以心伝心

うみかぜ

第二十七話 運命なんて糞食らえ

七月十四日。
インターホンが鳴った。
時刻は十五時五十分。由美はまだ、大学なので仁人が出る。すると、見覚えのある顔だ。そこには、直也がいた。
一応、直也に関しては家にあげていいと由美に許可を得ていたため、部屋にあげた。
「おじゃまします。」
と少し、頭を下げて、部屋の中へと入っていく。なんとも真面目な姿。
リビングに着き、仁人が座るように促す。そして、仁人は直也の目の前に座った。
「なんかこうして面と向かうと緊張するな。」
「じゃあ、こっちきたらどう?」
と仁人に横に来るように促した直也。仁人は言われた通りに座る。
カタッ。という椅子を引いた音を最後に沈黙が続く。
年齢の差。本来は友達だが、似てるようで別の存在なので、二人とも戸惑いを隠せない。
「まあ。お茶でも飲むか。」
「う、うん。……」
と仁人は一回席を立ち、お茶をくみに行った。
二つくみ、一つ直也に渡す
「あざす。」
と言って直也は受け取り、数秒で飲み干した。
「喉渇いてたのか?」
「あー。うん。」
「もしかして、走ってきた?」
「うん。少しだけね。」
直也の額には少し汗が垂れている。それを仁人がハンカチで拭いてあげた。
「何かあったのか?」
「いや別に。」
「そうか……。」
会話終了という展開。気まずさが増す。そして、今度は直也から話し始めた。
「あ、あのね。本当に仁人から海に行こうって誘いが来たんだ。」
「そうか……。俺の経験した過去と変わりなしって事か。」
ここも自分が2014年にきた事で変わったりすると思ったが、全然そんな事はなかったらしい。
「それで断れた?」
ここで直也は沈黙する。また、汗をかいてきている。いや、これはさっきとは何か違う汗のように見える。そして、直也はゆっくり口を開いた。
「ごめん!仁人兄ちゃん!何もないっていうのは嘘なんだ……。あの、仁人がさ。夏休みを境に引っ越すって……。この虹川町から。」
「え!?」
初耳すぎる。自分の事なのに混乱した。
「お父さんの仕事の都合で引越すみたい……。」
2020年こそ両親は海外を飛び回っていて、日本にいないレベルだが、中学卒業までは仁人の両親は日本で仕事をしていた。それまでも引越しも数回していた……。だが、そのタイミングではなかった。
「時期がズレたって事か……。」
「一緒に入れたのが、短い期間で寂しいよ……。」
仁人がこの町に引っ越してきたのは小学4年生。たった、3年であった。
「そういえば、この町にきたのは小4の時だったな。あの時の直也には本当に感謝している。お前がいたおかげで何度救われたことやら……。」
仁人がこの町に引っ越してきて、学校のクラスに馴染める事ができなかった。そんな時に話しかけてくれたのが直也だった。『ぼっち』だった仁人に優しく声をかけてくれた。「一緒に遊ぼうぜ」と。
「僕は、仁人が絶対いいやつと思ったから話しかけただけだよ。」
「直也、本当お前はいい事いうな。さすが俺の友。」
話の区切りがついたように思えたが、まだ続きがあった。
「それでさ。僕、七月二十八日に仁人と海に行くことにしたんだ。」
「!?」
言ってる事が噛み合わない。しかし、直也にも道理があった。
「仁人は七月二十九日に引っ越すんだって。もっと早く教えてくれなかったのかな、って思ったんだけど、どうやら仁人のお父さんがギリギリまで普通に学校を楽しんで欲しかったから言わなかったみたい。」
「あの、おやじ……。だけど、日付は、ずらせられないのか!?事故にあうに日に行くのは危険すぎる。」
日付が変わるだけで、海の具合なんて全く違う。少しでも、事故の可能性は避けたい。
「学校は七月二十五日まであって、土日には僕の習い事の野球がある。だから、残りは七月二十八日のみ……。」
「そんな……。だけど、海じゃなくてもいいだろ?せめて場所を変えようよ……。」
そんな仁人の考えも直也は首を振って否定した。
「だって、僕たち二人で毎年、海に行くっていうのが夏の、風物詩じゃないか。僕たちが最初に遊びに行ったのも海。最後も海。僕は仁人の喜ぶ顔が見たいんだよ。もう、当分会えないかもしれない。だから、最後は僕たちの思い出の場所に行きたいんだ。」
目頭が熱くなる。仁人は感情が抑えきれなかった。
「命があればいつでも会える!だから、……。」
少し、声を上づりながら話す。
それから、仁人は何もいえなかった。仁人がこの町に引っ越してきて、初めて行った場所が海。直也と初めて遊んだ場所が海だった。あの、楽しかった思い出、今でも忘れない。あの事故が無ければ、毎年ずっと行っていたかもしれないくらいの場所だ。
冷静になり、仁人は少し考える。そして、導き出した答えは、
「分かった。海に行ってもいい。だけど、本当に余計な事はせずにちゃんとした場所で遊ぶんだ。一応俺たちも直也を影から見守るつもり。守れる?」
「もちろん。ありがとう。」
「さすが俺の友だ。」
「ごめん。本当にごめん。僕を助けるために未来から来てくれたのにわがままを言う結果になってしまって……。」
少し言葉を詰まらせながら話す直也。
「何言ってんだよ!直也は今、過去の俺のためにこうして動いてくれたんだ。それにわがままもクソもない。だから、行くからには思いっきり楽しんできて!」
少ししょげていた直也は顔を上げて
「分かった!」
仁人と約束を果たした。

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