好きになったのがちょっと年上で先生だっただけ
#3-4 星占い
その日の放課後。ちょっとした用事を済ませて戻ってくると、クラスメイトたちが出ていった教室に宮野先生がいた。腕を組んで窓際の壁に寄りかかり、黒板の掲示物をぼんやりと見ている。その手には私のボールペン。
「宮野先生」
入口に立って声を掛けると、先生はこちらを向いた。
「おお、遠坂。これ、返しに来た。遅くなってごめんな、ありがとう!」
「いえいえ、わざわざありがとうございます。お役に立てたなら良かったです」
「ほんとタイミング良かったよ、助かった」
先生の立っているところまで行ってボールペンを受け取ると、美桜はそれを胸ポケットには入れず手に持ったままでいた。ここでさようならだと思ったが、先生は動こうとしない。まだ何かあるらしい。
「ちょっと手出して」
不思議に思いながらも言われた通りに両手を出すと、先生はポケットから何かを取り出して私の手のひらに乗せた。見てみると、それはキャンディだった。
「これ……」
「ボールペンのお礼。と、この前の期末考査頑張ってたからご褒美。暑いから溶けないうちに食べてな!」
「わあ、ありがとうございます! 私、期末どうでした?」
「明日答案返すよ。楽しみにしてて」
先生はにこっと笑ってみせると、教室の入り口に向かって歩き始め――すれ違う瞬間、ポンポンと私の肩を叩いた。そしてそのまま通り過ぎる。
一瞬のことにドクンと心臓が鳴り、頭が真っ白になる。目を見開いて先生の後ろ姿を見つめていると、ドアから出ていきかけていた先生が急にくるりと振り返る。
「それ、他のやつには内緒な」
「あ、はい……もちろん」
「みんなが俺のところにもらいに来たら困るからさ~」
先生は冗談っぽく「ははは」と笑った。でも、人気者の先生のことを考えると、もし私が周りの友達に言ったらほんとに生徒に囲まれてしまう気がする。
「それじゃあまた明日ね」
ちょっと手を上げた先生に向かってこくりとうなずき、小さな声でさようなら、とつぶやいた。
教室を出た先生の背中が見えなくなっても、心臓の鼓動は収まっていない。先生の手の重みがまだ左肩に残っていて、思い出すと顔が熱くなるのが自分でもわかった。
どうして? いや、きっと先生にとってはこんなの何も意味のないことで……。
気にしてはいけない。そう考えようとしても、やっぱりどうしようもなく顔が火照る。
そうしてどれだけ突っ立っていたかはわからないけど、はっと我に返った私は自分の荷物を片付け始める。部活に行かなきゃ。
とそこに、ぱたぱたと足音がした。
「美桜っち~! これ、教科書ありがとう! 助かったよ~」
茉鈴だった。丁寧に差し出された数学の教科書を受け取ると、茉鈴はきょとんとした顔で私を覗き込む。
「美桜っち、なんかいいことあった?」
「え?」
「なんか嬉しそうな顔してるよ。あれ、ちょっと赤い?」
「えっいや別に何でも……ないこともないけど」
「やっぱり! なになに、教えてよ~!」
「んー……秘密」
私は茉鈴に向かってにっと笑って見せると、机の上に置いていたボールペンをペンケースにそっとしまった。
「宮野先生」
入口に立って声を掛けると、先生はこちらを向いた。
「おお、遠坂。これ、返しに来た。遅くなってごめんな、ありがとう!」
「いえいえ、わざわざありがとうございます。お役に立てたなら良かったです」
「ほんとタイミング良かったよ、助かった」
先生の立っているところまで行ってボールペンを受け取ると、美桜はそれを胸ポケットには入れず手に持ったままでいた。ここでさようならだと思ったが、先生は動こうとしない。まだ何かあるらしい。
「ちょっと手出して」
不思議に思いながらも言われた通りに両手を出すと、先生はポケットから何かを取り出して私の手のひらに乗せた。見てみると、それはキャンディだった。
「これ……」
「ボールペンのお礼。と、この前の期末考査頑張ってたからご褒美。暑いから溶けないうちに食べてな!」
「わあ、ありがとうございます! 私、期末どうでした?」
「明日答案返すよ。楽しみにしてて」
先生はにこっと笑ってみせると、教室の入り口に向かって歩き始め――すれ違う瞬間、ポンポンと私の肩を叩いた。そしてそのまま通り過ぎる。
一瞬のことにドクンと心臓が鳴り、頭が真っ白になる。目を見開いて先生の後ろ姿を見つめていると、ドアから出ていきかけていた先生が急にくるりと振り返る。
「それ、他のやつには内緒な」
「あ、はい……もちろん」
「みんなが俺のところにもらいに来たら困るからさ~」
先生は冗談っぽく「ははは」と笑った。でも、人気者の先生のことを考えると、もし私が周りの友達に言ったらほんとに生徒に囲まれてしまう気がする。
「それじゃあまた明日ね」
ちょっと手を上げた先生に向かってこくりとうなずき、小さな声でさようなら、とつぶやいた。
教室を出た先生の背中が見えなくなっても、心臓の鼓動は収まっていない。先生の手の重みがまだ左肩に残っていて、思い出すと顔が熱くなるのが自分でもわかった。
どうして? いや、きっと先生にとってはこんなの何も意味のないことで……。
気にしてはいけない。そう考えようとしても、やっぱりどうしようもなく顔が火照る。
そうしてどれだけ突っ立っていたかはわからないけど、はっと我に返った私は自分の荷物を片付け始める。部活に行かなきゃ。
とそこに、ぱたぱたと足音がした。
「美桜っち~! これ、教科書ありがとう! 助かったよ~」
茉鈴だった。丁寧に差し出された数学の教科書を受け取ると、茉鈴はきょとんとした顔で私を覗き込む。
「美桜っち、なんかいいことあった?」
「え?」
「なんか嬉しそうな顔してるよ。あれ、ちょっと赤い?」
「えっいや別に何でも……ないこともないけど」
「やっぱり! なになに、教えてよ~!」
「んー……秘密」
私は茉鈴に向かってにっと笑って見せると、机の上に置いていたボールペンをペンケースにそっとしまった。
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