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以心伝心

うみかぜ

第三十九話 絶望から這い上がれ!

仁人は葵の部屋に上がり、お茶を飲み干してから
「匂います。これを着てください。」
と葵が服を渡してきた。仁人は無言でこれを着る。
二人は、数分黙っていた。
しばらくして、少しずつ我を取り戻した仁人は口を開けた。
「どうも。」
「いえいえ。」
と控えめにお礼を言った。
「葵さんはあまり変わってないんですね。」
6年経ったが2014年当初と、あまり変わってなかった。
「あら、それは褒め言葉ですか?当時19歳の私と変わらないと言われるのは、嬉しいです。」
今の話を聞く限りでは、葵はタイムリープをしていないということになる。
「葵さん……。みーさんって……。」
分かってはいるけど、確認をして起きたかった。もしかしたら、勘違いかもしれない。何かすごい事が起きているかもしれない。そんな少ない可能性にかけてみた。
「亡くなった……。」
「……。」
反応は予想通りだった。そんな上手い話なんてない。やるせない気持ちが残る。悔しい、辛い。そんな言葉では表せない感情が込み上げてくる。
「骨すら出てこなかったから、本当に亡くなってしまったのか……。誰も証明することはできなかったけど、警察は、亡くなったという事で処理されました……。」
「更には、犯人で出てこず、事故という事で処理されてしまいました……。」

涙をこぼしながら語ってくれた。
仁人もそうだが、葵とて由美の親友であり、かなり大切な人だ。辛いに決まっている。
「俺だけ……。ごめんなさい。葵さんは自分で気持ちを整理していたのに。」
葵はこうして、自分を持って生きている。一人じゃ何もできなかった仁人とは違う。
仁人がそう言うも、葵からは、信じられない返事が返ってきた。
「違うの。私は仁人君が必ず来る・・・・・・・・という事が分かっていたから待つことができた。」
意味がわからない。これではまるで
「未来予知でもしているみたいだ。」
「その通りなんです。」
「ええ!?」
葵は一度深呼吸をして、話を続けた。
「私、おばあちゃんっ子だったんです。ある日、私が小学校4年生の時に、おばあちゃんを亡くしました。突然の事で気持ちの整理がつかない中。突然、未来予知というものを見るようになりました。」
「それって……。」
「分かりません。あの時から急に見えるようになったんです。人を見ていると不定期でその人の未来が見えるんです。」
「世の中って難しすぎますね。」
と仁人は苦笑いで返した。
「そうなんですよね。仁人君が最後のバイトの時。分かれ道で、私は仁人君の未来予知を見ました。『美沙さんに襲われること。』『皆んなの事を助けに時間という概念を超えて私の前に現れること。』」
「それってつまり、あの時から俺が未来人だと分かっていたという事ですか?」
「そういう事です。でも、どうすればいいか分からず黙っていました……。」
にわかには信じがたい話だった。だが、陽奈に襲われた時、助けてくれたのは葵だった。さっきも途方に暮れた仁人に助け舟を出してくれたのが葵だ。仁人は頭を下げた。
「葵さん。本当にありがとう。葵さんがいなかったら俺死んでいたかもしれない。」
また、二人の目には涙が溢れた。誰にも止められない。それから、仁人は今まであった事を話し始めた。葵はそれを無言で聞き続けた。
「俺はあの時、2020/4/25に来た手紙を見て、『よしっ、絶対直也を助ける』と心に誓いました。だけど、いざ行動に起こすと自分の無力さを感じました。一人じゃ、何もできない。それどころか体調を崩し、みーさんに迷惑をかける。さらには直也を直接助ける事はできず、みーさんを亡くしてしまった。」
仁人は続ける。
「正直後悔だらけだけど、これでも、自分の全身全霊をぶつけました。これが正しい、自分のやってきた事は間違っちゃいないなと信じて、思い続けて、全部ぶつけました。だけど、それでも、無理でした……。」
仁人は脱力してさらに続けた。
「葵さん、俺はこの絶望の未来。こんな中、生きる希望なんて、俺には湧きません。正直このまま死にたい。」
「……。」
葵は黙っている。何故なら、仁人はまだ何か話そうとしていた。一旦胸に手を当てて、深呼吸をする。このまま話を続けていたら感情が高ぶりすぎて、どうにかなってしまいそうだった。数秒経ち、仁人は話を再開した。
「だけど、俺、ここで全て手放して終わりにしたら、来世も来来世も後悔すると思う!!!」
そういい蹲った。仁人は思いを、全て葵にぶつけた。
すると、葵は仁人の頭に手を当てた。よしよしと、小さい子を慰めるように撫でてくる。
そして、こう続けた。
「この世の中の『正解』なんて、誰も分からないと思うんです。あの時、この選択でよかったのかな?もっといい方法あったんじゃないかな?っていつも自分に質問しながら生きている人だって、沢山いると思うんです。」
仁人は顔を少しあげる。
「でも、仁人君は違いました。今まで自分のやってきた事は正しいと。自分がやってきた事は、間違ってなかったと。」
胸が苦しい。でも、いつもとその苦しさは違った。
「それって、すごく素敵な事だと思います。だから、」
葵はいつもの、あの満面の笑みでこう言った。
「自分を褒めてあげてください。」
仁人はとっくに崩壊している涙腺から、さらに大粒の涙を流した。
「間違ったっていい。誰かに協力してもらってもいい。そうして生き延びて来たのが人間だと思います。」
「っ……。葵さん。」
「ァァァァっ!!!!」
泣き崩れた仁人を葵が支え、お互い涙を拭った。
「だから、仁人君。私達に出来る事をしましょう。私が出来る事なら全て協力します。こうしてまた会えたのも何かの縁です。」
と仁人の手を握る葵。そして、こう続けた。
「実は、私が仁人君の予知をもう一つ見ています。」
葵も、涙をポロポロ流す。一度涙を拭いて、「ごめん!」と言って少し笑いながらこう言った。
「仁人君はタイムマシンを作るんですよ。」
仁人は「仁人君」とは誰なのか一瞬疑った。


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