以心伝心

うみかぜ

第三十話 わかれ道

仁人と葵の二人は、土手を後にし、帰路を歩く。
「そういえば、次の日曜日は山遠川花火大会ですね。」
「あー、もうそんな時期ですか。」
仁人には初耳だった。山遠川花火大会とか毎年、七月の最終日曜日に行われる山遠川付近の花火大会である。
確かに、この時期は毎年花火大会をやっていた気がする。次の日曜日というと、明後日。七月二十七日だ。
「仁人君は花火大会行きますか?」
「行きたいですね。」
「一緒に行きましょう!由美も誘って。」
「いいですね!」
そして、分かれ道。
「じゃあ、ここでひとまずお別れかな。」
「そうですね。」
葵とはバイトで知り合ったため、それ以外では会う機会はない。
「とりあえず、バイトとしては終わりなので、今まで、ありがとうございました。」
と仁人は告げた。
「こちらこそ!じゃあ、次の日曜日。うちのコンビニ前に18時で!」
そう言い。二人は別々の方向へ歩いた。
別れた時、仁人の後ろ姿を見ながら少し口を開けた葵だが。何も言うことはなかった。

仁人は道を、直進する。家に到着した。外は暑く、少し歩いただけでも汗が止まらない。
シャワー浴びて、休憩をしていると由美が帰宅した。
「ただいま。」
「おかえりなさい。」
仁人は話すタイミングを伺っていた。花火大会に誘いたい。しかし、
「何か話したい事でもあるの?」
「なんで分かったんですか?」
仁人の考えは由美にはお見通しらしい。
「えっと、次の日曜日にある花火大会、一緒に見に行きませんか?」
「いいよ。」
「ありがとうございます。」
あっさりOKを貰えた。
「花火大会か。ここ数年、前のうちからチラッと見る程度しかみてないかも。山遠川花火大会は見た事ないかな。」
由美は今年、この虹川町に引っ越してきたので、山遠川花火大会は見たことがないらしい。
「意外ですね。俺は毎年浴衣を着て見に行ってると思ってました。似合いそうですし。」
スタイル、容姿がいい由美には浴衣は似合いそうだ。
「私の浴衣姿、見たい?」
由美はそう上目遣いでこっちを見てくる。
「見たいです。」
素直に言うことにした。
「そう。じゃあ、昔使ってたのを着ようかな。」
「やった! 縁日もやるみたいですよ。」
と仁人は久しぶりにスマホをいじりながら、調べる。
「何か食べたいものはありますか?」
「無難に焼きそばとか綿菓子かなー。」
「奇遇ですね。俺もその辺が好きです。」
「なーんか、仁人と同じなのは嫌だな……。」
「酷い!傷つきました。」
「なんてね。冗談。」
ニコやかに返した。
「冗談に聞こえない時があるのでやめてください。」
花火大会まで後二日。海の事故まで後三日。

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