ぜ、絶対にデレてやるもんか!
Lv.19 君だけを見つめて③
一途な恋に全力な人間は、いつも報われない。この世界は優しいどころか、理不尽で溢れている。ねぇ――香月。あたしの世界は何色?
                             ◆ ◆ ◆
  いよいよボランティアを明日に控えた金曜日。気づけば、玲奈と二人っきりで折り紙を折ったあの日からもう一週間が経過していた。
  思えば、最近は時の流れを早く感じてしまう。勿論、楽しさ故もあるかもしれないが、最も大きな原因は恐らく焦燥感から起因したものだろう。
  放課後になって、久し振りの二人での下校となった。告白を決心してから過度な意識に拍車がかかってしまい、今日まで適当な理由をつけて極力、玲奈と二人っきりにならないように善処していたのだった。
「……珍しい、今日はその用事とやらはいいわけ?」
  つっけんどんな態度だが、好意が裏付けされた唯の天邪鬼であると知った今では、思わず頬が緩んでしまいそうになる。怪訝な顔をする玲奈の前で必死に平静を取り繕って、言い訳を並べた。
「最近、何かと家の用事でバタバタしててな」
「へ〜……家の用事、ねぇ……」
  懐疑的な視線が送られてくる。何だか、浮気を問いつめられる恋人同士の会話みたいだな。心なしか、心が踊ってしまう。いやまぁ、浮気は厳禁だけど。
「ま、あたしには別に関係ないけど」
  要約すると、(あんたのこと、何でも気になっちゃうとかそんなんじゃないし!)って感じか。結局、物凄く気になってるんだろうな。さっきから、チラチラ一瞥を繰り返してるし。
  しかし、こうも一途に可愛いとこっちが調子を狂わされる。全く、自分の天使さ加減にもう少し自覚を持って欲しいものだ。
「それで明日はどうするわけ?」
「取り敢えず、園児に舐められないようにしっかり教育してやらんとな」
「あんたそれ、一発退場よ」
「そうだよなぁ、そこが問題なんだ。変人の俺を先生が偏見の目で見ないか心配だ」
「変人に偏見もくそもないでしょ」 
「こらこら、女の子がそんな汚い言葉使うんじゃありません」 
  思えば、他の同級生女子に比べて言葉遣いが些か乱暴なような気がする。もしや、近頃の女子高生は皆、裏では清楚の対極にあるのだろうか。それは大いに困る。全世界の童貞高校生が抱いた理想の花園を真っ向からぶち壊すような真似は俺が許さん。地球代表として、反旗を翻してやる。
「女の子は本当に好きな人にはありのままの自分を見せるもんなの!」
「え……?」
「ち、違っ……今のはそういうんじゃなくて」
「おおお俺は分かってるぞ、あくまで一般論だよな。てか、お前の常日頃からありのままだしな!」
  普段は冗談で取り繕えたはずが、大事な時に限って上手いネタが思いつかない。不意にデジャヴを感じる。あれ? 不意打ちに弱い俺っていつもこんな情けない感じだったかも……?
「って、そんなんじゃなくて、明日のこと!」
「園児のトリセツを一緒に考えようって話か」
「何であたしも巻き込まれてんのよ……ってそうじゃなくて!」
  玲奈は気恥しそうにモジモジし始めた。トイレ我慢してんのか? なんて地雷は今更踏まない。俺だって、日々学習しているのだ。
「だからその、待ち合わせ……」
「…………へ?」
 
  完全に虚を突かれてしまった。
  最近、あなた素直になりすぎじゃありませんかねぇ。もっと天邪鬼な感じで来られないと俺も調子が狂わされるんだけど。 
  いやでも、確かにどう誘おうかずっと逡巡してたわけだけど、まさか初めから一緒に行く前提ですか。女子は待ち合わせを大切にするってよく聞くけど、玲奈も案外陳腐な恋愛に羨望の念を抱いていたんだな。
「お、おう。そうだな……」
  ボランティアに出向く幼稚園は学校の最寄り駅から二駅だから、待ち合わせ場所はそこで問題ないだろうけど、遊びに行くわけではないから、遅刻なんてすれば高校生として立つ瀬がない。
  しかし、不意打ちなんてずるいやつだ。おかげで、夜寝る時間から起床して外出準備を整え、余裕を持って三十分前に駅に到着する完璧なシュミレートを即座に脳内構築してしまった。
「まぁ細かいことは、メッセでいいんじゃね?」
「……そ、そうかも。じゃあ、その話は一旦保留っ!」
  そこで妙な間を残して、会話が途切れてしまった。気まずい……最寄り駅は学校から徒歩十分くらいなのに、果てしなく遠く感じてしまう。
  一体、いつもこの時間をどう潰してきたのだろうか。ああそうか、『デレた方が負け』ゲームか。我ながら、何提案してんだよ俺は。
それから、玲奈と駅の改札で別れるまでえも言われぬ空気が二人の間に漂っていた。
                             ◆ ◆ ◆ 
  入浴後に自室でぼーっとしていると、俄にスマホの通知が鳴った。ちょっぴり期待してスマホを手に取ったけれど、香月からのメッセではなかった。
  分かりやすく落胆するあたし。夏祭りのキスからもう一ヶ月が過ぎたけれど、あの日以来こうして自室でぼーっと考え込むことが増えた。
  それというのも、最近懸念事項が現出したのだ。最近の香月は明らかに様子がおかしい。これまでは『デレた方が負け』ゲームが冷静に状況を鑑みる抑止力となっていた所為か、自ずと二人で帰る流れとなっていた。
  でも、最近の香月は何かと用事があると言って先に帰ってしまう。家の用事と言われちゃったら、あたしだって返答に窮してしまう。その時のあたしは、本当の理由を知りたいという欲望と香月のプライバシーに踏み込む恐怖が綯い交ぜになっていた。
  でも、もうそんな余計な懸念は必要ない。だって、香月があたしを避ける原因を突き止めてしまったから。数日前、暇を持て余してモールの方まで足を運んだ時、偶然通りかかったカフェの硝子窓の奥に楽しげに談笑する香月と赤崎さんを目撃してしまった。
  つまり、最近香月が不自然にあたしを避けていたのは《《そういうことだったのだ》》。今は少し落ち着いたけれど、中睦まじげな二人を目の当たりにした瞬間は、胸の内で辛うじて保たれていた何かが徐に瓦解していく音が聞こえた。
  だから、今日一緒に帰ろうと言われた時は心底驚いた。赤崎さんを差し置いてあたしと帰ったら勘違いされちゃうよ? それでもいいの? 良心があたしを諭した。
  でも、折角誘ってくれたんだし無碍に断るなんて印象悪いよ。別に一緒に下校するくらい構わないでしょ。あたしの姿を象った悪魔が囁いた。
  結果的に、あたしは後者を選んだ。香月には悟られないように普段より明るく振舞った。照れくさくてちょっと失敗もしたけれど、素直な子を演じられた。
  ごめんね、赤崎さん。明日で最後だから。明日で全部、終わりにする。だから、あたしの無礼を許してね……。
                             ◆ ◆ ◆
  いよいよボランティアを明日に控えた金曜日。気づけば、玲奈と二人っきりで折り紙を折ったあの日からもう一週間が経過していた。
  思えば、最近は時の流れを早く感じてしまう。勿論、楽しさ故もあるかもしれないが、最も大きな原因は恐らく焦燥感から起因したものだろう。
  放課後になって、久し振りの二人での下校となった。告白を決心してから過度な意識に拍車がかかってしまい、今日まで適当な理由をつけて極力、玲奈と二人っきりにならないように善処していたのだった。
「……珍しい、今日はその用事とやらはいいわけ?」
  つっけんどんな態度だが、好意が裏付けされた唯の天邪鬼であると知った今では、思わず頬が緩んでしまいそうになる。怪訝な顔をする玲奈の前で必死に平静を取り繕って、言い訳を並べた。
「最近、何かと家の用事でバタバタしててな」
「へ〜……家の用事、ねぇ……」
  懐疑的な視線が送られてくる。何だか、浮気を問いつめられる恋人同士の会話みたいだな。心なしか、心が踊ってしまう。いやまぁ、浮気は厳禁だけど。
「ま、あたしには別に関係ないけど」
  要約すると、(あんたのこと、何でも気になっちゃうとかそんなんじゃないし!)って感じか。結局、物凄く気になってるんだろうな。さっきから、チラチラ一瞥を繰り返してるし。
  しかし、こうも一途に可愛いとこっちが調子を狂わされる。全く、自分の天使さ加減にもう少し自覚を持って欲しいものだ。
「それで明日はどうするわけ?」
「取り敢えず、園児に舐められないようにしっかり教育してやらんとな」
「あんたそれ、一発退場よ」
「そうだよなぁ、そこが問題なんだ。変人の俺を先生が偏見の目で見ないか心配だ」
「変人に偏見もくそもないでしょ」 
「こらこら、女の子がそんな汚い言葉使うんじゃありません」 
  思えば、他の同級生女子に比べて言葉遣いが些か乱暴なような気がする。もしや、近頃の女子高生は皆、裏では清楚の対極にあるのだろうか。それは大いに困る。全世界の童貞高校生が抱いた理想の花園を真っ向からぶち壊すような真似は俺が許さん。地球代表として、反旗を翻してやる。
「女の子は本当に好きな人にはありのままの自分を見せるもんなの!」
「え……?」
「ち、違っ……今のはそういうんじゃなくて」
「おおお俺は分かってるぞ、あくまで一般論だよな。てか、お前の常日頃からありのままだしな!」
  普段は冗談で取り繕えたはずが、大事な時に限って上手いネタが思いつかない。不意にデジャヴを感じる。あれ? 不意打ちに弱い俺っていつもこんな情けない感じだったかも……?
「って、そんなんじゃなくて、明日のこと!」
「園児のトリセツを一緒に考えようって話か」
「何であたしも巻き込まれてんのよ……ってそうじゃなくて!」
  玲奈は気恥しそうにモジモジし始めた。トイレ我慢してんのか? なんて地雷は今更踏まない。俺だって、日々学習しているのだ。
「だからその、待ち合わせ……」
「…………へ?」
 
  完全に虚を突かれてしまった。
  最近、あなた素直になりすぎじゃありませんかねぇ。もっと天邪鬼な感じで来られないと俺も調子が狂わされるんだけど。 
  いやでも、確かにどう誘おうかずっと逡巡してたわけだけど、まさか初めから一緒に行く前提ですか。女子は待ち合わせを大切にするってよく聞くけど、玲奈も案外陳腐な恋愛に羨望の念を抱いていたんだな。
「お、おう。そうだな……」
  ボランティアに出向く幼稚園は学校の最寄り駅から二駅だから、待ち合わせ場所はそこで問題ないだろうけど、遊びに行くわけではないから、遅刻なんてすれば高校生として立つ瀬がない。
  しかし、不意打ちなんてずるいやつだ。おかげで、夜寝る時間から起床して外出準備を整え、余裕を持って三十分前に駅に到着する完璧なシュミレートを即座に脳内構築してしまった。
「まぁ細かいことは、メッセでいいんじゃね?」
「……そ、そうかも。じゃあ、その話は一旦保留っ!」
  そこで妙な間を残して、会話が途切れてしまった。気まずい……最寄り駅は学校から徒歩十分くらいなのに、果てしなく遠く感じてしまう。
  一体、いつもこの時間をどう潰してきたのだろうか。ああそうか、『デレた方が負け』ゲームか。我ながら、何提案してんだよ俺は。
それから、玲奈と駅の改札で別れるまでえも言われぬ空気が二人の間に漂っていた。
                             ◆ ◆ ◆ 
  入浴後に自室でぼーっとしていると、俄にスマホの通知が鳴った。ちょっぴり期待してスマホを手に取ったけれど、香月からのメッセではなかった。
  分かりやすく落胆するあたし。夏祭りのキスからもう一ヶ月が過ぎたけれど、あの日以来こうして自室でぼーっと考え込むことが増えた。
  それというのも、最近懸念事項が現出したのだ。最近の香月は明らかに様子がおかしい。これまでは『デレた方が負け』ゲームが冷静に状況を鑑みる抑止力となっていた所為か、自ずと二人で帰る流れとなっていた。
  でも、最近の香月は何かと用事があると言って先に帰ってしまう。家の用事と言われちゃったら、あたしだって返答に窮してしまう。その時のあたしは、本当の理由を知りたいという欲望と香月のプライバシーに踏み込む恐怖が綯い交ぜになっていた。
  でも、もうそんな余計な懸念は必要ない。だって、香月があたしを避ける原因を突き止めてしまったから。数日前、暇を持て余してモールの方まで足を運んだ時、偶然通りかかったカフェの硝子窓の奥に楽しげに談笑する香月と赤崎さんを目撃してしまった。
  つまり、最近香月が不自然にあたしを避けていたのは《《そういうことだったのだ》》。今は少し落ち着いたけれど、中睦まじげな二人を目の当たりにした瞬間は、胸の内で辛うじて保たれていた何かが徐に瓦解していく音が聞こえた。
  だから、今日一緒に帰ろうと言われた時は心底驚いた。赤崎さんを差し置いてあたしと帰ったら勘違いされちゃうよ? それでもいいの? 良心があたしを諭した。
  でも、折角誘ってくれたんだし無碍に断るなんて印象悪いよ。別に一緒に下校するくらい構わないでしょ。あたしの姿を象った悪魔が囁いた。
  結果的に、あたしは後者を選んだ。香月には悟られないように普段より明るく振舞った。照れくさくてちょっと失敗もしたけれど、素直な子を演じられた。
  ごめんね、赤崎さん。明日で最後だから。明日で全部、終わりにする。だから、あたしの無礼を許してね……。
「学園」の人気作品
書籍化作品
-
-
1359
-
-
70810
-
-
63
-
-
17
-
-
4
-
-
1168
-
-
549
-
-
3087
-
-
841
コメント