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以心伝心

うみかぜ

第三十一話 散髪

【七月二十六日。】

仁人と由美は、いつも通り朝食を取っていた。
「結構髪伸びてない?」
言われて見ればそうだった。バイトをするにも、学校の校則で何か言われるにも、ギリギリのラインと言ったところ。
「確かにそうですね。でも、床屋嫌いなんですよ。」
「なんで?シャンプーとかしてもらうと気持ちいいじゃん。」
仁人は黙っている。何も応答をしない。
「え?もしかして、シャンプーをしてもらったことがない?」
「はいはい。そうですよ。」
仁人はいつも通りヤケクソに答えた。由美はクスクス笑っている。
「そうだったんだ。私が切ってあげようか?ついでにシャンプーも。」
すると、仁人は目の色を変え
「みーさん、いいんですか!?」
とちょっと過剰に乗り気できた。
「い、いいよ。そんなにやって欲しいとは思ってなかったから。」
今日は由美が引いている。珍しい事もあるものだ。
「本当に床屋が嫌いなので、有り難いです。」
「そんなに嫌いだったんだ。」
「以前、体調を崩したまま散髪に行って、それ以来トラウマです。」
「な、なるほど……。」
本当に余程トラウマだったらしい。
仁人と由美は散髪の準備を始めた。床に新聞紙を引いて、椅子をいつもの場所から少し端っこの方へ寄せ、新聞紙の上へ寄せた。
そして、仁人が座り、ケープを巻いてもらった。
「よく、ケープなんてありましたね。」
「これは昔、私が使ってたやつ。」
「通りで小さいわけですね。」
由美は引っ越しの際に、自分の物はほとんど持ってきたらしい。昨日の浴衣といい、まさかここで使う事になるとは思わなかっただろう。
由美は市販の、ハサミと櫛を持ってきた。少し髪を濡らしてから、髪を切っていく。実にスムーズ。
リズム良く、髪を切る音が聞こえる。
「上手いですね。誰かの髪切ってた事とかあったんですか?」
前に鏡があるわけではないが、その手際の良さが、上手さを物語っていた。
「言わなかった?私は天才だって。」
「そうでした……。でも、今それを言われると何かムカつきます。」
少し手を握らせて、仁人はイラついた。
「そう?なら、今仁人の髪の主導権を握っているのは私だし、変な髪型にしてもいい?」
「ごめんなさい……。」
いつも通りのやり取りだが、今回はわこれ以上ふざけると、本当に変な髪型にされそうなので、黙った。しかし、本当に上手かった。十〜一五分で切り終わってしまった。
「はい。できたよ。」
と、一旦由美はハサミと櫛を置いて、手持ちの鏡を二つ持ってきた。
「どう?」
と言われて見ると、全体にスッキリとして、爽やかになった仁人が鏡には写っていた。
「最高です。ありがとうございます。」
「いえいえ。」
仁人はケープを外し、髪を手で拾い、後は掃除機で吸い取った。
「じゃあ、お風呂場行ってて。」
と言われ、風呂場に向かった仁人。服を脱ぎ、タオルを巻き、風呂場の中の椅子に座った。少し、時間は経ち仁人は今の状況を整理した。
「あれ?これって結構まずくね?」
タオルを巻いているとは言え、仁人は真っ裸である。数ヶ月、同じ家に住んでいるとは言え、一緒に風呂に入った事はもちろんないし、それ以外でも何も男女の間違いは何も起きていない。だからこそ、何か恥ずかしいものがあった。
「シャンプーをして欲しいって言ったのは俺だし、腹をくくろう。」
と黙って目を瞑って由美が来るのを待った。
「はい、お待たせ。」
と由美はすぐにきた。
「じゃ、じゃあお願いします。」
「どうしたの?」
明らかに様子がおかしい仁人に、由美が疑問を投げかけた。この感じは恐らく分かっている程で話している。
「いえ、べ、別に……。」
「そう?」
と由美はニヤけている。仁人は由美と目線が合わないように鏡を見ないようにした。
由美はシャワーを持ち、仁人の髪を濡らしていく、ゆっくりと頭皮をマッサージするように洗っていく。これが本当に気持ち良かった。もはや、仁人の頭の中には自分が裸の事など忘れていた。そして、シャンプーを付けて洗っていく。
「気持ちいい?」
と由美に問われる。
「き、気持ちいいです。」
いつもとは違う低音の声で仁人は返した。
「変な声出さないの。」
「すいません……。」
その後も髪を洗っていく。そして、シャンプーを流し終えた。
「じゃあ、私出るから。」
と言って由美は風呂場を後にし、仁人は湯船に浸かった。
「明日は花火大会で、明後日が……。」
と小声で独り言を言った。その時、自分の手汗がよく感じられるくらい、手汗をかいていた。
「あんまり深く考えてもしょうがないな!」
と仁人は湯船から上がった。
その日は、のんびりしてすぐに時間が経ち、次の日を迎える。

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