好きになったのがちょっと年上で先生だっただけ

大空蒼

#2-3 恋バナ

「そういえば美桜は? お祭り一緒に行きたい好きな人とかいないの?」
 あまり聞かれたくない質問。
「私は――」
 いる、とは言えない。先生のこと好きだなんて、言えない。
「いないよ?」
 表情を変えないように、感づかれたりしないように。口の中に広がるチョコミントが、なんとなく苦いと思った。
 ポーカーフェイスは得意。この手の質問は、これまでもこれからもこうやってかわしていくつもりだった。ひとりだけ事実を知っている梨花が、少しだけ心配そうな顔をしたのが視界の端に見えたけど、すぐに戻って何も知らないように振舞ってくれている。
「そうなの? クラスにかっこいい人とかいないの?」
「うーん、今のところいないかなあ」
「美桜は私と一緒にお祭り行くんだもん! ねえ?」
 梨花が急にぎゅっと袖を掴んできたからびっくりしたけど、嬉しかった。そのまま梨花の手を取って、にっこりと柚季に見せつける。
「そうそう! 私がいないと梨花がぼっちになっちゃうでしょ?」
「そ、それは違うでしょ美桜!」
 ぶんぶんと首を振る梨花を見て、柚季と茉鈴がくすくすと笑う。
「そうだよねえ、梨花ひとりにしちゃかわいそう」
 だから違うって! という梨花の反論をふたりとも右から左へスルーしている。
「でも、好きな人できたら絶対教えてね!? 応援したいから!」
「うん、ありがとう!」
 そしてごめんね、隠してて。でも今はまだ言えない。
 仲の良い友達に隠しているのが苦しくないわけじゃないけど。先生という人を好きになった以上、むやみに話を広げたくはないし、そうしてはいけない。もしかしたら、このふたりなら応援してくれるかもしれないけど、それでも。
 さりげなく話題を逸らそうと私は口を開いた。
「てか、梨花の心配もしてあげて!」
「だよね! りかぴ、相談にははりきって乗ってくれるのに、自分のこととなると全然ダメだもんね!」
「ダメなんて言わないでよ茉鈴、悲しいじゃん~」
「どんな人がタイプなの?」
「えっとねー、優しい人?」
 話題が梨花に移ったことを感じて、密かに胸をなでおろす。ポーカーフェイスは得意とは言っても、やっぱりドキドキする。そのうちバレてしまうかもしれないこと、そしてその時に冷たい視線を向けられるかもしれないということ。
 でも、いつまでもこのもやもやした気持ちを引きずるわけにはいかない。早く忘れようと、会話に交じる。
「梨花って中学の頃は好きな男子に猛アタックしてたんだよ」
「え、何それ詳しく!」
 そのうちもやもやは消え去って、いつも通り楽しい放課後の時間が過ぎていった。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品