銀眼貫餮のソウルベット -Pupa cuius oblitus est mundus-
第69話 系統分岐
某所。暗室。明りが乏しく薄暗い。しかし、それでいて一切の淀みがなく雑多な音さえ何一つない静寂がある。
その閉塞された暗闇の中、一つの影がねっとりと口を開く。
「今回もただの気晴らし。有限な時間も***もただの徒労になると思うんだけどねえ。まあ、それも。今の私にとってはどうとでもなる。どうにでもできちゃう瑣末なものなんだけど。ふーむ。それじゃあ、結果を見せてもらおうかな? ***ギア。報告」
わずかな嫌忌と何かを蔑むような声が宙空にそう問いかけた。
するとその暗闇の何処からともなく別の何かが、影の問いに合理的に応えてゆく。
「報告。***体***結果。損傷部より検出。未登録外来性発熱原。抽出***照合。該当***、なし」
「ほほう。これは興味深い結果だねえ。ライブラリーには全ての***が記録されているんだよ? だと言うのに一つも該当がないと言うのかい? そもそもが***体のバグかと考えていたんだけどねえ。オカシイねえ、***プロトコルにエラーでもあったのかなあ? 近代、いや今や古代と言った方が適切だね。使い古されて最早化石化したものを気まぐれに改良を繰り返してはみたけど、さすがに今更何があると言うこともないだろうしね」
抑揚もなければ生気も感じない。頭上から響く無機質な返答に皮肉を込めて不満を漏らす。影は煩わしいと言わんばかりに肩を落とし、溜息混じりに続けて問いを重ねる。
「***ギア。***再確認」
「受諾。サンプル***シーケンス。***再実行。……報告。未登録外来性発熱原。抽出***照合。該当***、なし」
依然として合理性にノイズはない。
しかし、その代わりに影に揺らぎが見て取れる。それまでどこかひょうひょうとした声はわずかに沈み重くなり、言葉の合間に何かを噛じるような堅い音が響きはじめた。
「ふーむ。まあ当然だねえ。私の記録が確かなら……、そう確か、ケース1000オーバーから目だったイレギュラーはなかったはずだからねえ。ギチッ。それにまだ肝心のアレの途中だったんだよ。だから早く問題の原因を潰して終りにしてしまいたいんだけどねえ……。ガギギッ。それじゃあ、***ギア。検証プロトコル、***プロセスに照準再設定。最終生産物、***及び***コンディション確認」
「受諾。照準再設定、完了。***及び***コンディション確認。……報告。全1E+12 well:異常なし」
「ギチッ、ハズレかあ。参ったねえ。まあ、調べるまでもなかったからねえ。ギチチッ。そんな分かりやすい要因を私が見落とすはずがないからねえ。ガギッ」
一際大きな破砕音が響く。それが部屋の奥へと反響することなく消え失せるまでわずかな沈黙が流れる。
薄暗い闇の中をまるで何重もの熟考が競合し統合され、更に分岐し錯綜するように影は左へ右へ彷徨い続けた。そうしてある一点に留まると重たく垂れた頭を上げ再度口を開く。
「んーとなると、まだ上部レイヤーのプロトコルを調べてみる必要があるということかなあ? ほほう……。これは少し、ほんの微々たる程度だけど興が乗って来たねえ。シシシッ」
多岐にわたる構想、演算。幾度もの試行、失敗、改良、挫折。世界、そして自我さえも薄れ消えゆくほど気の遠くなる私怨の結晶。コンマのずれなど断じて許されない完璧な工程。
それ故に承認しかねる事象。それはつまり対極を定言するならば、正真正銘の未知との遭遇。
完璧な理想形を脅かされ、反発する声にも熱が帯びる。
「***ギア。検証プロトコル、***光色***・***プロセス、及び***、***プロセスに多重照準再設定。最終生産物、各***及び、サンプル***損傷***残留率。確認」
「受諾。多重照準再設定、完了。……報告。***残留率ゼロ‰。同、***誤認識・***によるイレギュラー***含有率ゼロ‰。尚、 各‱変動なし」
一次、自身の落ち度を認め問題の一斉排除に試みる。
依頼主の感情に呼応するかのように、迅速かつ不備なく無機質な単語の羅列が実行された。どうやら恥を忍んだ甲斐はあったようだ。
「ほほう。ほう、ほう、ほう! つまるところ、こういうことかなあ? ここまでのプロトコルには何ら問題は見当たらないと? あくまで当初の報告が正であると? よって、これは明らかな***? いやいやまさか。もしかして、***ギアの故障? もうメンテが必要なのかい?」
「自立回答。中枢器官、全端枝器官、及び各種回路。全て正常。想定***時間――」
「ああ、いいよ。いいよ。今のは冗談だからねえ。フギッ、ギシシシシッ! 私がここを管理してずいぶん久しいけど、実に興味深いじゃないか! 君もそう思うだろ? シシシッ。幾星霜の時間が流れ、まさか一個体として新たな***の***、あるいは***をこの老眼で目の当りにすることができるという素晴らしい発見だからねえ! この後の***が楽しみじゃないかあ! ギッシッシッシッシッ!!」
不敵で無邪気で独特な、そして少しの狂気をその目に宿し、その影は暗闇の奥へと吸い込まれていった。
その閉塞された暗闇の中、一つの影がねっとりと口を開く。
「今回もただの気晴らし。有限な時間も***もただの徒労になると思うんだけどねえ。まあ、それも。今の私にとってはどうとでもなる。どうにでもできちゃう瑣末なものなんだけど。ふーむ。それじゃあ、結果を見せてもらおうかな? ***ギア。報告」
わずかな嫌忌と何かを蔑むような声が宙空にそう問いかけた。
するとその暗闇の何処からともなく別の何かが、影の問いに合理的に応えてゆく。
「報告。***体***結果。損傷部より検出。未登録外来性発熱原。抽出***照合。該当***、なし」
「ほほう。これは興味深い結果だねえ。ライブラリーには全ての***が記録されているんだよ? だと言うのに一つも該当がないと言うのかい? そもそもが***体のバグかと考えていたんだけどねえ。オカシイねえ、***プロトコルにエラーでもあったのかなあ? 近代、いや今や古代と言った方が適切だね。使い古されて最早化石化したものを気まぐれに改良を繰り返してはみたけど、さすがに今更何があると言うこともないだろうしね」
抑揚もなければ生気も感じない。頭上から響く無機質な返答に皮肉を込めて不満を漏らす。影は煩わしいと言わんばかりに肩を落とし、溜息混じりに続けて問いを重ねる。
「***ギア。***再確認」
「受諾。サンプル***シーケンス。***再実行。……報告。未登録外来性発熱原。抽出***照合。該当***、なし」
依然として合理性にノイズはない。
しかし、その代わりに影に揺らぎが見て取れる。それまでどこかひょうひょうとした声はわずかに沈み重くなり、言葉の合間に何かを噛じるような堅い音が響きはじめた。
「ふーむ。まあ当然だねえ。私の記録が確かなら……、そう確か、ケース1000オーバーから目だったイレギュラーはなかったはずだからねえ。ギチッ。それにまだ肝心のアレの途中だったんだよ。だから早く問題の原因を潰して終りにしてしまいたいんだけどねえ……。ガギギッ。それじゃあ、***ギア。検証プロトコル、***プロセスに照準再設定。最終生産物、***及び***コンディション確認」
「受諾。照準再設定、完了。***及び***コンディション確認。……報告。全1E+12 well:異常なし」
「ギチッ、ハズレかあ。参ったねえ。まあ、調べるまでもなかったからねえ。ギチチッ。そんな分かりやすい要因を私が見落とすはずがないからねえ。ガギッ」
一際大きな破砕音が響く。それが部屋の奥へと反響することなく消え失せるまでわずかな沈黙が流れる。
薄暗い闇の中をまるで何重もの熟考が競合し統合され、更に分岐し錯綜するように影は左へ右へ彷徨い続けた。そうしてある一点に留まると重たく垂れた頭を上げ再度口を開く。
「んーとなると、まだ上部レイヤーのプロトコルを調べてみる必要があるということかなあ? ほほう……。これは少し、ほんの微々たる程度だけど興が乗って来たねえ。シシシッ」
多岐にわたる構想、演算。幾度もの試行、失敗、改良、挫折。世界、そして自我さえも薄れ消えゆくほど気の遠くなる私怨の結晶。コンマのずれなど断じて許されない完璧な工程。
それ故に承認しかねる事象。それはつまり対極を定言するならば、正真正銘の未知との遭遇。
完璧な理想形を脅かされ、反発する声にも熱が帯びる。
「***ギア。検証プロトコル、***光色***・***プロセス、及び***、***プロセスに多重照準再設定。最終生産物、各***及び、サンプル***損傷***残留率。確認」
「受諾。多重照準再設定、完了。……報告。***残留率ゼロ‰。同、***誤認識・***によるイレギュラー***含有率ゼロ‰。尚、 各‱変動なし」
一次、自身の落ち度を認め問題の一斉排除に試みる。
依頼主の感情に呼応するかのように、迅速かつ不備なく無機質な単語の羅列が実行された。どうやら恥を忍んだ甲斐はあったようだ。
「ほほう。ほう、ほう、ほう! つまるところ、こういうことかなあ? ここまでのプロトコルには何ら問題は見当たらないと? あくまで当初の報告が正であると? よって、これは明らかな***? いやいやまさか。もしかして、***ギアの故障? もうメンテが必要なのかい?」
「自立回答。中枢器官、全端枝器官、及び各種回路。全て正常。想定***時間――」
「ああ、いいよ。いいよ。今のは冗談だからねえ。フギッ、ギシシシシッ! 私がここを管理してずいぶん久しいけど、実に興味深いじゃないか! 君もそう思うだろ? シシシッ。幾星霜の時間が流れ、まさか一個体として新たな***の***、あるいは***をこの老眼で目の当りにすることができるという素晴らしい発見だからねえ! この後の***が楽しみじゃないかあ! ギッシッシッシッシッ!!」
不敵で無邪気で独特な、そして少しの狂気をその目に宿し、その影は暗闇の奥へと吸い込まれていった。
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