おじさん、その有難い申し出なんですが、少し待ってもらえませんか?」
俺はもう少しタイタンソードマジックオンラインと同じか知らなければならなかった。
おじさんはペンダルトン商会の社長だ。レアなアイテムが、ここで手に入るならここは、慎重に吟味する必要があった。
「分かった、何か考えがあるんだな?」
「はい」
俺はおじさんの目を見てしっかりと答えた。
ミィが、そんな俺を信じられないモノを見たといった表情で見ていた。

◆◆◆◆

俺は卒業までの1ヶ月の内にこの世界の事を調べる事にした。
と言っても学生の身分でお金もない。やれる事は限られている。

まずは授業で必要な科目を厳選した。俺にとっては訳の分からない殆ど意味のない授業だが、卒業1ヶ月前にして、俺は先生に頼み込んで選択科目を変更してもらった。先生は苦い顔をしていたが、目の色を変えた俺を見て感じる事があったらしい。承諾してくれた。
俺は将来何をするかまだ決めてはいなかったが、ペンダルトン商会を継ぐかもしれないと、地域の産地品やら物価やらの事が分かる商業の科目を選択した。
それからこのゲームをやりこんだ田中司である俺には必要ないが、ゲームの設定と相違点が無いか調べるために魔法学と、剣術。武器学の授業を選択した。

暗くなるまで勉強している俺をいつもミィは待っていた。
「俺は遅くなるから、先に帰ってろよ」
と言っても聞かないのだ。
「頑張ってるカシムを置いていけないよ」
熱っぽく答えるミィだ。俺は毎日ミィを自宅まで送って、それから町を散策した。
ゲームと同じなら、【オーブ】が落ちているからだ。
【オーブ】は、タイタンソードマジックオンラインでは、攻撃魔法に必要なアイテムである。
魔法学では【オーブ】の事は教えてくれなかった。おそらく【オーブ】の存在は世界の人達には無いものとなっているのだろう。魔法学は生活魔法といって、ちょっとした火起こしや、水を生み出したり、体の汚れを取る浄化などの魔法しかなかった。
生活魔法は自身の魔力を消費して使うが、攻撃魔法は人間の魔力だけでは使えない。
そんな時に必要なのが、【オーブ】である。
透明な丸い石であるが、これがゲームの世界だと一つの町に1つ2つ落ちている。
もちろん、【レア・オーブ】は町には落ちていないが、初級の【オーブ】ならあるはずだ。
俺はあちこち探し回っていた。

◆◆◆◆

朝の登校で、相変わらずの三人組が絡んでくる。
その度に俺はミィとラブラブっぷりを見せつけていたのだが、その内の一人ビフに昼休みに呼び出された。
ビフは凶悪な面構えをしている上に身体もデカイので、校内では恐れられていた。

「噂があるんだが、お前、ミィと結婚するのか?」
「うん、卒業したら結婚する」
「マジか」
ビフはショックを受けていた。俺はそれでビフがミィを好きなんだと分かった。
「何でお前なんだ?頭も悪い!剣も弱い!何にも出来ねぇお前なんだ?!」
「……俺は変わる。結婚するんだから」
中身は田中司だから、既に変わっているんだが。
「変わらねぇよ!お前は!ガキの頃から知ってる。何にも努力しねぇ。行動力もねぇ。グダグタ文句だけは言う。ダメ人間なんだよ、根っからのな!」
なんだろうこいつは?前世の会社の上司の様なパワハラ感がある。
「もういいか?俺は忙しいから」
そう言ってその場を離れようとする。
「逃げるのか?腰抜けめ!」
何とでも言えよ。バカを相手する暇はない。
だが、午後の剣術の授業でビフとやり合う事になった。

◆◆◆◆

剣術の授業は対戦形式が基本である。
木剣を使って打ち合う。
カシムは弱く、ビフによく実験台と称してボコボコにやられていた。
ビフはニタリと残忍な表情をしている。恨まれる覚えはないが、男の嫉妬とはかくも醜いものだ。
「ビフ。一つ言っておくが俺は手加減しない。負けたら二度と俺とミィに関わるなよ」
そう言った俺にポカンとした表情のビフだ。
しかし面白い様に次々と顔色を変え、ついには真っ赤になって
「ふざけるな!」
と、叫んでビフは全力で俺に向かってきた。俺にとっては子供のお遊戯だ。ミィのおじさんの方がまし。欠伸が出る。俺はビフより早く剣をビフに振り下ろした。クリティカルラインをしっかりとなぞった。
俺も幾分かイライラしていた様だ。
手加減無用であった。ビフは額からビュービューと血を噴いていた。目玉がぐるりと白くなり倒れた。
「ビフ!大丈夫か?!……カシム!てめぇ!!」
ステーと、キースが目を剥いてカシムに喰ってかかる。
二人共、カシムを舐めていたので、信じられない光景を見せられて興奮して怒っていた。

俺は大袈裟にため息をついて、
「弱いのに意気がるからだろ?お前らも調子に乗るのも大概にしないと、お仕置きだぞ?」
俺は心底バカにしたように語る。へらへらしている俺の表情を見て、こいつらは、さぞ腹が立つ事だろう。

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