主役にはなりたくない〜田中司(41歳)がやりこんだゲーム世界に転生した件について〜

もりし

第5話 カシム(田中司)は挨拶に行く

放課後、俺はミィに連れられて彼女の自宅に向かった。ここギザトの街の成功者の自宅といった立派な作りだ。前世の俺では住めない豪邸だ。
カシムの記憶では何度も来ていた。小遣いの少ないカシムはミィに家庭用ゲームを買わせて度々たびたび遊びに来ていた。ミィはゲームに興味がないが、カシムがせがむので仕方なく買って、自分の部屋にカシムを招いていた。
男子学生が泣いて羨ましがる状況だが、カシムはただゲームがやりたいがためにミィを利用していた。
ミィはいつもの様にカシムを部屋に連れていく。
「お父さんはまだ帰って来てないから、私の部屋で過ごそう」
そう言ってお菓子やジュースを運んできた。
ミィに母親はいない。ミィが5歳の時に病気で亡くなっている。
「二人きりか……」
俺は思わせ振りな事を言った。ミィはクスッと笑って
「変なカシム。私の家に来たときは大体そうじゃない」
そうなのである。カシムはミィを女として見ていなかったので、何も起こらなかった。本当にゲームをやりに行き、お菓子やジュースをくれる奴として利用していただけである。
ミィの部屋は女の子っぽく可愛く綺麗にしていて、いい匂いがした。
近年、片付けられない女子っていうのが、テレビで特集されていたので、俺は女性の部屋に幻想を持たなくなったが、ミィの部屋は理想の女子部屋だ。

「どうしたの、カシム?キョロキョロして」
「いやぁ、可愛い部屋だなぁって」
クスッと笑うミィ。
「ホント変なカシム。いつも来てるじゃない」
ミィは自分の額を俺の額にピトッと当てて、
「熱でもあるのかな?」

本当に心配そうにするミィ。俺は間近に美少女の顔を見た。ほんの少し近づけば、唇に届きそうだ。ミィの息が俺の鼻をくすぐる。お互いの息がお互いの場所を行き来する。俺は自分の欲望がムクムクと上がってきたのを感じた。

「……試してみる?」
俺は何の脈絡もなくミィに尋ねた。
「え?何を?」
そのまま俺はミィの小さな肩を抱く。スッと後ろに倒す。ミィは抵抗する事なく背を床に付ける。俺はミィを押し倒している。
ミィは今まで見せた事のない顔をしていた。
不安と期待と女の顔を混ぜたような顔だ。
「お前が悪いんだぞ。可愛くするから……」
「カシム……」
性欲を抑えようと思っていたのに、これだ。
田中司(41歳)は枯れた男ではないのだ。
スッと顔を近づける俺に反応して、ミィは目を閉じた。

「ただいまぁ」
俺とミィは高速で離れた。玄関から父親の声がしたからだ。
バタバタ慌てて部屋のドアを開けてミィは
「パパ、おかえりなさい。カシム来てるよ」
と、焦った風に説明した。
「お、そうか?カシム、家で飯食ってくか?」
ひょこっと顔を覗かせてきた。
「はい。是非。それから、ラウルおじさんに大事な話があるんです」
俺はとっとと本題に入る事にした。
「そうか?ミィ、お茶出して。何だろうな。リビング行くか?」
「はい」
まさか娘さんを下さいなどと言われるとは思っていないだろう。

◆◆◆◆

カシムはミィの家に遊びに行った時は、晩飯までよばれる事が殆どだ。
ペンダルトン家の夕食はカシムの好きなメニューが出るからだ。といってもそれはミィが作るからである。ミィはカシムの好みを熟知していた。何度も言うが、そんなミィとの縁を切ろうとしていたカシムである。頭をはたいてやりたい。
まぁ、それは今の俺の頭なのだが。

おじさんはリビングでお茶を飲んでいる。

ラウル・ムレ・ペンダルトン。

それがおじさんの名前だ。カシムの父と同じで元冒険者である。
カシムは「ラウルおじさん」と呼んで慕っていた。

俺とミィは目を合わせて、頷く。お互いの意思を確かめた。
「お嬢さんを俺に下さい」
テンプレートな発言である。そして、
「ぶほっ!」
とお茶を吐いたおじさんもテンプレートな反応であった。
「げ、げほ!何を突然言い出すんだカシム?!冗談か?」
「いえ、冗談ではありません。俺はミィに卒業したら結婚しようとプロポーズしました。そしてミィはそれを受けました。だから後は親であるラウルおじさんの許可が欲しいのです」
「……!」
おじさんは心底驚いた表情をしていた。ちなみにおじさんと言っても、田中司である俺より年下である。まだ30代であるから年下。俺は見た目15歳の41歳だ。
腕組みして考えているおじさんは、しばらくそうしていた。
「パパ。私からもお願い。カシムの事好きなの。昔から」
俺はミィのその発言に驚いた。そう言えばミィの気持ちを聞いてなかったから。
「ミィ。お前の気持ちは知ってるよ。でもカシムはそんな素振りを見せてなかったから、俺も驚いているんだ」
それはそうだろう、カシムはそんな気は微塵も無かった。良く分かってらっしゃる。

「うむ……」
顎に手を当てておじさんは俺を見ていた。俺もおじさんを見た。嘘ではなくミィと真剣に家庭を築くつもりだった。
「カシム、ちょっと付き合ってくれ」
そう言うとおじさんは立ち上がる。

◆◆◆◆

ペンダルトン家の豪邸には地下がある。カシムも何度か入った事があるが、あいつは全く興味を示していない。

そこは道場である。ミィの父親は冒険者だったから、時折ここで運動がてら剣を振っているのだ。
おじさんは、壁に立て掛けてある木剣を手に取る。

「手合わせしないか?ミィに相応しい男か試させてくれ」
「パパ!カシムは……」
俺はミィのそんな言葉を遮る様に言った。

「分かりました。俺もやってみたいです」

タイタンソードマジックオンラインなら、やりこんでいる。
これがゲームの世界かどうか試してみる価値があった。

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