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カレーなる異世界ライフ!!

スーパー野菜人

第3話 食堂と事情

眩い光が窓から差し込んで、私のまぶたの裏を明るく照らした。

寝起きでしょぼしょぼとする目をこすりながら、私は寝ていた体を起こしてベッド脇のカーテンを開ける。

外の景色は一面が絵の具で描いたように鮮やかなオレンジ色だ。

窓を開くと山間の町に相応しい、美味しく冷たい空気が部屋の中へと流れ込む。

机の上の置き時計に目をやると朝の6時。

ここではみんな夜の9時には寝てしまうので、今日の目覚めは早起きどころか少し寝過ぎの部類に入った。

ちなみに今私がいるのはリオルさんの家の2階、6畳くらいの部屋で、元々の役割は客間だった。

だがもう、そこが昔から自分の部屋であったかのように自由に使っていて、机やらタンスやらあちこちに生活感が出始めている。

――私がこの世界へやってきてから、すでに2週間が経過しようとしていた。

「よし! 目覚めはバッチリ。今日も1日がんばらなくっちゃ」

私は机の上に置いてあった、キレイな装飾の施されたランプを持って部屋を出る。

この家には、いやどこの家でも大体は同じなのだが、夜は灯りが無く暗いので、部屋まで来るのにこの魔法の込められたランプが必要なのだ。

――そう、魔法。

この世界にはいろいろと驚くことがあったが、1番の驚きは魔法が存在するということ。

魔法というと私の中で勝手な想像ではあったが、裏の世界で限られた人数の魔法使いたちが秘密裏に研究しているといったイメージだった。

しかしこの世界では魔法の存在は隠されたものではなくて、むしろ生活の中心になってるようだ。

あらゆる生活必需品は魔法で作られているし、魔法が込められている道具だってある。そのような物のことは<魔具>と呼ぶらしい。

手に持つランプに目を移す。

(これも魔具なんだよね)

この光を灯す魔法が込められているそのランプは、手に持って「オン」と言えば灯りがつき、「オフ」と言えば消える。

そして壊さない限りは半永久的に使用できるらしい。

これにはLEDも立つ瀬がないなぁと初めて聞いた時は驚いたものだった。

私は階段を降りて厨房に向かう。そこではすでにリオルさんが起きて仕込みをしているようで作業の音がしていた。

降りてくる音に気付いたのか、野菜を切っていた手を止めてリオルさんがこちらを向く。

「おはよう、ソフィアちゃん」

「おはよう、リオルさん!」

厨房に居たのはリオルさんのみで、ロウネさんの姿は見えない。ホールの準備をしているのだろう。

私も手早く朝の準備を済ませてお手伝いに入らなくちゃいけない。

「顔洗ってきまーす!」

「支度はゆっくりでいいんだよ、ソフィアちゃん。若いんだから朝だってもっと寝てたいだろうに」

「そんなのダメです、約束したんだからちゃんと守らないと!」

困ったような笑顔を浮かべるリオルさんに背を向けて、大股の早歩きで洗面所へと向かう。

2週間前にこの家に連れて来てもらいご飯をご馳走になったその後、リオルさん達は行く宛のない私に「居たいだけ居ていい」「ここが家だと思ってくれていいからね」と言ってくれたのだ。

この世界に関して右も左も分からない私にとっては感謝しかないその言葉に「よろしくお願いします!」以外の返事は見つからなかった。

しかしただお世話になるのではいけないと思って、毎日リオルさんが経営している食堂のお手伝いをさせてもらうという約束をしている。

(早く準備して、シャキッとしなきゃっ!)

ここのお家は食堂と繋がっていて、厨房を間に挟み1階部分は生活部と食堂部に分かれている。

食堂はカウンターを挟んでホールと厨房に分かれており、ホールにはテーブル席がいくつかあって最大20名が入れる作りになっている。

生活部の1回にはリビングとバスルームがあり、ダイニングは食堂部の厨房を兼用する形だ。

私はバスルームに併設されている洗面所へ着くと、顔を洗って髪を梳かし、身だしなみを整えた。

「よしっ! 準備終わり!」

改めて厨房に戻り、私はリオルさんに指示を仰いでお手伝いを始めた。



※△▼△▼△ ※



時計が11時を指し、<ゴートン食堂>がオープンする。

ちらほらとお客が入ってきて、ホールで働く私はお客様の注文が決まり次第、それを聞きにテーブル席へと向かう。

小さい町だからこの食堂に来るのは常連さんばかりだ。

最初に私が手伝いを始めたときは興味を持たれて、色々質問されてしまいオロオロとしたものだが、今では軽く世間話ができるくらいには打ち解けられた。

「ピラフのランチセットですね。いつもありがとうございます」

平日のお昼は週に2、3回食べにきてくれる町役場勤めのダレスさんの注文を受けてメモに書く。

切り取り線がついているメモで、これをちぎって注文票としてリオルさんに渡すのだ。

いつも通りの作業――しかし、メモを終えて厨房に向かおうとした時、ダレスさんが何の気なく半ば独り言のように呟く声が聞こえた。

「今日も結構、席が空いてるな……」

「……え?」

その言葉に、私は思わず振り向いてしまう。

ダレスさんは無意識に呟いていたらしく、あっとした表情を浮かべて「ごめんごめん」と私に向けて軽く謝った。

「いやね、もう少し前まではお客がもっと来てたんだよね。それこそ外に並ぶくらいにさ。だけど最近になって減ってるなー、と思ってね」

特に悪気はなかったんだよ、ごめんね? と再びダレスさんは言う。

しかし、私が耳聡く振り向いてしまったのはダレスさんの呟きにムッとしたからではなく、むしろ私自身も全く同じ感想を抱いていたからだ。

小さい町とはいえ近くには働く場所がそこそこあるのに、ピークのお昼時でさえ席の半分ほどしか埋まっていない。

正直に言ってこれくらいの客入りでは経営が厳しいのではないかと密かに感じていた。

「どうしてお客さんが減ってしまったんでしょうか? 何か原因が……?」

原因があるなら少しでも助けになれることはないかと考えて、困ったような顔をしているダレスさんにそう尋ねる。

私の問いかけにダレスさんは言うべきかどうかを少し迷った表情だったが、1つ咳払いをして「まあ、おそらく」と前置きすると言葉を続けた。

「南側にある橋を超えた先に1軒新しいお店ができたんだ。隣町で景気が良くてこの町にも出店したって話なんだけど、なんでも量が多い上に安いらしいし、米のおかわりも自由なんだと。腹を空かせている若者にはうってつけの店だな」

「そんなお店が!」

私は道理で若い人の姿が食堂であまり見ないはずだと思った。

いつも食堂に来てくれるダレスさんも若くは見えるが、実際は30代で結婚もしていて子供もいると言っている。

それに加えて町役場での勤務はデスクワークが中心と言っていたし、体はあまり動かさないからここの食事の量で充分なのだろう。

私はダレスさんにお礼を言って、注文メモを厨房に持って行って仕事を続けた。

それからは「私に何かできることはないかな」と考えながら仕事をしていたため、多少上の空であったかもしれない。

しかし残念ことに、お客さんの量はそんな状態でも充分にさばけるほどしか来なかった。

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