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カレーなる異世界ライフ!!

スーパー野菜人

第16話 冒険者たち 1

正午に差し掛かった頃合い、ざわざわと多くの人の賑わう市場に私とルーリ、それとアイサの3人で遊びに来ていた。

今日はルーリが食堂に来てからは初めての休日。

まだ町の地理には疎さの残るルーリに色々と案内をしてあげるということを建前にして、古着を集めて出しているテントや甘味を売っているところをハシゴしている。

前の世界で言うところのウィンドウショッピング、カフェ巡りというやつだ。

「これ、美味しい……!!」

そう言って目をキラキラとさせてアイスクリーム付き野イチゴシャーベットを見つめるのは、太陽に銀の髪を眩く輝かせる美幼女のルーリだ。

今日も魔族であることの象徴ともいえる山羊に似た角はロウネさんお手製の頭巾に隠されているが、それはもはや違和感なく1つのチャームポイントと化していた。

甘いデザートに顔を綻ばせるルーリに市場のあちこちから男女問わずに見惚れた視線が飛ばされる。

「あれはゴートンさんとこの看板娘か、今日も可愛いなぁ」
「可愛いぃ~! ほっこりするぅ~!!」
「あぁルーリさん……好きだぁっ!!」

すれ違う人たちは口々にルーリを褒めちぎる(なんか一部告白もあった気がする……)がルーリは気付いているのかいないのか、パクパクとシャーベットにご執心だ。

「次はどこへ行こっか?」

「そうだなぁ、市場はもうずいぶんと回ったし、ラクシャさんとこの果汁水エードでも買って西の高台まで行ってみる?」

町の風景を一望できる小高い丘の上の休憩スポットを進めたのはアイサ。

今日は冒険者見習いとしての仕事も休みだというのに腰には愛用の剣をぶら下げたままだ。

確かにもう随分と歩き回っている気がするし、この辺りで休憩を入れるのがちょうどいいかもしれない。

「私は賛成。ルーリもそれで大丈夫?」

「うん!」

異論がなかったので、まずは果汁とハーブエキスなどを冷水で薄めた飲み物である果汁水エードを買いにテントへと向かう。

そうして今日は何味の果汁水を飲もうかと楽しみに歩いているところだった。

急にアイサが立ち止まり、横の市場の入り口方面へ顔を向ける。

その後ろを歩いていた私は危うくアイサの背中へとぶつかりそうになって慌てて足を止めた。

「おっと、危ないなぁ……急にどうしたの?」

「いや、何か入り口の方の様子がおかしいような気がしてさ……」

私はアイサと同じ方に顔を向けるが、しかし変わったものは何も見えない。

勘違いじゃないのかと言おうとした時、しかし小さなどよめきのような声がいくつか重なるようにして、市場の入り口側の人々から広がってきているのに気が付いた。

「何だろう……?」

やがて人混みを割って現れたのは町では一度も見かけたことのない、ただならぬ風貌の5人の男女。

そのうちの4人を占める男はその全員が鍛え上げられた体つきをしており、それぞれが腰や背中に武器を携えている。

その後ろに守られるようにして歩いている女はマントの下から手を出して、紫色の魔法陣のような光の図を空中に漂わせていた。

「――ビンゴよ」

マントの女がそう口にすると、明らかに普通のいで立ちではないその5人組は私たちから数メートル離れた地点で足を止め――睨みつけるような視線をこちらに向けた。

それは荒くれだった暴力の気配を如実に感じさせるもので、周りの人々が波が引くように一斉に距離をとった。

「おいおい。昼間っから、それもこんなに人気の多い場所に外出なんてのは良いご身分だよなァ」

5人組の1番前に立った剣を腰に下げているスキンヘッドの剣士は、明らかに私たちに向けて低い声を出した。

面識もなければ何の心当たりもないその剣士の言葉に戸惑った私は、どうしようという気持ちを込めて横に立つアイサの方を向き、また息を飲む。

アイサは普段の明るさからは想像がつかないような、ひどく鋭い険のある視線を正面の5人組へと向けていた。

そしてルーリは――私とアイサの真ん中を歩いていたはずのルーリは、いつの間にか私の背中の陰へとその姿を隠すようにしがみついて立っていた。

背中から細かい震えが身体に伝わってくる。

「――まさかっ……」

アイサの目つきに表れている、恐らく警戒や怒りの感情。

そしてルーリの怯えたような態度。

その様子を見てようやく、私は目の前の剣呑な雰囲気を放つ5人が何者なのかということに考えが及んだ。

しかし、私が続けて言葉を漏らしてしまいそうになるのを遮ったのは、私たちを後ろに庇うように前に歩み出たアイサだった。

「――こんにちは。この町、セテニールへようこそ。恐らく冒険者の方々だとお見受けします。失礼ながらお聞きしたいのですが、この町にどういったご用件でしょうか?」

「……あァ?」

自分の言葉が無かったこととして受け流されたことへの苛立ちか、剣士がアイサを睨みつけた。

「お前は何なんだよ」

「私はこの町で冒険者見習いとして働かせていただいている、アイサ・ゼーベルグと申します」

「冒険者、見習いだァ~?」

「はい。この町に訪れる冒険者の方々の案内役も何度か経験しています。こちらへはお仕事でお越しでしょうか? そうでしたら、その仕事内容をご確認させていただきたいので、先に町役場へとご案内したいのですが」

突然のアイサの行動に呆気に取られそうになった私だったが、しかし後ろで私の服を掴むルーリから伝わる震えに、その行動の理由が分かった。

(――これはきっと、時間稼ぎだ)

ルーリの反応から見てもまず間違いなく目の前の冒険者たちこそ、つい数日前にルーリへ大きな怪我を負わせた当人たちだろう。

多分、あの中のマントの人が出していた光の紋様は何かの魔法で、ルーリの場所を突き止めるためのものだったに違いない。

アイサは咄嗟にそれを理解して冒険者をこの場から引き離そうとしているのだ。

そこまで考えることができた私はルーリの手を握り締めると、静かにその場から離れようと1歩足を後ろに下げる。

――しかし。

「――動くなッ!!」

剣士が怒声を響かせると同時に、目の前の冒険者はそれぞれの武器を抜き放ちこちらへと向けた。

「――なっ!!」

普段穏やかな市場にはまったく似つかわしくない金属の擦れる音と荒事の気配に、周囲の人々は悲鳴を上げて散らばるように逃げていく。

そして市場の真ん中にはポツリと、冒険者5人組と私たち3人だけが取り残されてしまった。

「なっ、何を考えているんですか!! こんな人の多い場所で武器を抜くなんて!!」

アイサが声を張り上げるも冒険者たちは鼻を鳴らして無視して、その奥の私たちに視線を投げる。

「もうお前らの後ろにいるのは分かってんだよ――魔族の嬢ちゃん」

そう言うとそのまま冒険者たちは隙なく武器を構えて、統制のとれた動きでそれぞれの間隔を乱すことなくこちらへと近づいてくる。

「ま――待ってください!」

「あァ?」

咄嗟に私は声を張り上げた。

そんな私へと振りむいて「喋るな」と首を横に振ることで伝えてくるアイサだったが、しかしこれ以上誤魔化し切れるとは思えなかった。

「この子は人に危害を加えるような子じゃない! だから――」

「討伐をやめろって?」

「――そうです」

私の言葉に正面の剣士は可笑しなものでも見るような顔をして構えをほどくと、

「ふふふ……ふはははははっ!!」

自分の仲間たちを振り返って大声を上げて笑う。

つられたようにその仲間たちからも、同じような嘲笑が上がった。

「な、何を笑って――」

「何をじゃねぇよ、バァーカ!! 魅了チャームでもかけられてんのかァッ!? そうじゃなきゃ真正のアホンダラだぜテメェはよ!!」

ドスの利いたその声に一瞬、たじろぐ。しかし、雰囲気に飲まれまいと必死に声を絞り出す。

「わ、私はそんなのかけられてない!! それに少し話せばあの子が人を襲うような子じゃないってことは分かる!!」

しかしそんな反論もまるで意に介さないように、剣士は鼻で笑った。

「だからお前はアホだってんだ」

「それはどういう――」

問いかけて、途中で言葉が詰まる。

剣士とその後ろの仲間たちの目の色と表情は、明らかにルーリを正面からとらえるものではない。

「その魔族がどんなヤツか、そんな事はどうだっていいんだよ! 人を傷つけることを躊躇う魔族の子供ガキだぜ……!? こんなにチョロく武功を上げられる材料が他のどこにあるってんだよ!?」

「――っ!!」

(――ひどいッ!!)

この人たちの思考は、あまりにも曲がっている。

彼らの目には恐怖に震える1人の少女なんて映っておらず、その先の利益しか眼中にないのだ。

私には、その5人の浮かべる笑みがまるで人間らしからぬものに見える。

――悪魔。

人はここまで残酷になれるのだと知って、背中を立ち昇る怖気に血が冷える感覚に襲われる。

「魔族を狩ったことを証明すれば俺たちはたちまち高等冒険者さ! 町の近郊の大型魔獣をいくら狩ったって辿り着けないその域に、一瞬で行けるファスト・パスが目の前に転がっている! これに手を伸ばさない馬鹿がどこにいる!!」

「冒険者全体の20%しかいない高等冒険者になれりゃ、俺らは組合で一目置かれる存在になるんだぜ!」

「あら、それだけじゃないわ、収入だって段違いよ! 人類にとって最大の敵であるその忌々しい魔族1匹の首で、私たち5人の人生がより豊かになるのよ!」

戦慄すら覚える私たちの気も知らずに、剣士の後ろの冒険者たちも満ちに満ちた我欲を口々にわめきたてる。

背中の服の裾を掴むルーリの力が強くなる。

矢面に直接さらされていない私でさえ鳥肌が立つほどなのだから、ルーリの感じるものはいったいどれほどだろう。

「――1つ聞かせろよ……」

そんな聞き苦しい欲望のコーラスに、低く水を差したのはアイサだ。

「あぁ?」

「高等冒険者になりたいってことは、アンタら中等冒険者なんだろ……」

「そうだぜ、見習いちゃんよォ。目の前にいる俺らは言わば先輩ってわけだ。それが分かったらとっとと――」

「――どうやってあの子を追い込んだ?」

高飛車な剣士の言葉を遮って、アイサは重ねて問いかけた。

「……どういう意味だ」

「初等冒険者たちに比べりゃ経験も力もあるだろうけど、でも正直アンタらに魔族と正面切ってやり合う力があるとは思えないんだよ――で、どうやって追い込んだ?」

「チッ――」

剣士は苦々しげに地面に唾を吐き捨てる。

「――ふんっ! ガキが知ったかぶりやがって! ……でもまぁそうさ、お察しの通り俺らにはまだそれだけの力も武具もねぇ。だからよ――」

一呼吸置くと、剣士は少しの罪悪感をも感じさせない、まるで自分の華々しい武功を語るような口調で続ける。

「――騙したんだよ。魔法で武器を隠し、商隊とはぐれて山道に迷った人間を装って、後ろから襲ってやったのさ!! 不意を打つのは簡単だったぜ!? 丁寧に近くの町まで先導しようとして背中を見せてくれたからなァッ!!  効率のために魔獣を騙し討つなんざ初歩中の初歩だッ!!勉強になったかよ、見習いのお嬢ちゃん!!」

怒りに、身体中の血液が沸騰したかと思った。

同時にルーリと初めて出会った山の中での出来事に合点がいく。

あの時ルーリは戦うつもりはないと言った私に対して『そうやってまた騙すつもりなんだろう!』と激昂していた。

それはまさしく目の前の冒険者たちの罠に嵌められたことが原因だったのだ。

「――みたいなのは……じゃねぇ……」

アイサが拳を固く握り締め、身体を小刻みに震わせながら何事かをボソリと呟くのが微かに聞こえた。

「はァ……?  なんだ? なんか言ったかよ、オイ?」

剣士がアイサに詰め寄って、見下したような言葉を掛けると後ろの冒険者たちが一様に笑う。

「やめとけよ、震えてるぜソイツ」

「あぁ……? ハハッ、わりぃな。そんなに怖かったかよ、ふははっ――」

――ゴッ! という鈍い音が大きく響いたのはあまりに突然だった。

尻もちを突いて後ろに倒れたのは、剣士だ。口の端が切れて、血が流れている。

静寂の中、その正面にはアイサが右の拳を振りぬくような姿勢で立っていた。

冒険者たちも私たちも、それが溜まりかねたアイサの一撃だと遅れて理解する。

「テッ、テメェ!! 自分が何して――」

「――お前らみたいなのは絶対に冒険者なんかじゃねぇッ!!」

――アイサの怒りに満ちた燃えるような眼光が、座り込む剣士を貫いた。

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